3月28日 エルフの国 エルフ典礼局 書庫で一晩明かす勢い
おそらく平成27年3月28日
剣暦×○年2月28日
エルフの国フロッグワード
王都オトヤ 典礼局書庫
朝一番にエルフの代筆家がやってきた。
無口な若い女のエルフだった。
まあ、若いと言っても僕より年上なんだろうけれど。
しかし、この人剣祖共通語を書けるけれど、喋れないようだ。
まず、僕が口にした言葉をジンさんがエルフ語に通訳。
それを聞いた代筆家さんが剣祖共通語で文面に起こしてくれる。
綺麗な字で代筆してくれるから代筆家さんに頼むわけだが、文面を覗くと、なるほど、美しい字なのだがところどころ誤字がある。もしかして、間違っていることに気付いていないのでかも。エルフの国の代筆家が、剣語の手紙を書き慣れていると思えず。
そりゃ、こんな遠く離れた地で異国の言葉が通じること自体奇跡的なわけで、送り先は僕の知人だしまあこのままでいいか、と誤字脱字の類は無視することにした。
が口語筆記をしている最中に、代筆家さんが筆を止め、僕になんか言った。
エルフ語わからんっつうに。
ジンさんが訳して曰く【なんで、字が違うなら指摘しないのですか】だってさ。
どうも、代筆家さんには、僕が手紙の文面を覗きこんでにんまりしてたのが、誤字を見て嗤っているように見えたらしい。
いや、そんなの気のせいじゃん。というか、プロの物書きが誤字笑われて怒るなんて筋違いだっつーの……、とは言わない。荒波が立つ。
色々話した後、今度僕が剣語を教えてあげることになった。
……いいんだろうか?
ちなみにその代筆家さん、代筆稼業初めたばかりの駆け出しで、名をヨリナ・ガ・ラ=セツと言うそうだ。
テッサイ宰相の5親等くらいになる女性みたいで。
あんちくしょう、縁故人事しやがって。
まあいいや。
とりあえず、シズカちゃんとトモエちゃんに出す手紙は書けたし、城下町にあった魔女会社オトヤ支部で魔女封印郵便で早速出してきた。速達書留よりも、ワンランク上の封印郵便なら明日にも届くだろう。
その間に、秘宝探索も同時進行しておく。
グーさんのことだから「吉兆竜の住処? ワシそんなの知らんぞい」くらい平気で言う。
さて、最後の七ヶ所。
こういうのは、一つずつ確実に潰していくに限る。何しろこちらには手数がない。
ジンさんレンちゃんタマちゃんのカンテラチーム3トップしかいないのだ。
二手に別れるにも、まともにエルフの国を歩けるのはジンさんくらいだろうから、実質1パーティで行動しなければならない。
そこで、エルフ領北東端にある神殿について調べることから始める。
まずは冠婚葬祭を司る典礼局の書庫でその神殿について調べることに。
昼からジンさんを連れて書庫をうろちょろ。
流石プロってるジンさんはお目当ての書物を的確に集めてはがんがん速読していく。
元々こういう考古とか文化とかそういうの大好き犬だから、夢中で読んでた。
僕も、それっぽい本を探すが、だからエルフ語読めないつうの。
そう言えば、禁書があるんだよなあ、と思い、ジンさんを介して【僕、カンテラなんですけれど禁書区域入っちゃ駄目ですか?】と訊いたら【駄目です】と言われた。
にべなく断る姿にも優雅さがあるのだから、エルフというのは始末におけない。
日没。
そろそろ閉館時間だろうかと思ったが、司書さんは【探し求める者に、我らは扉を閉ざしません】とか言って司書席から動こうとしない。
まさか、僕らの気が済むまでいていいってことだろうか。
ついさっきまで西の空に浮いていたと思った正座が天頂に来ているのに気付いて、ジンさんに「そろそろ帰ろうよ」と言ってみたのだが、「すまないもう少しだけ」と10回くらい延長を求められた。
この人こういうの好きだからなあ。付き合わないわけにもいかず、僕も書庫の机で、星灯りを頼りに日記を書いていたら、司書さんが蝋燭と暖かい飲み物を持ってきてくれた。
この時ほどエルフ語で【ありがとう】を言えるようになっていてよかったと思うことはない。
ついでに毛布か寝床も所望したいところだが、そんなエルフ語は覚えていなくてよかったと思う。