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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
目指せ退位! オーバーフラッグ王カンテラ編
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7月4日 750年前 ドラゴリーナ・エクスキューダーの話

 最初の異界漂流者ドラゴリーナの本当の名前を知る者はいない。


 当時のエルフ領フロッグワード最西端、真の中心にある活火山(今で言う、ドワーフの国バーンスタインのレスナー山脈未踏破地帯旧火山)の麓

 彼女は、獣頭人の中で最も大きな勢力を持っていた、フォン・レヴァンティン族の集落に現れた。

 半壊した甲冑を身に付けた半裸の女性が、空から落ちてきて、組体操の練習中だった獅頭人の集団の上に落ちてきた。

 その来ている服や顔の形から人間ヒューマンであることはわかったが、問題は、このラドゥバレトフ世界には、黒髪の人間は当時存在しなかったということだ。(今はいる。おそらく彼女の子孫が世界中に散らばったため、その因子もねづいたのだと思われる)

 当時、この世界で髪が黒いのは、剣祖カンテラだけであり、彼は子孫を残さずその血筋は途絶えたことを考えれば、彼女を神の再臨と崇め讃える方向に話が進むのが人情だが、そうはならなかった。

 彼女は無駄に高いコミュニケーション力で、即行で獣頭人の言語を覚え、この世界の理論を知るや、子分として従えた一人の獅子を連れて、旅に出てしまったのだ。

 この世界の端から端までを見ると言って、本当に、何十年もかけて、大陸最西端グラスフィールド剣峡から、フロッグワード東北端神殿まで、全部を見てまわった。すべての種族と出会った。ありとあらゆる酒を飲み、ありとあらゆる絶景を眺め、竜を筆頭とした未だ世界に残る幻想生物達を調べた。多くの人達に出会い、限りなく学び、世界中の言葉を学んだ。

 中でも、絶滅したとさえ噂される大陸に存命する竜の数を調べあげ、彼らの居住地、生態をまとめ一冊の本にしたためたことは、偉業といってもいいかもしれない。

 世界中に彼女の逸話が残る。この世界の人々に、異界漂流者が旅人であるというイメージを植え付けたのは彼女であった。

 同時に、危険な存在でもあると思わせたのも彼女だった。

 彼女が旅の道中につけた日記には、どこにどれだけの竜がいて、秘密結社『魔女共』が回収できていない魔道具がどこにあるのか、各地の王族達はどんな性格をしているのか、この世界の全てが書かれていると言ってもいい代物だった。

 彼女の旅の後半は、それを狙う悪党共の撃退と、逃亡に費やされていた。

 多くの仲間が、彼女と共に旅に出た。

 多くの仲間が、彼女と冒険をして、伝説を作った。

 多くの仲間が、彼女より先に逝ってしまった。


 この世界の全ては、彼女を知るようになったが、彼女の名前だけは、誰も知らない。

 前述したドン・ウドンとは違い、彼女は五ヶ国語ぺらぺらだった。けれど、名前を口にしたことはないし、彼女がこの世界に現れる前にどこにいたのかを、口にすることもなかった。

 だから、皆彼女のバックボーンを好き勝手に想像したし、その正体を色々妄想していた。しかし未だに結論は出ないようだ。

 彼女も、自分の名前も正体も求めなかった。(前にいた世界にいい思い出なかったのだろうか?)

 だから、皆が彼女をあだ名で呼んだ。


 何者でもない女、ゼロ

 天より現れた、神の世界の乙女

 世界に発令する者・エクスキューダー

 剣祖を継ぐ資格者・ランタン

 しかし、彼女自身が気に入って特に名乗る必要がある時に口にしたのが、ドラゴンの友人という意味で言った『ドラゴリーナ』であった。 


 彼女の晩年は、世界各地に残る竜の巣を定期的に回ることに使われた。

 何か気が合ったのかもしれない。

 足腰が立たなくなるまで、彼女の巡礼は続いた。

 最後には、終生の友とされる獅頭人ライオネル・フォン・レヴァンティンに背負われて火山を登り、その頂上に住む竜王メルディナンの巣を訪れたという。


 彼女が老衰で死んだあと、彼女が残した旅日記は、分断主義のこの世界にはまだ早すぎるとして、処分することが決まっていた。ドラゴリーナ本人が、それを望んでもいた。

 彼女の葬儀が済んだ後、その旅日記は、火山口に放りこまれ、彼女がこの世にいた痕跡は、人々の思い出と口伝の中に残るのみである。



 表向きは、そういうことになっている。

 しかし、実はその日記は今も残っているのだ。

 ライオネルは、友達が生きた証を捨てることなんてできず家に持ち帰って秘伝にした。

 そして、それから後に氏族ごとに案内人を務めていた獣頭人を束ねて、職人組合を作った時は、その日記を写本して、旅の教科書として教育に利用したということだ。



 ライオネル・フォン・レヴァンティンは、155歳まで生きて、うっかり火山口に落ちて死んだそうだ。

 獣頭人最高齢記録だと言う。

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