3月31日 エルフの国 明日王都を発つ 【ミキテル】という言葉の意味がわかる
おそらく平成27年3月31日
剣暦×○年2月31日
エルフの国フロッグワード
王都オトヤ 秘宝探索委員会本部の仮眠室にて
海エルフの漁村に行くという話をジンさんとしてから二日経つ。
「おい、いつ出発するんだ?」とジンさんに訊かれて何の準備もしていないことに気付く。いかん。ジンさんが傍にいると何でもやってくれてたから、ついサボってしまった。でもそれを口にすると怒りそうだから、色々他の情報が入ってくる可能性もあって出発のタイミングをはかっていたのだ、とかそれっぽいことを言ってみた。
「どうせ、俺が傍にいるから、気が抜けて何もしてなかったとか考えてたろ」だってさ。お見通しか。
ジンさんが黒王馬車の手配をしてくれて、明日の朝、関門街ハヤに向けて出発することにした。
ジンさんとレンちゃんを連れていく。
タマちゃんに留守番を頼むと「仲間はずれにすんにゃ!」と怒るけれど、僕達がいない間に王都で状況が変化したら、一番対応できるのはタマちゃんだからいてもらわないと困る、と説明すると了承はしてくれた。
「ツッコミ役が増えたら、私なんかお払い箱ってことにゃ」とか小声で呟くの止めて欲しい。多分、僕が堪えるのわかってて言ってる。
まったく、言葉になんてしなくてもタマちゃんが僕に必要な人だってわかってくれてもいいと思うのだけれど。
レンちゃんは、静かに僕の後ろに立ってるだけで「明日出発しようと思うんだけれど」と伝えても「はい」とそれしか言わない。あ、最初に僕達と会った時みたいなテンションの低さだ。
【ミキテル】という言葉の意味がわかった。
ジンさんにふと「【ミキテル】ってこの世界の言葉なの?」と訊いてみたら「エルフ語で【強さ】と【弱さ】という意味」と返ってきた。
……え? エルフ語で意味ある言葉だったの?
なんで誰もそのことを言ってくれなかったのだろう。
ちなみに強さと弱さってどういうことか訊くと「エルフ語では【強さ】と【弱さ】を同じ【ミキテル】という言葉で表す」ということなんだとか。
反対同士の言葉の使い分けは「文脈から判断する」そうだ。マジっすか。
……。エルフにとって、強さと弱さは一緒なことなのだろうか。
しかしその言葉からは、秘宝の姿かたちが浮かんでこないなら、教えてもらわなくてもよかったのかもしれない。いや、やっぱり情報は多い方がいいから、知っててよかったのだ。
きっと。多分。
その後ジンさんに「じゃあ、エルフからしたら、観照って言う僕の名前は【弱さ】って意味になるわけ?」と笑ったら「……そうだな、両方いるだろう。お前に【強さ】を見出す者も、【弱さ】を見出す者も」なんて言う。
やめてよ恥ずかしい。