【設定編】1月15日 紋の国 エルフ三大派閥
おそらく平成27年1月15日
剣暦××年12月15日
紋の国オーバーフラッグ
牢屋の中
また捕まって牢屋に入れられた。
この展開何度目だろうか。
罪状は窃盗。あの僕を尾行していたエルフが密告者のようだ。
この国も、エルフのある一派と手を結んでおり、エルフの密偵がこの国に潜んでいるらしい。
さて、おとなしく捕まってしまった。僕が何を盗むってのよと、反論しようにも、手元には空の財布が5つ並んでいる。これは、自分の盗まれた財布を探していたら偶然拾ったものでと言い訳したけれど、聞いてくれなかった。そりゃまあ、僕を捕まえに来てるんだから、聞いてくれるわけないか。
スケさんや騎兵の皆がとことん暴れる気でいてくれたが、暴力は、こんなところで切るには早い切り札だと思い、おとなしく捕まった。今までも同じことは何回かあったが、そもそも盗んだ金自体がないのに、それが見つかるまではいくらなんでも殺されはしないだろう、とタカをくくっていた。
おかげで、牢屋の中にいるが、手帳とペンは没収されず、椅子と机はあるし、火は焚いてくれてるので寒くない。
囚人にしては、待遇がいい。どうも貴族用の牢屋じゃなかろうか、といぶかしんでいたら、こ何のことはない。
どうやらこの国の偉いさんが、僕とサシで話をするために連行する口実が欲しかっただけらしい。
僕が軟禁されてる部屋を訪ねてきた妙に若く見えるおじさん、紋国外務卿アウルシリュタール・ブレイズと名乗った。
ブレイズ卿は非礼を詫びた後、僕に状況について説明してくれた。
エルフの国では、現在三つの派閥が勢力争いをしている。
・分断主義を強固にし、あくまで諸外国との断絶を旨とする強硬派『ラ=セツ派』
エルフ本軍や宰相府などの、中枢を掌握していた最有力勢力
・融和主義に走り、諸外国との交流を持とうとする『ウラ派』
他国との交流がある辺境軍や、反ラ=セツ閥を含む、対抗勢力
・思想ではなく、王への絶対忠誠を誓うのみの『シュテン派』
最も歴史があり、長く宮中を取り仕切っていた穏健派
人王三国は、それぞれの派閥と対応するように仲が良い。
孤高が大好きな剣の国は、ラ=セツ派と手を組んでいる。
エルフロードの入り口を持ち、エルフ領の資源が欲しい紋の国は、ウラ派と密約を交わしている。
直接エルフとの損得関係がなく、ただ友情によってのみ動く草原の国は、シュテン派が取りこむだろう。
そのほかにもホビットオークドワーフ達もいるが、彼らは人間ほどこの問題に深く関わる気はないようだ。
ホビット王は、意外と思慮深く、この問題にまったく触れるつもりはないらしい。ただ、ラ=セツ派が末端の国からあぶれた根来小人を傭兵として雇い入れても黙認するという密約を交わしただけである。
オーク達は完全に無視を決め込んだ。
ドワーフは、あくまで友情があったのは先代エルフ王とであり、あくまで次王が相続を完了するまで手は出さないと決めたようだ。意外とドライね。
あー、なんとなく見えてきた。
つまり、このエルフの勢力争いで、一番入れこんでるのは、人間なんだ。
で、ブレイズ卿の要望はこう。
『エルフの秘宝を見つけたら、紋の国に渡して欲しい』
いや、無理じゃん。僕、草原の国からのおつかいで行くわけだし。その、シュテン派ってのと僕のいる国は仲いいんでしょ?
けれど、向こうは僕の事情を調べつくしていた。
『イリス王女には、ウラ派が接近し、密約を交わしています』
あ、そういやいたな、キヨナ・ガ・ウラとかいうエルフが姫様に手紙渡していた。確か、ウラ一派を後押しする代わりに、将来の草国の跡目争いに協力しろとか言うふざけた返事を姫様がしたやつか。
いや、僕は別に姫様の私兵じゃないし。
姫様がいいと言ったって、王様を裏切れるかいな。
『じゃ、あなた窃盗の罪で死罪ですね』
ファ?! 冤罪じゃん。しかもスリ程度で?!
『この国では、金は命より重いのです』
何さらっと言っているのだ。
仕方ないので、承諾した。
明日、釈放される。