5月29日 紋の国 新王様、宰相に議会に提出する予算案について説明を受ける。
おそらく平成27年5月29日
剣暦×○年4月29日
紋の国オーバーフラッグ
『決して朽ちぬ城』
紋国の上層部は、若者が多い。
まず、宰相は僕と同い年の29歳だった。
今年の1月に僕に呪いの虫を飲ませようとした外務卿ブレイズは僕より若い。
会ったことはないけれど、財務卿、道路卿(建設大臣のようなもの)、近衛総軍司令などのこの国の中枢に位置する人材は、だいたい30前後で構成されている。
平均寿命は地球よりも短いとしても、国家組織の長にしては若い。
宰相にその話を振ると、そもこのヤングエリート集団は、ゴダバ王が王子だった頃からその庇護の下d、勉学を共にしてきた貧乏貴族の五男坊だの家名を継ぐだけ継いだ若者達で、王の即位に合わせて要職についた子飼い達だった。
なるほど、先王に恩があるから僕のこと嫌いで顔を合わせようとしないということかな、と思ったら、宰相曰く『いえ、5月議会が始まるので準備でそれどころではないのでしょう』とのこと。
議会あんの?
宰相曰く『陛下が毎日読まれている書類も、議案書 (案)のはずですが』
ああ、あの書類そういう意味だったのか。日常生活程度の読み書きしかできないから、さっぱりわからんかった。
やばいな、全然読めてない。
別に僕が議会で答弁するわけでないし、読めてなくても宰相以下優秀な人材がどうにかしてくれるんだろうけれど。
一応王様なので、わかっていなければ。
おかげの今日の昼からは何にもないし昼寝でもしてやろうと思ったのだけれど、必死で書類を読み返す。
? マークの連続だった。
なんで同じ場所の道路改良事業に対して一般会計と特別会計から予算が付いてるのか、神殿修繕事業は前年度は予算を2割しか消費してないのに今年度満額付けるのは何故か、ドワーフ法 (不法入国者のドワーフ激増に対する対策法)を回生することでどういうメリットデメリットがあるのか、収入の各国から協賛金って一体何の協賛なのか、とか。
宰相におそるおそる訊くと、全部解説してくれた。
説明を聞くと、ああなるほど全て理由があってのことで、必要な措置なのだと納得できる。
いや、しかしこの人説明がうまい。よくわかってるし、それを人に納得させる話術もある。
自分が完全に理解していないと、他人が理解できるようには説明できない。
ほんに、優秀な人なのだろう。
しかし、彼も忙しい身だろうに、僕なんかの素人問答に付き合わせてなんか悪い。
書類を一通り質問し終わり、『では』と退室しようとする宰相に謝った。
『余計な時間を取らせてしまってごめんね』
すると、彼は怪訝な顔でこう返す。
『この国の天辺にいる御方が、この国のことを知ろうとされるなら、それを御助けするのは当然のことでしょう?』
だってさ。でもその後
『……ゴダバ様なら、こんなことないのに』
とか小声で言ったのは、僕の耳にも聞こえてしまった。
宰相が出て行って、一人になって溜息をついたら、急に誰かが僕の肩を掴んだ。
びっくりして後ろを見ると、御世話係のメイドさん。
急にどしたのか。
何故か、僕の肩を揉み始めた。労ってくれるのだろうか。しかしこのメイドさんも距離感のちぐはぐな人だ。
上手だった。