6月15日 紋の国 ゴダバ陛下、王城に連行される。明日、広場で演奏会。
おそらく平成27年6月15日
剣暦×○年5月15日
紋の国オーバーフラッグ
横一文字街道第9宿場町 つまり 王都ダブルイーグル
裏町のガンツ親分宅で泊めてもらう。
ゴダバ陛下は、『コンサートが終わるまでナッシュ達には黙っていてくれ』とか言うけれど、皆陛下のことを心配しているのだから、無事であることは伝えなければならない。
朝、こっそりゴリラさんを城に使いに出したら、朝御飯後くらいには、近衛騎兵連隊が駆けつけた。ゴダバ陛下からは裏切り者呼ばわりされたが、表返っただけのこと。
騎兵につれてかれそうな陛下は、『頼むからコンサートだけは無事にさせてやってくれ』とか言うので、取り残されたテ・ケロムーチョ楽兵団の面倒を僕が見ることに。
とりあえず、昨日匿ってくれた裏町の顔役のところにもう一晩お願いする。
すごく苦々しい顔をしていたけれど、観念して泊めてくれた。
かつてこの世界であった大きな戦争。
行き場を失くし戦場を巡る4人の傭兵。【小人工兵】【人間歩兵】【人間弓兵】【大鬼歩兵】
彼らの元にある日現れた異世界人の少女の行き倒れ。
戦争に明け暮れる世界を5人で流浪している内に、少女が提案した。
戦いに疲れた人達のために、演奏会を開くことを。
演奏者は、楽器なんか触ったこともない4人の傭兵。そして少女。
誰からも相手にされず、笑われながらも、半ばやけくそ気味に開幕した素人コンサート。
あまりの下手さに物を投げられ追いまわされ、命からがら逃げのびた5人。
逃げ延びて、生き延びた後、頭にトマトをぶつけられたままの少女が、異世界の言葉で仲間に言った。
「テ・ケロムーチョ」
世界各地を巡って演奏旅行。いつしか、彼らの悪名は世界に響く。
いつしか、病に少女が倒れ、残されたのは4人の傭兵。
それから幾数百年。
テ・ケロムーチョ楽兵団は、現存し、当代のメンバーは今僕と共にいる。
今日は、小屋の中で演奏の準備。世界一下手な楽隊と言うからどんな音を出すのかと思ったら、ウォームアップや練習を聞く限り、滅茶苦茶上手だった。
弦楽器の準備をしているのリーダー格っぽい【小人工兵】と少し会話できた。
・彼ら四人は、それぞれ国の音楽学校で教育を受けた一流の音楽家
・普通に演奏もできるのだが、初代の演奏をそのまま完全にコピーしているため、同じ場所で間違えたり、寸分たがわぬ下手くそな音色を出せる技術が求められる。
・何故そんなことをするか? それは、楽兵団の目的が、異世界の少女が何故我々に『テ・ケロムーチョ』と言ったのかを理解するために、音楽を続けているからだから。
そこまで説明してくれると、初代から数えて78代目【小人工兵】は、横でリズム練習をしていた57代目【人間弓兵】とセッション練習を始めた。
ふと、彼らに『テ・ケロムーチョという言葉の意味は、もうわかってるんですよね』と訊いたら、『もちろん』と返事が返ってきた。
……だったら、その女の子がどんな気持ちだったかなんて、もうわかってるんじゃないのだろうか。もちろん、そんなこと訊かないけど。
明日、朝この大広場は人でごった返す。
そこでゲリラ演奏を始めるとか。
ちょっと、楽しみ。