1月16日 紋の国 御尋ね物になる。
おそらく平成27年1月16日
剣暦××年12月16日
紋の国オーバーフラッグ
横一文字街道第8宿場町
昨日牢屋に入れられて、この国の外務卿のブレイズさんという人に「殺されたくなければエルフの秘宝を見つけたら自分達に寄越せ」と脅迫された。
死にたくなかったので、承諾した。
それで、今朝解放されることになったのだが。しかし、何の担保もなしに僕を解放してくれるのだろうか? と思ったら、やっぱあった。
魔女会社の回収から漏れ、紋の国情報局に管理されていた魔道具『約束を破った者の腸を食い破る虫の卵』を僕に飲ませようとしていた。
やめれ! やめれ! ちょっと魔女会社一番回収してないといけないもんを野放しにしてんじゃん。やばいってそれ。
頑張って抵抗してみたけれど、屈強な看守5人かかりくらいで押さえつけられたらさしもの巨漢の僕もどうしようもない。と言うか、さすまたで首根っこ押さえつけるのはやめて欲しかった。
しかし、飲み込まされようとする直前に、牢屋に侵入者が入ったとの報告。
同時に、僕のいた部屋に飛び込む人影。
誰かと思えば、アームさんと、フッドさんと、ノーズさんと、スケさんと、カクさんと、タマちゃん。
皆が助けに来てくれた。
嬉しい。
助けてもらい、どうやってここまで忍びこんだのか訊いたら、正面から堂々と乗り込んできたとのこと。
まあ、スケさん喧嘩が無駄に強いし、カクさんが吠えたら、大抵の人間は一目散に逃げるだろうね。
騎兵の皆も、伝令兵の割に腕っぷしもそれなりにあるらしく暴れるわ暴れるわ。
必要以上に暴れていた。
タマちゃんも止めときゃいいのに、敵の親玉であるブレイズ郷にドロップキックかましてた。
ちょっと、みんな、もう十分だから。
これ、展開的に全部僕のせいになるパターンだから。これ以上僕が悪名こうむることはやめて。
そして、そのまま王都を逃げ去り、横一文字街道を東に。
次の宿場町に到着する。
皆、一暴れしてすっきりしたような顔をしていた。
どうやら、皆は僕との旅に、こういうのを期待していたらしい。
皆、一体僕のことをなんだと思っているんだ?
※※
「結局は、皆あんたのことよくわかってないってことにゃ」
タマちゃんは言う。
「異国の都合関係なく大暴れして、それが結果的に誰かを助ける男、ってあの騎兵達は思ってるにゃ。暴れるのが好きなんだと思われてるにゃ。逆に、あんたを脅迫した連中は、異世界から来た、草原の国に飼われている凄腕の冒険者とか誤解してるにゃ、そういう腹黒いこともできると」
そして、タマちゃんは自分を指差し
「観照さんが本当は、ただ要領が悪くて、ついでに運も悪くて、ついでに諦めも悪いせいで、何にでも首突っ込んで泥沼にどっぷり浸かるお人好しだって、わかってんのは私やワン公くらいにゃ」
そうなのか。
「自己主張しないで流されてるあんたのせいってのもあるけどにゃ。結局、皆が皆、自分に都合のいいカンテラというものをあんたに投影しているってことにゃ。だから無茶をさせる」
そっかー。
「その外務卿ってアホも、カンテラの人間関係じゃなくて、もっとその人となりの方を調査すれば、脅迫なんかしないで、『紋の国のために力を貸してほしい』って頼めば、それだけでこの損得勘定できないお人好しが動いてくれることわかったはずなのに、にゃ」
そ、そんな言い方。
「事実、にゃ」
タマちゃんは、ずいと近づいて、僕をジトっとした目で見上げ
「パーティの面々と個人面談したんじゃないのか、にゃ。効果なし、にゃ。あんたは、相手を知るのと同じくらい、自分を知ってもらうこともすべき、だにゃ。だから、あんな大事になるにゃ」
僕が、紋の国の御尋ね物になったことだろう。
明日にでも横一文字街道の物流網を利用して、人相書きが出回るのだろうなあ。
「自業自得にゃ」
「でもタマちゃんもかなり暴れてたよね。相手の一番偉い人にドロップキックかましてたよ」
「な、流れであーなっただけにゃ! 仕方ねーにゃ」
「タマちゃん、いつも僕のために怒ってくれるのは嬉しいけど、暴れたり怒鳴ったりするの控えてもいーよ? タマちゃんが危ない目に合うのも嫌だし」
「あんたが怒らないから代わりに怒ってやってるだけにゃ」
「……」
「な、何にゃ?」
「昔、ジンさんにも同じこと言われたから、今のなんか面白かった」
「……全然面白くねーにゃ」