2月5日 エルフロード カクさんブチ切れ タマちゃんしんみり エルフロード破損個所の修繕を行う
おそらく平成27年2月5日
剣暦×○年1月5日
エルフロード
群集性ドラゴンモドキオオトカゲ生息帯を抜けた草地でキャンプ
実は、2月3日にドラゴンモドキオオトカゲの縄張りを抜けることはできていたのだが、ある問題が発生して、ここに足止めを喰らっていた。
2月3日。
2月2日に休んだオアシスから先。ドラゴンモドキオオトカゲの縄張りの外の、安全なルートを示すために先人が埋めた目印の杭が、何者かによって抜かれ、道がわからなくなっていたのだ。自然の風や雨で朽ちるようなやわな杭じゃなかったし、ドラゴンモドキオオトカゲの縄張りは100年単位で動かないので、邪魔になって彼らが倒したとかでもないのだろう。
誰かが、抜いたのだ。
後で話し合ったが、おそらく今回のエルフ騒動で、他国からの来訪者を排除して、エルフの独力で決着を付けたい『ラ=セツ派』の手先のエルフが、エルフロードを封鎖するために、こんな暴挙に出たのではないだろうか? ということになった。
皆怒っていたが、なってしまったものは仕方ない。とりあえず、ここまで来る時に辿った杭は残ってるし、エルフロードの入り口まで戻ろうかと話をしたら、一人完全にブチ切れてる人がいた。
案内人のカクさんである。
恥ずかしがり屋で天然というキャラ設定だったはずの彼女が、肩をぶるぶる震わせて、天を揺るがす吠声をあげて、まくしたてた。
「これまで、多くの人とエルフ、そして獣頭人が交流を求めて、やっと手に入れた交易路を、たかが国内政権問題ごときで壊すことができるのか。エルフロードが、どれだけの血を上に踏みしめられたものかもわからんというのか。今のエルフ政庁は時流を読めぬばかりか、省みる心すら失ったのか。ニオ殿下の回りには、そんなつまらない連中しかいないのか、人面獣心の糞耳金髪共め、この報いは必ず与えてやるぞ! 我が牙と、獣徳ガーデニングの名に誓ってだ!」
……要約すると、そんなことをずっと言っていた。
そこまでキレるってことは、やっぱり今回の暴挙はよっぽどのことなんだろうか。
あとでスケさんに訊いたが、紋の国とエルフの国を行き来して、エルフロードの開拓には、豹頭人ガマグ・ガーデニング族つまりカクさんの御先祖様が特に貢献したそうだ。
あー、獣頭人は、祖霊信仰持ってるからなー。
30分ほどして、いよいよ泣き喚き出して、60分ほどして落ち着いて来ると、カクさんのっそりとこっちを見て
「その……ぉ恥ずかしいところを。ごめんなさぃ……」
まあ、いいけどね。
どん引きしている皆を尻目にカクさんと今後をどうするか相談したのだが、何のことはない。
カクさんは、目印の杭がなくて安全なルートを記憶しているから、問題なく進めるらしい。カクさんはエルフロードを何回も往復している内に覚えたとのこと。この人、どうして僕なんかと契約してくれたんだろうか。
そういうわけで、僕達は2月3日の夜の時点でオオトカゲの縄張りを抜けることに成功した。荒野を抜けたところで、草むらになんか地面に突き刺してたっぽい金属製の杭20数本が隠されているのに気付いたが、それを見たカクさんがブチ切れたらまずいので、そのまま隠した。
そこでキャンプを取って一晩。
今回は大所帯なので、キャンプもちゃんと男用と女用と僕用の3つ。
僕の寝相の悪さは、周知のことらしく。
2月4日。
テントを撤収し、さあ出発となったが、僕はどうしても気になることがあり、カクさんに訊いた。
カクさんのように、杭の目印がなくても群集性ドラゴンモドキオオトカゲ生息帯を抜けられる案内人というのは、何人くらいいるのか?
カクさん曰く、数えるほどしかいない。
だったら、このまま抜かれて杭がなくなったままで放置していたら、後続のエルフロードを通ろうとする商隊が、やばくないだろうか?
カクさんは、交易荷物を運ぶ商隊は通常、獣頭人で構成されるから人には害はないですとか言ってくれるけれど、獣頭人がやばいってことじゃんそれ。
「杭、打ち直しに行かない?」
やばい、呆れられるか怒られる! と思ったのだけれど、スケさんもカクさんもアームさんも、ノーズさんも、フッドさんも、それに一緒に来てる巨大馬の池月も、皆ノリ気であった。
一人タマちゃんが「おい馬鹿そんな無謀なことやめるにゃ」と怒る。しかし、僕がごねるとあっさり引き下がった。なんでも、「おめーらみたいな仲良しこよし集団には、一人くらいは反対する立場の奴も必要ってことにゃ」と不満そうに言ってた。タマちゃん、そんなこと気にせずに、ノリ気ならノッてくれてもいいのに。
そうしたら「私をツッコミ役につれてきたのは、観照さんにゃ」だってさ。
しかし、打つ杭がないと皆が困り出したので、草むらに隠していた杭をばばーんと見せた。
皆が拍手しながら驚いてくれたが、タマちゃんだけが「で、その杭を運ぶ手段と、打ち込むための道具はどうすんだにゃ?」
突っ込んできたなあ……。
しかし、ここで意外や意外、騎兵三人集がそこで機敏に動き、そこらへんの木やら蔓やらを使って、ソリを作ってくれた。
『イケヅキくらいの馬力があれば、これだけの杭三往復くらいで運べますよ』
だって。
で、打ち込むのに何か槌が必要だね、って話をしていたら、スケさんが自分の荷物の中から、何か鉄製の四つ穴が開いた、手に握りしめられるくらいの鉄の板みたいなものを取りだした。
まさかの、メリケンサック登場。いや、獣頭人って本能的に武器を持てないんじゃないの?! とツッコムと
「これは、金槌がない時に、手に嵌めて槌の代わりにする簡易大工道具なのである。武器ではないのである。……、まさかカンテラ、これで人を殴るなんて恐ろしい発想をしているのであるか?」
……あれだろうか、認識していなければ、持つことは可能なのだろうか?
ちなみに、アームさん達にもメリケンサックについて訊くと、そんな武器はないし、そんなもので人を殴るという発想にドン引きされた。
そうか、ないのか。
というわけで、準備ができたのでタマちゃんに確認すると「そこまでやりたいなら、止めはしねーにゃ。行くにゃ」
OKが出たので、早速出発。
それで、カクさんを先頭に再びオオトカゲの群れのいる荒野に逆戻り。
歩きながら、タマちゃんが僕にだけ聞こえるように言った。
「なんだか、文句を言うだけで私だけ何の役にも立ってねーにゃ」
いやいや、タマちゃんが「行く」って言った時に皆のやる気があがったの見なかった?
皆タマちゃんが一番常識的で、誰よりも仲間のこと考えてるの知ってるからこそ、タマちゃんがやるって判断したり応援してくれると、盛り上がるんだよ。それって、チームの中で一番大事なことじゃない?
というようなことを言ったら、なんだかしんみりと「うん」だって。
本気で気にしていたらしい。
2月5日
それからの二日間は、杭を打っては進み、打っては進み、なくなったら戻って補充してを繰り返し、途中で2回ソリが壊れ、1回本物のドラゴンモドキオオトカゲの群れの行進を眺めて、頑張り過ぎたスケさんが熱中症になりかけたりしながらも、出口と中間地点のオアシスを3往復。
エルフロードを、再生することに成功した。
「結構すぎことしたよね」と興奮気味にタマちゃんに言ったら「そりゃ、歴史書に乗るよな大事やってのけたからにゃ」と、少し嬉しそうに応えてくれた。
ただ、「ただ、あんた覚悟しとけにゃ。明日、絶対筋肉痛になって動けないから。多分、獅子公も、カクリコも、あの騎兵の3馬鹿も、皆なってるにゃ。私なんて、今から足ガクガクにゃ」
ありがたくない預言もいただいた。
今、荒野の出口でキャンプし直してる。皆、夕飯も食べずにテントを設営するや、我先に入り込み、ぶっ倒れた。
僕だけ、妙に目が覚めて日記をつけている。
というか、足がつって痛くて眠れない。