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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
旅の始末
312/363

11月10日 草原の国 レミィちゃんの始末


 おそらく平成27年11月10日

 剣暦×○年10月10日


 草原の国グラスフィールド

 王都 僕の屋敷



 昨日の馬鹿騒ぎが終わって、月明かりを頼りになんとか家まで帰宅。風呂にも入らず布団に倒れ込んだところまでは、覚えている。

 次に気が付いたら、お昼すぎ。

 外は晴れ晴れとし、気持ちのいい風が入っていた。

 ただ、寝相が悪かったのか、掛け布団をふっとばして寝ていたので、なんか体が冷えてる。うう、喉が痛い。

 イオちゃんが僕の眼ざめに気付き、塩のスープを持ってきてくれる。これが体に沁みる。やっぱり、酒の後は塩分だね。そりゃ体壊すわ。

 そういえば、屋敷が妙に静かだなと思って恵とレンちゃんはどうしたのかを訊く。

 恵は、いつものように王城に行き、歴史学者に数百年前の出来事を実際に見てきた者として色々喋るバイトに行ったそうだ。僕より飲んでるだろうに。聖剣に寿命だけでなくもっとおかしなものも斬られてるんじゃないだろうか。

 レンちゃんはと言うと、これが奇妙な話で、「先ほど、ドワーフのレミィさんが来はって、レンを借りて行った」とイオちゃんは言う。

 なんでレミィちゃんが? 彼女、まだドワーフ国大使館の駐在武官だったからこの国にいてもおかしくはないけれど、レンちゃんに何の用が? 

 第一、レンちゃんは一応僕の下僕と自称しているのに、僕に無断で外出するというの妙だ。するとそれが顔に出ていたのか、イオちゃんが「レミィさん、個人的に案内人としてのレンに頼みごとがある言うてた。旦那さんだったら起きててもどうせ『行け』言うのわかってたから、代わりに行け言うておいた」

 さいにございますか。

 しかし、個人的に案内人としてのレンちゃんに頼みごとってなんなのだろうか。確か、レミィちゃんはドワーフ語しか話すことができなかったから、この国の公用語である剣祖共通語でのコミュニケーションはとれない。そうか、なら通訳として、異国の人同士をつなげる案内人としてレンちゃんの協力を仰ぐというのも得心がいく。

 そうか。

 レミィちゃんも、人間と関わりを持ちたいと思う出来事があったのかなと思うと、ちょっといいなと思う。



 ※※


 それからやっとこさ体を起こして、汗を流すと、もう午後が半分過ぎたくらい。おやつの時間だ。

 そしてそれを見計らうように豊後恵はバイトから帰ってきた。

「今日のおやつは何かな、ただいま」

 言う順序が逆である。

「今日はホットケーキっぽいものだよ、おかえり」

 三日前、イオちゃんに「僕の世界にはこれこれこういうホットケーキってお菓子があるんだけれど、作れる?」と訊いてみたら、なんと今日試作品1号が食卓に出されることになったのだ。相変わらずイオちゃんの才能は飛ばしている。

 恵も僕と時代の近い世界から飛んできた日本人なので、ホットケーキの存在は知っている。というか、好物だったらしく

「マジ?! この世界にホットケーキあんの?!」

 かなり、興奮の様子。

 しかし、口語で説明を受けただけの異世界人が作ったものだ、果たして想像通りのものができるかは……。

「旦那さん できた」

 キター。

 イオちゃんが、僕と恵用に持ってきてくれた2枚の皿には、かつて地球にいた時の記憶を呼び覚ます、分厚い生地のケーキ。

「ふんわりとした食感出すんに苦労した」

 イオちゃんすげえわ。なんで僕なんかのメイドしてくれてるんだろう。

「高町君、食べよう。早く食べよう。我慢できないいただきます!」

 恵のテンションもなんか上がってる。

 実食。

「いただきます」

 ぱくり。

「おいしい……? うん。おいしいんだけれど」

 鰹ダシの味がした。

 あれ? 甘くない。

「高町君」

 とても神妙な顔をした恵が一口目を飲みこんでいった。

「これ、お好み焼きだね」

「ああ、お好み焼きだ」

 いや、うまいんだけどね。

「旦那さん、違うん?」

 イオちゃんの疑問符に、もっと甘くて魚の出汁は入らないことを説明。はちみつとか甘い物をかけるとなおよし、と意見具申。

「また作る」

 と言って、イオちゃんは台所へと帰って行った。

「高町君、今のはまずいんじゃないのかい? せっかく作ってくれたのに駄目だしばっかり」

「前にも同じことがあって、遠慮をされる方が嫌だと言われたんだよ。しっかり違うとことは違うと言ってくれた方がいいって性格らしいよ」

「それでも、ありがとうくらい言ってあげなよ」

 そう言われると、まったくその通りなのである。


 完食。食後のお茶を持ってきてくれたイオちゃんにしっかり「ありがとう、美味しかったよ」と報告。イオちゃんは、まったく表情を変えず「ならええ」とだけ。多分、機嫌がいい時の物言いだ。

 そんなこんなで皿が下げられて、御茶を飲んでいると恵が思い出したようにレミィちゃんのことを訊いてきた。

「そういや、君がぐーすか寝てる時、レミィ・アンダーテイカーとか言う小娘が訪ねて来たぞ。どうやら君の顔見知りみたいだけれど、レンが一緒に出掛けたよ」

『うん、イオちゃんから聞いたよありがとう」

「しかし、あの娘何者だい? 私は初対面だと思うけれど」

「ドワーフだよ。全権使節の護衛で大使館に詰めてる」

「ドワーフっ?!」

 え、そんな驚くところ?

「口元にヒゲが一本も生えてなかったよ?! ただのボーイッシュガールだったけれど」

 ああ、そういえば知らない人から見たらそうか。

「髭が生えない体質なんだってさ……。と言うか、君だって700年か800年か生きてるんだから、髭の生えてないドワーフくらい何人かいたでしょ」

「いや、見たことない。ドワーフなんてのは、生まれた時から口元に産毛を貯えてるものだ。少なくとも、私はこれまで無毛のドワーフなんて見たことない」

 そうなの? すると、恵は妙に深く考える表情になっている。

「確かにヒゲの生えてないドワーフという話は知っている。けれど、そういう人は付け髭を付けないと表を歩けなかったし、そうでなければ家の中に閉じ込められて一生表に出ないもんだと思っていた」

 思わず、ツッコム。

「いくらなんでも、ドワーフがそんなことするわけないでしょう」

 恵は妙に深く考える表情のままだった。

「ドワーフはそんなことしてたんだよ。私が現役の冒険者だった頃は」

 ……。

「今から、700年くらい前。ドワーフの国バーンスタインがまだ不安定だった頃の話だ。その時はまだドワーフと言っても、30種類の言語が存在し、違う神話を伝え、違う斧の意匠にこだわっていた。それを一つのドワーフという種族に収束させ、種族と国を同一化させる作業の真っ最中だったからな」

 ……。

「で、全ての言語の中から共通する単語やイントネーションをかき集めてドワーフの『共通語』というものを作ったり、民間伝承をより集めまくって一つの神話体系にしたり、国内における斧の共通規格を作ったりという作業を、当時の国王に頼まれた私とライオネルでしたんだけどね」

 すげえな。

「それでも、私には個人の心の内側にまで立ち入ることはできなかった。具体的に言えば、【ヒゲのないドワーフは恥ずかしい】という価値観を変えることはできなかった」

 ……。

「でも、そうか。今は、そうなのか」

 ……。

「堂々した娘さんだったね、あのレミィって子は。いくつになる子だい?」

「29歳」

「嘘だろっ?! ロリババアじゃん」

 お前が言うな、750歳。

「まあ、肉体の成長自体は19歳で止まっているんだけどね」

 いいよそんな情報。


 そんなくだらないおしゃべりを続けていると、レンちゃんが一人で帰ってきた。

 何の用だったのかを訊くと「企業秘密」としか教えてくれない。

 顧客情報の保護という奴だ。恵がそのやりとりを聞いて

「ダークエルフとして忠誠を誓ったくせに、案内人としての仁義を通そうなんて、ダブルスタンダードじゃない?」

 とか茶々を入れる。けど無視。どうせ恵は自分が知りたいから、僕に訊かせようとしているだけなのだ。

「いいんだよ。カンテラの下僕は、そんなゆるゆるの価値観してれば」

「ガバガバな軍団だなあ」

 ガバガバ言うな。


 しかし、本当を言うと、僕も気になる。


 


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