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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
新パーティ結成! 紋の国横断編
204/363

2月1日 紋の国 財布見つかる。集合日に間に合う。けど出発は明日。


 おそらく平成27年2月1日

 剣暦×○年1月1日



 紋の国オーバーフラッグとエルフの国フロッグワードの国境線

 【エルフロード】入り口



 世の中頑張ればなんとかなるが、頑張ってもなんとかならないこともあり。

 そう、今回はなるようになったという感じ。


 一昨日の朝、第3宿場町の近くで財布を落としたことに気付いたタマちゃんを連れて、財布を探しに行くことにした。

 事情を説明すると、騎兵のノーズさんやアームさんは呆れた顔をしていた。

『大事なものかもしれないが、ここまで来るのにも大分苦労しているんだ、往復する間にも狙われるかもしれないぞ? なんならお前が新しい財布買ってやれよ』

 というすごく真っ当で親切なアドバイスをしてくれたのだが。

 タマちゃんがあれほど金以外の物に執着するのも初めてだったので、無理をしたくなったのだ。それを直接説明はしないが、僕自身が行きたいという気持ちを汲んでくれたのだろう。最終的に納得はしないが理解してくれた。


 この旅の案内人であるカクさんにも、事情を説明。予定日までには戻ってくるからと懇願すると

『カンテラさんとは短い付き合いですが、こういう場合、大抵余計なことに首を突っ込んで間に合わないという未来が……』

 と、見透かされている。しかし、彼女は基本、依頼者の好きなようにすればいいと考えているらしく、送ってくれた。

 そもそも、戻るための馬の調達をしてくれたのがカクさんだ。理解は示してくれたらしい。



 さて、そういうわけで、エルフの国からやってきたという大きくて黒くてタフなでかい馬に、騎兵服に着替えたフッドさんと、タマちゃんと僕の3人で乗る。

 この世界の馬にしては体が大きく、3人乗っても、というか僕が乗ってもサイズ比を気にしなくていい巨躯。

 そして、物凄く気性が荒く、馬商人が6人がかりで僕の宿まで連れてきた。

 よくこんな暴れ馬を人に売る気になったな。怪我するよ? いや、売れれば後のことなんて知ったこっちゃないのか。

 さて、乗れるんだろうか、と不安だったが、そこは騎兵の神の娘ことレミリア・フッド。

 十分ほど馬とコミュニケーションを取ると、馬が彼女の前に膝をつき、フッドさんは、鞍をつけると、ひらりと飛び乗った。

『よっしゃ!』

 だってさ。

 おそるおそる僕とタマちゃんも乗る。

 タマちゃんはフッドさんの前に。僕は以前のようにフッドさんの後ろに座って、腰に手を回す。うう、怖い。こんなシートベルトのなり乗り物、どうして皆平気な顔して乗れるのやら。すると、体のこわばりにそれが出ていたのか、フッドさんが笑う。

『そんな怖がらなくても大丈夫。怯えは馬に伝わりますよ。信頼し合わなくちゃ』

 名人は一番難しいことをさらりと言うから困る。


 そんなこんなで出発しようとしたら、フッドさんが突然訊いてきた。

『この子の名前、何にします?』

 それ、僕が決めるの? 僕のお金で買った馬だから、義務みたいなもんか。

 ……恰好いい名前にしたいな。

 『池月』にしようと言った。

 昔の日本で、名馬に付けられた由緒ある名だ。大学の言語表象慨論の先生が言っていた。

 なんでも強い馬→気性の激しい馬→噛みついてくる→生き物が好き→いきものずき→いけずき→池月という言葉遊びの結果。

 そこまで説明しなくても、神語 (日本語)で名馬を意味すると伝えたら『それいいですね! ようっし! 行くよイケヅキ!』とかノリノリ。

 池月の方も、何か感じ入ったのか、ひひんと啼いて走りだした。



 くそ速かった。



 まさか、たった一日で第3宿場町まで行けるとは思わなかった。

 それでも、まだ余力を残しているらしい黒馬に、流石のフッドさんも驚いていた。

 買って来たカクさんが言うには「エルフの国では、平均的な馬です」とのことだから、やはりフロッグワード領というのは、今まで僕達が旅していた世界とはレベルが一つ違うのだろう。

 エルフという種族も、他の剣祖文明4種族と比べて、身体能力が無駄に高いが、それもすべて、あの厳しい世界を生き抜くためなのだろうな。

 さて、それは置いておいて、財布を探す。

 あの、僕と間違われた商人が襲われたあたりも探す。

 まだ、焼け焦げた馬車は街道にそのままに置かれていたので、場所はすぐにわかった。

 周辺を見回る。

 もちろんなかった。


 タマちゃんが言うには、それなりに額も入っていたようだから、拾われていてもおかしくないのか。

 すぐに日が暮れたので、とりあえず、第2宿場町の宿に泊まることに。

 タマちゃんは「もう諦めて帰ろう」と主張したが、僕としてはせっかくなので時間ギリまで、と主張。

 とりあえず、第2宿場町で宿を取って夕飯を食べようとしたら。

 そうしたら、財布が、見つかった。

 人生、どんな縁があるかわからない。

 あの日、暴漢から助けた第2宿場町にいる商人とばったり遭遇。

『ああ、よかった。先日はありがとうございました。実はお連れ様が落とした財布を拾っていたのです』

 本当、人生どんな縁があるかわからない。

 そういわけで、僕とタマちゃん、フッドさん、池月はその商人のサーパスさんの家に泊めてもらい、夕飯をごちそうになる。

 感謝されるが、そもそもあの連中は僕を狙っていた連中だから、この人達はとばっちりを受けただけなんだよな。なんだか申し訳ない。

 しかし、タマちゃんからもフッドさんからも「せっかく恩が返せたと喜んでくれているんだから、水を差すようなこと言う必要ないですよ」と言われる。

 そんなものなのかな。


 ただ、酒と飯のうまいこと。

 つい調子に乗って夜遅くまで飲み食いしてしまった。

 どうも、このサーパスさん家では、主人以外酒を飲む人がおらず、人と飲むのは久しぶりということで、大分喜んでくれた。

 そして、表につないでいる池月のことになり『あの馬は麗国産でしょう? いやあいい馬です。もしよろしければ新しい馬車を引かせたい。お譲りいただけませんか?』とか頼まれる。

 残念ながら、まだ必要な仲間なので無理と謝辞。

 そうさなあ、こんなすごい馬を草原の国まで連れていけないかもだし、帰り道に縁があれば、譲りに来るのもいいかもしれない。

 とにかく、主人と二人。たらふく飲んだ。

 この時点で1月30日の夜。明日の朝に出発すれば、2月1日には十分間に合うのだ。



 次の日の夕方に、眼を覚ます。

 ……え? このパターン何回目?

 フッドさんが準備を済ませて玄関で待っていた。

 なんで起こしてくれなかったん?

『猫さんと二人、あんまり仲好く眠ってたから、起こすの忍びなくて』

 もういいから、そういうの、もういいから。

 タマちゃんはしれっと起きて僕をなじる側に回っていた。いや、君も寝てた癖に。

 サーパスさんに礼を言い、帰りにまた寄る約束をして出発。

 夜通し駆ける。

 風切る冷たさに、おもわずフッドさんにかきつく力が強くなる。

 そう言えば以前フッドさんのお腹に痣ができるくらい強く抱きしめちゃったからな、と心配していたら『カンテラさん! 飛ばしますよ! もっと強くくっついて! 大丈夫、レミリア・フッドの腹筋はそんなヤワじゃないですから!』

 この子も、乗馬するとキャラ変るタイプなんだろうか。


 2月1日未明、夜通し駆けて、第1宿場町に到着する。

 アームさん、ノーズさん、カクさん。そして、今まで姿を見せなかったスケさんが起きて待っていてくれた。

 どうやら、僕が集合時間に間に合うかで賭けをしていたらしい。

 ちなみに、全員『間に合わない』に賭けていて。唯一博打は大穴狙い派のノーズさんだけが間に合うだったらしく、大もうけしたとのこと。


 さて、やっとこさ間に合ったと思ったけれど、カクさんが『コンディションが悪いまま突入することは避けたいので、今日の出発は見合わせましょう』と判断した。

 そっすか。

 とりあえず、カクさんに謝ると「そういう時は、『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』です……。にゃ」とか言い出した。

 パクってきたな……。




 無事に全員揃って、1日休息にあてる。

 タマちゃんもにこにこしていた。

 ちなみに、どんな思い入れがある財布だったのかを訊いたら

「これは、私が人である証にゃ」

 としか言わなかった。

 大事そうに、それだけ言った。

 まあ、言いたくないことを一々訊くのも野暮なので、そういうことで良いだろう。


 最後に、「観照さん、ありがとうございます。にゃ」と一言付けくわえた。

 報酬としては、十分である。



 さて、明日からエルフロードとやらに突入するわけだが、一体どうなることやら。


 

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