3月6日 エルフの国 ニオ・フロッグワードに信頼された理由と、教えてもらった秘密。
おそらく平成27年3月6日
剣暦×○年2月6日
エルフの国フロッグワード
王都オトヤ
王都についてから、もう一週間近く経とうとしているのに進展なし。
カクさんと、こちらの協力者グイ将軍と一緒にうろうろしている。
その間僕についてきてくれた旅の仲間のこと完全に放置していたけれど、彼らは彼らでよろしくやっているようだ。
草国騎兵のアームさん。この暇な時間を利用して、今日も草国に住むハーフエルフのテトラさんの父親を探している。テトラさんの父親は、テトラさんのお母さんが妊娠していることが分かる前にエルフの国に帰っているらしく、多分この世に自分の娘がいることも知らないのかもしれない。
だからこそ、その父親からの祝福が必要なのだと、アームさんが言う。『テトラが、いてもいなくてもいい存在なんかじゃないってことの証明のためにだ』
僕の知らないところで、アームさんとテトラさんは、どんな会話をしていたのだろう……?
エルフ語も喋れないアームさん一人をエルフの町に解き放ってもまず釣果はない。部屋の隅で正座で反省していた獅頭人のスケさんを案内人につける。
スケさんに「異種族同士の恋のために、人を異国で先導するなんて、まさに、案内人としてこれ以上ない仕事だと思わない?」って言ってみたら「まっことその通りなのである」とか、喜んでいた。頑張れ。
さて、ノーズさんであるが、さっき、城の廊下でエルフの侍女となんか仲良く談笑しているのを見かけた。彼、飲み屋のネーチャン以外も口説くのな。
しかし、エルフ語喋れないだろうに。
スケさんに言ったら「レオならば、エルフ語で【へー】【それホント?】【信じられない】を何と言うかと訊いてきたので教えたのである」とのこと。
その三語で、会話しているというのか。
ああいう男だらけなら、異種族同士の壁などないんだろうな、なんて思っていたら、次の瞬間には、多分別の日に口説いたであろう軍装の女エルフに吊るしあげられていた。
あ、種族の壁はなくても、ああいう男だらけだと、世の中はうまくまわらんな。
さて、残るレミ坊ことフッドさんだが、僕の馬である池月の世話をしてくれている。池月はエルフ軍馬の厩舎に一緒につないでくれており、他のエルフ騎兵と一緒に馬を走らせたり飼葉を運んだりと、せわしなく働いている。この前、エルフ憲兵に馬術で負けたのがよっぽど悔しかったらしく、エルフの術をまじかで見て盗むのだと息巻いている。あの人懐っこさは麗鬼達にも通用するらしく、可愛がられているようだ。しかし、誰が仕込んだのか、皆して【レミ坊】【レミ坊】と言われるのが気に食わないという。『カンテラさん、いつの間に言いふらしたんですか?!』と頬を膨らまして怒られるが、いや、僕エルフにそんなこと言ってないよ?!
あとでタマちゃんに聞いたがエルフ語で【レミボウ】とは「小さい娘」という意味らしい。
……言ってる意味は一緒か。
さて、後は暇しているのはタマちゃんだが。
タマちゃんは、外出は全くしない。僕がグイ将軍の実家で借りてきた絵本に、熱中している。
タマちゃんエルフ語ぺらぺらだけれど、絵本見て楽しいの? と訊いたら呆れた顔をされた。
よくわからんけれど、タマちゃんの説明では、これ絵本ではないらしい。
ページ全体に絵が描いてあって、大きな文字が並んでるし、ページをめくる感じ一つの物語っぽいから、御伽話でも書いてあるんだと思っていたけれど。
啓蒙書、とでも言おうか? タマちゃんの説明を当てはめると、僕の世界でこれに一番近いのは『十牛図』になるんだと思う。
まあ、とりあえず皆それぞれにやることがあって、何よりということかな。
やっぱりエルフの国の野菜はうまい。
サラダがメインディッシュを張れるくらい。それで、肉が出ない日があるんだろな。
……現実逃避終わり。
今日、すべての目論見をひっくり返す事実が判明した。
ニオ王子は何も知らされていないのではなく、自らの意思で、事態に一切関与していなかったのだ。
王位の継承も、紛失した秘宝の捜索も、自身の結婚も。
自分でも、この先どうすればいいのかわからなかったんだろう。
さて、どうすっぺかな。
さて、マジでどうすっぺかな。
※※
ウタ・シュテンちゃんは、あっさりと吐いた。
朝、カクさんを連れて、シュテン邸を訪ねる。グイ将軍は今回はお留守番。
それで、ウタちゃんに会う。お付きのメイドでありながら、謹慎処分に遭っているウタちゃんは、それはもうニオ王子のことを心配していた。
【ニオ様は私以外の者には身の回りのお世話をさせないから】
多分、そうなんだろうな。
どうすれば、ニオ王子の秘密を教えてくれるかと思い、もうカマかけるつもりで、カクさんに訊いてもらった。
【ウタちゃんは、秘宝ミキテルを見つけたら、グイ将軍に渡すつもりだったんだね?】
すごいびっくりしていた。図星のようだ。
ウタちゃんは大分長い時間悩んで、僕に言ってくれた。
【ニオ様のこと、私が勝手に喋ることはできません。私を城に連れて行って下さい。ニオ様に秘密を喋る許可をもらいます】
そういうわけで、悪戯エルフ娘を城に忍びこませるミッションで、今日一日潰れた。
夕方、やっとこさニオ王子の部屋に忍び込み帰りを待つ。
今日もハードスケジュールでくたくたになって帰ってきたニオ・フロッグワード殿下に会う。部屋に忍び込んだ僕達を見て、まずびっくりしたが、胆が据わっているのか、にっこり笑って「ごきげんよう、カンテラ様。中庭以来ですね」なんて日本語で挨拶してくれる。扉の向こうに控えているだろう衛兵も呼ばなかった。
あの中庭で出会った僕のこと、覚えてくれていたようだ。
「いえ、カンテラ様は、中々忘れられない体型をされていますから」
なんて軽口を叩いてくれるよ、この美少年。……美少年。
そこで、ウタちゃん、ニオ殿下になんか色々言う。多分、【この人達に秘密を話しましょう】的なことだろう。
もちろん、ニオ王子は大反対。
けれどある程度会話をして、悩んだようだが、覚悟を決めた顔できっ、と僕を見つめる。
「生前、父は言っていました。【私は異世界人カンテラに会った。あれは、善良な存在だ。他人を貶めることを、絶対にできないように魂に刻まれた男。私が円形脱毛症を隠すためにカツラであったことも、最後まで口にしなかった】と」
王様! あのこと自分の子どもにバラしてたんすか?!
さらにニオ殿下は続ける。
「だから、僕もあなたを信じます」
まあそれで信じてくれるというのなら、この際良いけれど。
「今からお見せすることは、亡き父と、母と、僕を取り上げてくれた産婆さんと、ここにいるウタしか、知らないことです」
そこで、ニオ・フロッグワードは服と下着を脱いだ。
あるべきところにあるべきものがなく、ないはずのところにないはずのものがある。
「僕は、女です」
まさかとは、思ったが、やっぱりそういうことだったのか。
なるほど、そりゃよそのお嬢様と結婚できねーし、簡単に王様も名乗れないわな。
マッハで目を背けた。
タマちゃんなら、「いい年してガキの裸見たくらいで顔赤くしてんじゃねーにゃ、みっともない」とか言うだろうが、眼の前の美少女はエルフだから、多分僕より年上である。74歳とか、その辺。
さて、この展開、この後どうすりゃいいんだ?