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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
旅の始末
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11月16日 草原の国 リーヨンちゃんの始末

 おそらく平成27年11月16日

 剣暦×○年10月16日


 草原の国グラスフィールド

 王都 僕の屋敷



 今日はメイドのイオちゃんをどこかに遊びに連れて行こうと思っていたのだが、どこに連れて行けばいいのかが朝になるまで決まらなかった。

 年頃の女の子って、どこに連れて行ったら喜ぶのだろう?

 結局、わからないことはわかる人に訊けというやつだ。

 豊後恵に、相談した。彼女が言うには「イオは料理が好きだから、調理道具売ってる店に連れて行ってあげればいいんじゃないかな?」と、あっさり答えをくれた。でも「けれど、私としてはこっちの国立博物館をぜひお勧めするけどね」とか言ってチラシらしいものを見せてくれた。

 僕も知らなかったのだが、草原の国とオークの国は数百年振りに友好条約を結び、国交が回復することになったそうだ。あれか、去年からジンさんやフレイムロード侯爵が使節として赴いていた件だ。そうか、実ったのだな。

 それで、その友好の証として、オークの国で保存されている美術品を草原の国の国立美術館に貸し出して、展覧会を行っているのだと言う。

 恵は、ただ自分が行きたいだけだと思う。いいから一人で行ってきなよ、と言ったら「入場料誰が払うと思っているんだ!」とか怒る。僕が払うとでも思っているのだろうか。

 無視してイオちゃんに今日一緒におでかけしようと相談したら、なんということでしょう、イオちゃんまで展覧会のチラシを持って「メグミ様も一緒に 皆で出掛けたい」とか言い出した。

 洗脳したんか?!

 イオちゃん美術になんか興味あったっけ? と少しいぶかしんだが、本人が行きたいというのなら、行けばいいのだ。

 というわけで、イオちゃんと恵を連れて外出。一人だけ留守番というのも味気ないので、レンちゃんも同行。4人で出発だ。

 午前中に博物館に行こうとしたら、なんと開館は午後からだった。仕方ないので近場の商店街をぶらぶら。イオちゃんは顔馴染みなのか、肉屋のおっちゃんとか酒屋のおばちゃんやらに声をかけ回られていた。卒なく対応しているイオちゃんを見て、なんだか僕の知らないイオちゃんの一面を見た気がした。

 恵はこの通り初めて来た癖にまるで馴染みの客のように物色しては商品をいじり、籠に入った果実をかじったり、パンを買いつけたりしては『あっこの巨大な男に付けといて』とか抜かしていた。しかも無駄に気を利かせてイオちゃんや僕達の分まで買って『ほれ』とか渡してくるから始末におけない。おいしいし。

 散財してしまった。

 お昼ごはんは、最近流行しているドワーフ料理を売ってる屋台で食事。

 それぞれ別々のものを注文。イオちゃんと恵は何か白っぽいヨーグルトのソースが掛ったハムみたいなもんを食べていた。レンちゃんはこの痩せた体のどこに入るんだろう? というような量の豆を食べる。僕は、この前食べておいしかったカロリーメイトみたいな四角いぱさぱさした固パンにした。

 ううん確かにうまいんだけれど、僕ドワーフの国でこんな料理食べたことないんだよなあ。でも、作ってるのはドワーフだし。

 一体これ、何の料理なんだ?

 恵の講釈では、ドワーフ料理というのは4種類くらいの流派があり、僕が食べたのは西の端の方の一番味の淡白で量が多いいかにもなドワーフ大衆料理。ここの屋台で売っているのは東端の一番険しい山脈の中ではぐくまれたドワーフ本流料理らしい。違いがわからん。

 お腹も膨れたところで、早速美術館を巡る。

 恵は今回目玉の展示品である『リーヨン1世龍臨図』が見たかったらしい。


 去年の秋の話だ。僕の友達のオークと人の混血のリーヨンちゃんが、オーク王族の血を引いていることがわかり彼女をオークの国に届けた。リーヨンちゃんが王の妹である証として、彼女は仲間と共に国から紛失した秘宝エターナルウォーターを見つけ出す冒険に出る。そして、旅先で知り合った犬頭人ジジン・ムーゲン・メロディアと共に竜王メルディナンの背に乗って王都へと凱旋したのだった。


 オーク一の芸術家ビア17世は、まさに龍が降り立つその情景を目撃したことを後世に伝えるために、その情景を一枚の絵画にしたためた。

 そんなものが、今草原の国の美術館に来ているというのなら、これは見なければいけない。

 けれど、その絵の公開日は明日からだった。恵はあからさまに悔しがっていた。下調べちゃんとしないからだばーか。


 その後は、他の展示物を見てまわっていた。

 恵はそういうの大好物らしく、各美術品に寄っては涎出しながら見入り、付いて来ている僕に講釈を垂れた。イオちゃんはただ僕の後ろに従って恵の言葉を聞いたり、僕を見てたり、たまに絵画に目をやっていた。

 レンちゃんはこういうの全然興味ないのか、先に博物館出口に備え付けられたカフェで僕が自分の財布から半分渡していたお小遣いでホットドッグ買って食べてた。おかしいな、ダークエルフは金銭で物を買うという文化を持たないんじゃなかっただろうか。レンちゃんって食いしんぼキャラだったっけ?

 小憎らしいことに、恵の美術品講釈は面白かった。

 オークの国の美術品について、どうしてそのデザインが素晴らしいのか、何故価値があるのかを、時代背景や、作者の人物象、オークの価値観などから面白く説明してくれる。時折声が大きすぎるのか、博物館内を見回るいかにもカタブツそうな学芸員の女性から睨まれたり注意されたりしていた。

 一番面白かったのは、一番広い展示室の壁を一面占拠した巨大な油絵。

 牙のないオークとライオンが素手で取っ組み合いをしている絵。

 題名に剣語訳がついておらず妙に長いオーク語のプレートがついていた。

 恵は興奮した様子で色々まくしたてた。

 この絵に剣語訳がついていないのは、剣語で対応できる単語がないからであり、意訳しようにもこの絵がどのような意図で描かれたものかが判明しておらずただしい解釈が未だに存在しないからなんだとか。

 しかし、恵はそれがかつて、二代オーク王と獅頭人レヴァンティンの頭領の対談が決裂した様子を描いた風刺画なのだと言っていた。この絵を描くように命令されたビア1世は、レヴァンティンの野蛮さを表すためにオーク王に飛びかかるライオンを『描かされた』のだが、それに反発し、構図の中心にライオンを持ってきて、オークがライオンを力で押さえつけているようにも見える絵にしてしまったのだと言う。牙がないのは、元々折れた牙(無能、怯えの象徴)を描いていたのを『それはちょっとやり過ぎだろ』と後の世の誰かが修正した後なのだと言う。

 なんでそんなこと知ってるのか訊くと「そりゃ、660年前にビア3世が絵の修復と称して、まずいところを修正するところを、私は見ていたからね」とか自慢げに言う。そういや、この子不老不死だったな。

 と、そこまで喋ったところで、さっきの学芸員さんが恵の方を恐ろしい形相で睨みながらぎりぎりと肩を掴んだ。あ、大きな声で騒ぎすぎたかなと謝ろうとしたら『今のお話、詳しく訊かせていただけますか?』と、知識欲に滾った瞳で恵を貴賓室に連行してしまった。ああ、この世界の学者って、そういうの知るためなら親でも質に入れかねないからな。恵頑張れ。

 その後、イオちゃんと二人で美術品を堪能し、ホットドッグを3本平らげたレンちゃんを連れて金物屋へ行く。

 イオちゃんはやっと目を輝かせて、「この鍋が欲しい」というので買ってあげた。レンちゃんにも何か欲しいものあるか聞いたが何を言っているのかわからないという顔をされた。あれ? どうやら『カンテラ様の所有物である私が何か欲しがるんですか?』というような感じだった。いや、さっき飯は欲望の限り食ってたじゃん。

 帰宅。イオちゃんが早速新しい鍋でソーセージ煮込みを作ってくれた。「メグミ様の食事が余るんですが、どうしたらええですか?」と訊かれたが、僕の経験上多分今日は帰ってこれないだろうから、レンちゃんと半分こして食べることにした。そうか半分こなら、何の問題もなくダークエルフ下僕は食べるらしい。

 明日は、もう一度美術館に行く。リーヨンちゃんの晴れ姿を見ておかねばならない。それに、絵画のどっかにはジンさんも描かれているはずだから、ちゃんと見てジンさんに教えてからかわなければならないのだ。楽しみ。

 イオちゃんをもう一度誘うと家事があるからと固辞された。「今日は楽しかったです。鍋ありがとうございました」と言ってくれたが、本当に楽しんでくれたのかなあ。ただ、イオちゃんの鼻歌なんて初めて聞いたからテンションはあがったみたいで何より。

 レンちゃんは「最近思うのですが、カンテラ様とメグミ様は、キャラが被っていらっしゃいますね」とか恐ろしいことを言い出した。罰としてクッキーの夕方の散歩を頼んだら、王都を一周走ってきた。タフだな、こいつ。


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