3月27日 エルフの国 お腹を突っつかれている時に名案浮かぶ。
おそらく平成27年3月27日
剣暦×○年2月27日
エルフの国フロッグワード
王都オトヤ 秘宝探索委員会本部の仮眠室にて
僕が寝泊まりしていた客間が秘宝探索委員会本部になってしまい、部屋の隅っこに追いやられたベッドの周りをカーテンでしきって仮眠室ということにしている。
でも、いつまでもベッドでごろごろしているわけでない。
僕が日記を書いていたりした文机が本部デスクとなり、僕のまとめたメモとエルフ領フロッグワードの地図が広げられている。
部屋には、僕と猫頭人のタマちゃん。
他のメンバーは全員所用で出払っているので仕方ない。というか、あとは犬頭人のジンさんとダークエルフのレンちゃんくらい。
さみしい。つい四、五日前までは大軍団がいたのにな。
さて、まずはどこから探索にでかけようかと地図とにらめっこをしていると、突然タマちゃんがお腹を突いてきた。
曰く「見た目以上に柔らかい、にゃ」
この子いきなり何すんだろう。
曰く「なんか、柔らかそうだったから、つい」
柔らかそうなら触っていいなんて理論が通用するのは、ここが異世界だからか。
正直、この世界に飛ばされる前、日本にいた時もよくお腹とか背中とか二の腕をつままれたりつつかれたりはされていた。
僕の体は大き過ぎる上におっとりした性格も加味されてか、男の同僚とか、地元の若い子とか、おばちゃんとか、酔っぱらった女の子とかがぷにぷにぷにぷに。
触られるのに慣れているせいか、タマちゃんの暴挙を無視して地図を眺めていると、ジンさんとレンちゃんも帰ってくる。
タマちゃんが僕の脇腹を突いているのを見て、戻ってきた犬頭人とダークエルフは興味ありそうに見ている。
それでも放っておいて悩んでいると、新しい感触。
ジンさんまで僕の背中を摘まんでいる。
曰く「心地よい弾力だな」
人の体だと思ってぷにぷにぷにぷに。
タマちゃんが「もしかして、レンの乳房より柔らかいんじゃないかにゃ?」とかほざくので「そこまで柔らかくはないよ」とツッコミを入れたらタマちゃんが少し震えた声で「触ったことあるのか、にゃ?」
ち、ちげーし、一般論だし。
こういう場合、ダークエルフの性格からして「触ってみます?」とか言いかねないとおもったら、やっぱり僕達から一歩離れて光景を眺めていたレンちゃんが「触ってみます?」とか言い出した。
触らねーし。
しかし、レンちゃんはもっと堅物なキャラだと思っていたけれど、こんな冗談にも付き合ってくれるんだな。
最終的に、レンちゃんは自分と僕の二の腕を揉み比べて「うーん」とか唸っていた。悪いけれど、その話をそれ以上広げる気はない。
揉まれながらタマちゃんに「そのでかい図体じゃ隠れられるわけねーし揉まれても仕方ねーにゃ」と言われた時、ものすごいアイデアが閃いた。
※※
「ジンさん、ミキテルの見つけ方を思いついた!」
タマちゃんにほっぺたを突かれながら僕がそんなこと急に言い出したから皆びっくりしていた。ジンさんは僕の想い付きとか慣れたものなので、「言ってみろ」と促してくる。
「この世界に、ミキテルの正体を確実に知っている人が一人いる」
ちょっと煽るように言ったから、ジンさんも食いついて来る。
「俺も知っている人物か? エルフ領で知り合ったエルフか誰かか?」
「エルフじゃない。ついでに言うと人間でもない」
「……ドワーフ、いやホビットの忍びか? 違うな……オー、いや、お前まさか獣頭人が知っているとか言い出すんじゃないだろな」
「ドラゴンだよ」
「……」
ジンさんは少しの間沈黙して
「まさか、吉兆竜のことを言っているのか?」
正解を口にした。さすがジンさん。僕の気持がよくわかっている。
「そう。だって、秘宝ミキテルが次代のエルフ王の手に触れた時、王位継承を祝福しに吉兆竜ファインドランダムが降りてくるんでしょ? だったら、吉兆竜はミキテルを見たことがあるはず。それで言われた通りのものを探してニオ姫に渡せばいいってことじゃん」
普通なら、こんなこと言えば「駄目だこいつ」的に頭を抱えられるところだが、ジンさんは僕が普通でないことを知っている。
「……わからないことはわかる人に教えてもらう、か。お前らしい。けれど、そもそもどうやって吉兆竜に会う気だ? ファインドランダムがどこに棲んでいるかなぞ、お前は誰に教えてもらう気だ。悪いが獣頭人は知らんぞ」
「あんだけ図体の大きなドラゴンが空を飛んでいるのなら目撃証言くらい」
「ない」
「……ないの?」
「ない」
「……じゃあ、グーさんに訊けば教えてくれるよ」
「グーさん? まさかグーガガムンゲン」
「そうだよ」
「……知ってるのか? 竜王の宮殿を」
「知らんけれど、グーさんに仕えてる竜宮巫女のシズカちゃんとトモエちゃんに魔女郵便で手紙書けば届くでしょ」
ジンさんは、それで事が済めば御の字だが、と唸る。
まあ、やってみればいいじゃない。
その後、テッサイ宰相のところに行き「竜宮巫女に手紙を送りたいから代筆家貸して」とお願いしたら、茫然とした顔をされた。
【竜族と交流があるのか?】と訊かれたので【一緒に昼飯食べたり、昼飯にされそうになったくらいの付き合いです】と回答。
最早世界に三頭しかいない竜とのコネクションは意外と箔がつくものらしく、テッサイ宰相の僕を見る目が【胡散臭い】から【得体の知れない】にレベルアップしたようだ。