3月17日 エルフの国 昨日の夜は外泊して、城に帰ると拘束された。
おそらく平成27年3月17日
剣暦×○年2月17日
エルフの国フロッグワード
王立美術館横の宿屋
昨日のニオ姫のカミングアウトによって城内は騒然。
これはもうぼくが口を出してもどうにもならないと思い、ほとぼりが冷めるまで逃げることにした。
タマちゃんに「気晴らしに出掛けてくる」と伝えると、「そのまま何日もいなくなるパターンか、にゃ?」とか透けた物言いをされるけど、断行。
城の衛兵ともすれ違いざまに挨拶するくらいには顔見知りになったのでエルフ語で【ちょっとでかけてきます】と会う人会う人に言ってみる。
今、僕が覚えたエルフ語は【おはようございます】【ちょっとでかけてきます】【僕の名前は高町観照です。カンテラと呼んでください】【空手は使えません】くらい。
あと、【ありがとう】と【お願いしていいですか】が言えたらエルフの国でも生きていける気がする。
しかし、エルフの知り合いなんてほとんどいないので、どこに行くか迷う。
思いついたのは、前にグイ将軍と一緒に昼飯を食べに歩いて回った時にたまたま寄った、食堂なんか酒場なんかわからない建物。基本エルフは異種族に対して排他的だけれど、一度友人になると人間だろうと持て成してくれるし、僕はグイ将軍のユ人である。そこの女将からも【いつでも泊まりにおいでよ】と言ってもらっていた。
飯屋に泊まるの? とその時は思ったが、よくよく考えなくてもここ宿屋だった。
ので、遊びに行ったら、宿泊に来たと勘違いされた。
エルフ語で【宿泊ではありません】がわからない。
城下町の宿は、女将さんが息子さんと二人で切り盛りしている。
お父さんはどこにいるのか、エルフ語の喋れない僕にはわからないし、訊く必要も感じない。
女将と言っても、若いし恰幅もよくない。エルフのあのスタイルの良さって何が原因なのだろうか。
やっぱ食べ物だろうか。僕もエルフのご飯食べるようになってから朝の目覚めとかよくなったし。
エルフ語は喋れないが、身振り手振りでニュアンスは伝わる。
息子さんに案内されて、二階にある一部屋に。
何と言えばいいのかわからないので、もう日本語で「ありがとうございます」と言った。
エルフ語で【ありがとう】を言えないのが、こんなに不便だとは思わなかった。
それで、夕飯食べさせてもらってぐっすり寝たのが、3月16日の話。
3月17日。
タマちゃんに起こされた。
「なんでタマちゃんここおるん?」と思わず素が出ると「尾行したに決まってるにゃ。あんたが予定通りに一日で帰ってくるわけないから、位置くらいは掴んでおかないと」だってさ。
タマちゃんは僕よりも僕のことをよくわかっている。
流石に今日は帰らないといけない。
宿屋の女将さんにタマちゃんに通訳してもらい礼を言うと、衝撃の事実発覚。
女将さんの息子さんだと思っていた男の子は、旦那さんだった。
エルフでも、50歳差の結婚は結構珍しいらしい。
帰り道、近くにエルフの美術館があるという話を聞いて、無性に行きたくなったがタマちゃんから「寄り道して、またもう一泊ってパターンか、にゃ?」と釘をさされ、渋々城に帰ることに。
城に戻ると、いきなり拘束された。
エルフからしてみれば、ニオ王子が実はニオ姫だったことが判明した途端に城から姿を消した僕の怪しさは、半端なかったようだ。
しかも僕が二人の婚約の間を取り持った(ということにされてしまったみたいだ)ということで、余計に。
旅の仲間も口を揃えて『本当に何か企んでるのかと思っていた』とか言うし。
付き合いの長いタマちゃんだけが、僕が現実逃避したいだけなのはわかってくれていたようだ。
持つべきものは友である。
さて、どやら僕は本当に草原の国のスパイじゃないか疑惑が発生したらしく、カクさんがスケさん連れて法務庁に直談判に行ってしまった。
今日一日は部屋から出ることなく、じっとしていることに。
暇なので、僕の軟禁部屋に置いてあった厚紙とペンを使ってトランプを作ってみた。
面会に来てくれたアームさんとフッドさんと神経衰弱で盛り上がる。
そう言えば、ノーズさんはどうしたのか訊くと、女の子に声かけ過ぎたらしく10人近いエルフ女に言い寄られて逃亡中だとか。
ノーズさんも結構いい男だし、こうと決めたら思いつめるのがエルフの特徴だからな。歯車がかみ合い過ぎた結果ということで。
夕方、カクさん達が戻ってきて、僕の拘禁が解かれたことを説明した。
相変わらず、仕事のできる豹頭人だよなあ。
ちなみに、ニオ姫はどうしたのか訊くと、全員からグイ将軍との結婚に反対されたことに膨れて、将軍を連れて自室に籠城しているとか。
こうと決めたら思いつめるのがエルフの特徴だからな。