表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
新パーティ結成! 紋の国横断編
186/363

1月10日 獣頭人枠外巡礼者カクリコ・ガマグ・ガーデニング

 おそらく平成27年1月10日

 剣暦××年12月10日


 紋の国オーバーフラッグ

 横一文字街道 第11宿場町



 今日は第12宿場から第11宿場まで移動。

 道程としては、丸一日もかけるほどの道のりではなく、第10宿場まで足を進めようかという話もしていたのだけれど、結局一つ歩を進めただけで終わる。

 と言うのも、僕がこの10日間歩きっぱなしで股ずれはひどいわ、足は痛いわで休みたいと泣きごとを言ったため。一応、僕を連れていくための旅なので、承諾してくれた。騎兵チームは乗る為の馬を持ってくるべきだったかと反省しているようだが、そもそも獣頭人を乗せて走れる馬などほとんどいないからと、徒歩の旅なのだ。そこはきっぱり諦めよう。

 スケさんやカクさんは、体力が有り余ってるのか、僕が疲れて歩けないと言うと、びっくりしていた。多分、僕がこの二年間旅ばっかりしていたから、もう少し丈夫だと思っていたのかもしれない。今思うと、この二年僕と旅をしてくれたジンさんは、僕の体力とか体調も考えて楽な旅をさせてくれていたんだなあ。

 タマちゃんなんかは「まあ、あんたにしたらもった方にゃ」なんて言っていたけれど、体の大きさ丈夫さで言えば、一番足が辛いのはタマちゃんだと思う。ここはやはり休みを取った方がいいだろう。

 あ、それと道中で山賊に襲われた。こっちは、特に時間を取られなかった。

 黒豹女のカクさんが一声吠えると、びびって皆逃げてった。

 やっぱ怖いわ。僕も、ちょっとちびりかけた。かけただけだから! ちびってないから!



 ※※


 『案内人』正式名称は、獣頭人枠外巡礼者カクリコ・ガマグ・ガーデニング

 通称カクさん。獣頭十三部族序列二位・豹頭人。

 豹人族の中でも珍しい、黒い毛並みをした女性。


 伝聞で聞いた彼女の武勇伝①

 オークの国にホビットを案内していた時のこと。

 契約主のホビットが『経典』に関わるタブーに触れてしまい、激昂したオークは棍棒を振りかざし襲いかかろうとしたが、案内人である彼女が間に入り、説得にあたる。オークが怒りのままにまくしたてるが、臆することなく直立不動で言葉少なく、落ち着かせるように言葉を発し、自分よりも体の大きなオーク8人を説き伏せ、事なきを得ることに成功する。

 それ以来、オークの国オーバーラブでは、豹頭人ガマグ・ガーデニング族が国務の専属案内人契約を独占するようになる。




 伝聞で聞いた彼女の武勇伝②

 ドワーフの国の雪山で、麓の町まで雪豹が降りてきて暴れているという話を聞いた彼女は単身登山し、迷子になっていた雪豹の子どもを見つけ出し、探す親豹の元に連れて帰ることに成功する。

 それ以来、雪豹の生息するレスナー山脈未踏破地帯でも、豹頭人だけは決して襲われない。



 伝聞で聞いた彼女の武勇伝③

 剣の国チートブレードにて、人間の貴族に獣人であることをなじられ、心ない言葉を浴びせられるが、表情一つ変えることなく、唸り声一つ上げることなく、一礼しその場を去る。

 後日、その貴族と案内人契約をすることになるが、一切を無言で案内するが、決して傷一つ負わせずに、契約主を守り抜く。貴族がその仕事ぶりに感銘し、己を恥じ、以前の非礼を詫びると初めて口を訊いた。涼しげな声で発せられた一言目が『カクリコ・ガマグ・ガーデニングと申します、閣下』

 その後その貴族から求婚されて、逃げ出したと言う。



 度胸と実力で、名を挙げた正統派一流案内人。

 ……なんで僕と契約してくれたんだろう?

 年齢は、詳しく訊いてないが、スケさんのいらない情報では、30前半とのこと。

 タマちゃんやスケさんが無駄にキャラが濃いせいでパーティ内の獣人チームではあんまり目立たない存在のようであるが、とても大事なポジションである。

 そもそも、このパーティでエルフの国まで行ったことがある、つまり、【エルフロード】を踏破した経験があるのは、カクさんだけなのである。(僕は、ドラゴンの背中に乗って飛んで行っただけなので、行き方を知らない)

 さらに、きちんとした案内人の免許を持っているのも、カクさんだけなのだ。(タマちゃんは元々免許ないし、スケさんは先日のあれで免許停止処分中)

 つまり、この旅は彼女がないと成り立たないという事実。

 なのだが、僕は人見知りであるということを知った以外、カクさんのことを知らない。

 これでは駄目だと思い、旅の途中で何回もカクさんに話しかけようと思ったのだけれど、どうにもチャンスがない。

 多分、避けられてる。


 しかし、チャンスというものは、気にしていない時にこそくるようだ。

 日中についた宿屋でおやつを食べていると、偶然、部屋の中に僕とカクさんだけしかいない時間というのができた。

 カクさんはやっぱり僕と二人というのは思うところがあるのか、ちょっと離れたところに座りなおした。露骨だなあ。

 こういう時は餌付けに限る。

「ねえ、カクさん」

 声をかけると、カクさんは振り向いてくれた。耳につけた二つ繋がりのイヤリングがちゃりんと揺れた。

「おやつ食べる?」

 僕が手元に置いていたお菓子をひらひらと見せると、カクさん黙って近づいて来る。すごい、威圧感ある。口数が少ないということ知っていないと、びびるかもしれないな。

「ぃただきます」

 小声だ。

 受け取ると、また部屋の隅に移動した。

「部屋の隅、好きなの?」

「心は、落ち着きます」

 それじゃあ仕方ないな。

「僕もそっち行っていい?」

 露骨に警戒された。

 人見知りと言うか……、もしかして僕のこと嫌いなのだろうか……。嫌、だったら僕と契約なんてしてくれるわけないもんな。

「もしかして、人に近づかれるのが好きじゃない?」

「怖がりますから」

 ん?

「へ?」

「皆、私といると、泣いたり、逃げたりしますから」

 あー。

 気にしてたんだ。

 今日も、途中で山賊に襲われた時も、カクさんが一吠えしてくれたら、びびってみんな逃げたもんな。

 そう言えば、入国管理官も、宿屋の親父も、皆カクさんを見ると、初っ端まず顔が引きつってた。

 わからんでもない。獣の顔というのは、恐怖を呼びさます様にできている。

 けど、カクさんは、獣の顔をした人間なので。

「そのおかげで、僕は今日生き延びれた。追い払ってくれてありがとうね」

 カクさんは、軽く会釈を返してくれた。

「カクさん。助けてくれたお礼に何でも一つ頼まれるから言ってごらんよ」

「クッキーもう一つください」

「お、おう」

 また、立ち上がり無言で近づいて来るカクさん。手渡すと、再び部屋の隅に。

「大サービス。もう一つなんでも頼まれちゃうよ」

 すると、両手で持ってぽりぽり食ってたカクさん。

 少し考えて。

「なら、呼び方変えてください」

「……カクさん、嫌だった?」

「そのカクさんってなんだか、固い岩パンみたいな響きで、可愛くないと言うか……。もっと女の子っぽいのがいいです」

「女の子っぽくって……」

 思わず呟いてしまった。この人、僕より年上なんだよな……。

 そんな僕の反応に少しショックを受けるカクさん。

「ひどい……。女はいつだって心に乙女を残しているのに」

 ちょっと、新鮮な反応。この人、そういう返しもできる人だったんだ。

「ご、ごめん。なら、新しい呼び方に」

「カクちゃんなら、いいです」

 ……あ、それでいいの。

「うん。じゃあ、これからもよろしくね、カクちゃん」

「カクリコ・ガマグ・ガーデニングと申します。よろしくお願いします」

「知ってるけど」

「でも、まだ一度も自己紹介していなかったので」

「あ、そうだね。高町観照です。よろしく」

「はい」



 その後、武勇伝についてのオチを教えてもらう。


①激昂するオークを説き伏せる。

 (脅されても微動だにしなかったのは、怖くて足腰が動かなったからで言葉少なかったのは、怖くて色々思いつかなかったから、と本人から聞いた)


②雪豹の子を助ける。

 (まったくの偶然、雪山で遭難しかけていたところを迷子の雪豹のこどもを偶然見つけて、寒そうだったので抱いて一緒に下山したということなのだとか)


③人間の貴族を改心させる。

 (犬に咬まれたことがあると聞いていたので、怖がらないように沈黙していただけだそうだ。で、嫌われていないようなので、してなかった自己紹介をしたとのこと)


「好き勝手旅をしていたら、皆がすごいすごいと言ってきて、逆に怖かったです」

 この人、もしかして僕とキャラ被ってる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ