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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
エルフロードを越えて! フロッグワード入国編
232/363

3月11日 エルフの国 ニオ王子誘拐される。それと、今日は僕の誕生日 


 おそらく平成27年3月11日

 剣暦×○年2月11日


 エルフの国フロッグワード

 王都オトヤ


 

 朝方、城に魔女郵便が届く。

 差出人は草原の国王女イリス・グラスフィールド。

 宛先人は高町観照。

 僕の誕生日を祝う手紙だった。

 多分、姫様が手配してくれたのだろう。うちのメイド長のイオちゃんや、フレイムロード侯爵夫人からのメッセージも同封されていた。

 この世界にも、誕生日カードなんて文化があるものだね。

 嬉しい。装飾する表現が浮かばない。

 ついでに、今日からエルフのシャラク・ウラさんもぼくたちに協力してくれることになった。

 おかしい。シャラクさんが、スカート履いて来た。弓を持参していない。それじゃあ壁を飛び越えることも馬に乗ることもできないではないか。もう軍人ではないのだから、いいと言えばいいのだけれど、少し違和感ある。

 シャラクさんも、誕生日プレゼントを持ってきてくれた。

 僕のサイズの、エルフ靴。嬉しい。実は底が抜けてたから買いに行こうと思っていたのだった。

 しかし、エルフの8Lサイズの服に、エルフ靴。これで弓でも持ったら、僕も立派なエルフだね、と笑ったら、タマちゃんに「だったらまずはその短い耳を延ばしたらにゃ」とか言って耳たぶをひっぱられた。何か怒ってるの? と訊いたら「どうして私には誕生日教えてくれてないにゃ」とかぼそりと耳元で呟く。なんでそんなマジ怒りなの……。

 特に誕生日だからと、特別何もせず。

 いつも通りにお日様が昇って沈んで、月が出た。旅の仲間も無事。

 言うことは何もないのだ。



 現実逃避終了。

 昨日の夜。

 ニオ王子は自分が女の子であることをグイ将軍に明かしたが、どうやら告白は失敗に終わったようだ。

 朝方、ニオ王子とすれ違ったが、普通の顔をしていた。

 いつものおんなじ、にっこり顔で微笑んで「おはようございます」って。

 この前、エクスキューダー一触即発三竦み事件の時に、間に割って入って仲裁して見せた時の笑みだ。あの時は緊張し過ぎたのか、一日寝込んでしまった。

 今回も、政務なんてできないくらいリズムを壊すんじゃないのかと思っていたのに。普通な顔してた。こういう土壇場では女の方がタフなのは知っているけれど、少しくらい顔に出すべきだと思う。

 こういう時に、ああいう顔で我慢しているのが、一番傷ついているということは僕にもわかる。

 むしろ、グイ将軍の方が昨夜のことを引きずっている。

 明らかに上の空。仕事に身が入っていない。

 本当は今日はグイ将軍を連れてシュテン宮内長官のところに、交渉に行く予定だったのだけれど。

 まずは情報収集からしなければならない。

 三派閥それぞれが、ミキテルに対してどのような情報を集めているのかを教えてもらう。どのような対価を払えば協力してくれるのか。その折衝を開始する。

 それと、エルフ国立図書館の禁書区域への立ち入りの許可。おそらくあそこには、エルフにも読めない本というものが置いてあるはずだ。エルフが四か月も探して見つからないということは、エルフ以外の探し方をしなければならないのだろう。そのためにもまずは……。



 現実逃避完了。

 いかんいかん、続きを書きたくなくて、またどうでもいいことを書いていた。

 今日一番のイベント。

 それは、ニオ・フロッグワード王子が誘拐され、追跡隊が組織されたということ。


 本当、馬鹿ばっかりである。



 ※※


 

 ニオ王子に少しお話を、と持ちかけたらびっくりするくらい無表情に「先約がありますので」と断られた。お前、辛いなら辛いと言えよ。……言えない身分だわな。

 じゃあ、もう片方をと思って、グイ将軍に昨日中庭にいましたねと声をかけたら、恐ろしいほど動揺して、ダッシュで地下倉庫に連行されてエルフ語で脅された。エルフ語はわからないから何言ってるのか不明だけれど、まあ【絶対に誰にも言うな】みたいなこと言ったんだろうね。おしっこちびりかけた。

 けれど、僕は剣語で言ってやった。

『ニオ王子が女の子なの、僕も知ってるから』

 グイ将軍は、憑き物が落ちたような顔をして、僕の胸倉をやっと話してくれた。

『俺とあんた以外には、誰が知っている?』

 テンションダダ下がりの剣祖共通語で質問される。

『亡くなった王様と御母さんと、産婆さん。後はお付きメイドのウタちゃんだって、ニオ殿下は言ってた』

 『そうか』と返事があって、それからしばらく間が空いて

『俺、五十年も一緒にいて、そんなことにも気付けなかったんだな』

 と、ぼそり。

 多分、ニオ王子の着ている服が魔道具なんだと思う。『性別がわからなくなる布』とかで縫われてるんだよ、とフォローすることがそんなに重要とも思えず、黙っていた。


 けれど、いつまで経ってもグイ将軍が動かないので、とりあえず何か発言。

『昨日、ニオ殿下が、秘密を伝えたの?』

『昨日の晩、一人で中庭に来いと言われた。行くと、ニオ様が、一人テラスで待っていて、俺が来ると……その、なんだ。秘密を明かしてくれた』

 ニオ殿下、服を脱いで見せたな。

 けれど、一番大事な秘密はそこではない。その続きだ。愛を告げたんでしょ?

『その後、ニオ殿下は何と?』

『……何も仰られなかった』

 ……うん?

『と言うと、実は女であると明かして……、終わり?』

『ああ、女の体であることを示されて、そして、何かを口にされようとして……。止めて、突然涙を』

『泣き出したの?』

『俺が何事かを訊く間も与えずに、走りだされた』


 ……。


『今朝、何だったのかを教えてもらうつもりだったのだが、拒絶された』

 僕もされた。

『俺はニオ様が女でもいいんだ。むしろ先王崩御からの煮え切らぬ有り様に説明がつく。その上で、為すべきことを為せばいい。これまでも、そうやってお仕えしてきたのだから。ニオ様も、そのつもりで俺に明かしたのだろう。けれど、ニオ様は今回のことには耐えきれなかったんだな』

 なんとなく、言いたいことはわかる。80歳に届こうかと言っても、エルフ年齢ではまだまだ子ども。そんな子が、周りは権力争いしている中で秘密を抱えて騎乗に振る舞うのは、しんどいよな。

 一番信頼している人に、今まで隠していた秘密を打ち明けるというストレスで、堰が切れたというのは……想像可能な話だ。


 一息に喋りきると、グイ将軍は嗤う。

『不思議だな、俺はなんでこんなこと、こんな胡散臭い異世界人に喋ってしまってるんだか』

『僕だって知らんよ。ただ、関係のない人間だからこそ言えることってあるんじゃないかな。そういう場面、この世界でよく遭うから』

『お前は、ニオ様が俺に言おうとしていたこと、聞いているか?』

『んん……、ごめんなさい、見当がつかない。話の流れから、これからも助けて欲しいってこと、なのかな』

 我ながら、会心のとぼけっぷりだったと思う。するとグイ将軍舌打ち。

『助けるに決まっているだろう。何で言いあぐねる』

 知らん。僕は知らん。

『一番大切な人だから言いにくいことって、あるじゃないですか。グイ将軍が、ニオ殿下のために頑張ってきたこと、殿下が一番わかってるから』

『……そうか、ニオ様が俺に言おうとしていたこと、訊きに行かねばならないな』


 そして礼を言うや、グイ将軍は一人で地下倉庫から出て行った。

 ……。なんとも、誕生日だと言うのにひどい目に会う。

 去年の誕生日って何していたっけ? あー、大戦争を回避するために裏工作に明け暮れてたな。

 今日はおいしい晩御飯食べたいなと思って、僕も地下倉庫から這い出ると。



 なんか、地上が大騒ぎになっていた。

 喧騒。怒号が響き、兵士達が武具を担いで走り回っている。

 何が起きたの?

 カクさんとフッドさんが僕を見つけるや駆け寄ってくる。カクさんは獣頭人特有のぼんやりした顔をしていたが、フッドさんの人面は蒼白である。

 質問。

「カクさん、何が起きたの?」

 回答。

「グイ・シーマンズ将軍が、ニオ殿下を拉致して、城外へ走り去って行きました」

 なるほど、話し合うために、二人きりになれる時間と場所を確保することにしたんだな。

 

 グイ将軍って結構、おばかさんなんだ……。

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