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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
新パーティ結成! 紋の国横断編
182/363

1月7日 グラスフィールド国近衛兵団伝令騎兵レミリア・フッド

 おそらく平成27年1月7日

 剣暦××年12月7日


 紋の国オーバーフラッグ

 国境警備基地 の中になる民営宿屋



 ついに、今日の夕方紋の国との国境線に着く。

 国境警備基地での手続きが済み、明日より入国。

 珍しいことに、紋の国では、警備基地の中に宿屋があった。宿屋と言うか、キャバレーもあるし、飯屋も風呂もあった。小さな歓楽街みたいである。

 基本的に出入国が忌避されているこの世界観で、この立地は儲かるのだろうかと思ったが、他に娯楽がない警備基地勤務のための保養施設みたいなもんらしい。

 風呂があるので風呂好きの僕としては早速浸かりに行きたかったが、タマちゃんから「やめとけ、ああいうのは、大体混浴にゃ」という諫言をいただいてしまった。

 この世界に来てから、混浴に入ってトラブルに巻き込まれたことがあるので、自粛。

 紋の国に、でっかい温泉とかないかなあ。

 なければ、何故かお湯が地面から噴き出してるだけでもいいから。


 そう言えば、今回の旅の名目上の契約案内人は黒豹女のカクさんなので、受付なんかは全部彼女にしてもらったのだが、入国管理官のカクさんを見た時の驚きようがすごかった。

 なんと言うか、「うわあ! 出たあ!」的なおしっこちびる系の驚き方。

 そんなに、獣頭人が怖いのだろうか、タマちゃんや獅頭人のスケさんには無反応だったのに。

 そんな顔をしていたのかタマちゃんがまたこっそり教えてくれた。

「向こうはアレが極度の人見知りだって知らないにゃ。目の前で、小声でぼそぼそ喋るわペンを持つ手は震えるわ話しかけても無視するわの黒豹が書類付きつけてきたら、そりゃびびるにゃ」

 それでも、ちょっと失礼だけど。と付け加え、タマちゃんはちょっと怒っていた。

 カクさんはベテランの案内人ということだが、ずっとあの調子で旅をしているのだろうか。

 少しくらい慣れてもいいと思うけれど、性分なんてそうそう変えられるものでも、ないのかな。いやしかし、いくら家業とは言え、あの性格で旅を仕事にするのを辞めないというのも、なかなかの根性だよなあ。


 今日の夜は、それぞれ用事があるということで、宿を取った後は自由行動となった。

 暇を持て余していたのは、僕と騎兵のフッドさんだけだったので、二人で食事を取りに行く。

 そう言えば、大学生の頃はよくサークルの後輩を夕飯に連れていったなあ。

 けれど、僕より食べるのが早い人は今までいなかった。

 フッドさん、大食い。



 ※※



 グラスフィールド王国近衛兵団 伝令騎兵隊レミリア・フッド

 彼女は貴族ではない。一般市民ともちょっと違う。

 まず、王都の出身ではない。

 グラスフィールド東方平原にある、国中に馬を育てて送り出す公用馬産地集落。そこの頭領の叔父の三人目の後妻の連れ子と、馬飼の一人の間に生まれた。

 馬に乗る仕事をしていた両親の影響か、椅子に座っているより父に連れられて馬に乗っている方が長い幼少期を過ごし、すくすく育つ。

 しかし、6才の頃、両親が事故で死に、祖父に預けられる。ほかに子も孫もいなかったその男は、生涯最後の仕事に、女だてらに村一の馬飼に育てようと、彼女に鉄拳としゃがれ声による英才教育を施す。

 まだ10才にも満たなかった彼女だが、持ち前の明るさと、天性の才能で立派に期待に応え、手足が伸びきる頃には、村一の馬使いになっていた。

 どんな馬でも、彼女の前に立つと首を垂れて、騎乗を促す。本人曰く、「馬にちゃんとお願いすれば、この子達は聞いてくれる」

 ある種の神がかりを持った少女の転機は、先代軍務卿が現地視察に訪れた際。

 余興と称して、軍馬に輪くぐりをさせたり、口に筆をくわえさせて『歓迎』と書かせたり、7番まである流行歌『ホテルカルファ』を大人達が歌いきる前に王都まで馬を走らせて帰ってきたり、気性が荒い軍務卿親衛騎兵の馬を手懐けて主人より上手に乗りこなして見せたりしたそうだ。

 軍務卿は、彼女にほれ込んだ。『騎兵の神』が遣わしたに違いないと、彼女を王都に連れて行きたいと。

 彼女は固辞した。ここ最近、めっきり体の弱くなった祖父を置いて行く気はないし、彼女は村一の馬使いになることを目指していたのだから、よそに言ってる暇はない、と。

 しかし、彼女の祖父は体も弱くなると、心も弱くなるのか、彼女の将来に対して、不安を感じるようになった。とっくに村一の馬使いになっており、とても村の男では彼女を嫁にもらえるような器量はない。行商人からもらった本で独学で字を覚えるほど利発。それになにより、まだ若い。

 そこで、祖父は自分が現役時代に親交のあった信頼できる王都在住の元騎兵に手紙を出し(祖父は字を書けなかったが、かれの甥は字が書けた)、孫娘の面倒を見てもらえないかと頼んだ。

 結果、快諾。

 仕事は放り出せないし、祖父を置いていけないと孫娘は嫌がったが、『修行と思って行ってこい』と無理矢理送りだされた。


 こうして、『騎兵の神の娘』は、若い相棒の馬と一緒に王都にやってきた。

 さて、来てみたはいいけれど、どうしたものか。

 門をくぐり、城下町に入ったまではいいけれど、地面に土はなくて四角い石が敷き詰めてある。これでは馬に全力で走らせられないではないか。

 というか、この人ごみなに? 今日は祭か何かなのか?

 そして、あのやたら背の低い髭のもじゃもじゃのおっさんはなんだ? あれは人間なのか? なんで斧をかついでいるのだ?

 獣の顔をした人間が、うろついているぞ? 彼らは何者だ? お面か? それとも精霊様でもやってきてるのか?

 ドワーフとも、獣頭人とも接さずに生きてきて、田舎から馬一つで上京してきた彼女にとって、都会は異界だった。

 まあ、だからと言って、住んでるのは同じ人間なのだからなんとかなるだろう、と持ち前の明るさを利用して、前進した。

 初日で迷子になり、近衛兵団官舎に辿りつけない。

 仕方なく野宿。

 腹が減る。『金』という概念は知っているが、現物はほとんど見たことがない。(彼女の住む村は行商人との物々交換と自給自足で大抵なんとかなってたし、祖父の教育方針で貨幣に触らせなかったという弊害もある)

 もちろん王都でだって、物々交換で食べ物は得られるが、彼女のみすぼらしい持ち物では、パン一個も難しい。

 仕方ないので、交渉。『働くので、ごはんください』

 言ってみるものである。

 彼女が最初に訪ねた酒問屋の主人はなかなか度量があり、みすぼらしい外見の子ども相手でも、門前払いせずに、仕事をくれた。

 朝は掃除、午前中にお得意様を回り酒の注文を取ってくる。昼は笑顔で接客。昼から配達。夜には明日の商品の準備。 

 正直、重労働だが、つい先日まで馬産地で国中に配備される公用馬の飼育を差配していた彼女は力仕事は得意だったし、初めて触れることは楽しかった。

 楽し過ぎて、自分が何しにここまで来たのか忘れて、仕事にのめり込み、気が付いたら店長代理になって配達の届かない地域のために店舗2号を建設することを店長に進言したりしていた。

 相棒の馬も町の空気に染まり、『酒を運ばせたら王都一の馬』としてマスコット化していた。

 ある日、近衛兵団官舎に酒樽50という大口の注文を掴んで喜んでいるところで、店長に『ところでお前何しに王都まで来たの?』と訊かれてやっと思い出した。

 慌てて店長に事情を説明して、仕事辞めますと伝えるが、店長は度量の広い男だった。快諾。

 それどころか、彼女のために服までこしらえてくれた。

 まあ、売り上げを1.9倍にまで引き上げた彼女に恩義こそあれ、である。

 ここで『酒の神の娘』というありがたいあだ名までいただいて、近衛兵団にやってきた彼女だが、気がつけば王都に辿りついてから3か月以上経っている。自分のことなんて忘れているかもしれないと思ったが、紹介状とやらを門番に手渡すと、すんなり中に入れてもらった。

 そりゃ、祖父の知り合いだった騎兵は今、王軍騎兵総隊長キャリバ・リードという大層な肩書を持っている。彼の署名が入ったくしゃくしゃの手紙を、身なりのいい娘が持ってくるとか言う異常事態なら、とりあえず入れるしかあるまい。

 そこで、三か月前に到着しているはずなのに、まったく音沙汰のない馬の村の娘ということが判明。

 皆が呆れる中、彼女は持ち前の笑顔で挨拶する。

『本日からお世話になります。フッド村のレミリアです。レミって呼んでください。村でも、このでっかい村でも、皆してレミ坊って呼ぶから困っちゃうんですけどね』

 後日、祖父から手紙が届く。滅茶苦茶怒っていたという。



『その時の挨拶のせいかなあ、皆して、私のことレミ坊レミ坊って呼ぶんですよ、まったくもう』

 今日の夕飯。ノーズさんとスケさんはキャバレーに仲好く繰り出し、アームさんは入国管理簿の中にテトラさんの父親らしい人物がいないか照会をかけてもらい、カクさんは「野暮用」とだけ言って森の中に消えていったため、フッドさんと二人。タマちゃんは「一人ずつ面談してるにゃ? 私は適当にやってるからその小娘と親交深めてこいにゃ」と言って気を使ってくれたので、フッドさんと二人、飯屋を訪ねる。

 その小さな体躯に似合わず僕と同じ肉入り焼き麺大盛りを頼むと、すごい勢いで食べ始めた。

 すごい、今まで誰かと食事して僕より早く食べる人なんていなかったのに。

 

 食べながら、そう言えば、なんでアームさんもノーズさんもフッドさんのこと『レミ坊』って呼ぶの? なんて訊いたら、いきなり半生を語って説明してくれた。

 波乱万丈な人生送ってるんだなあ。

 感心していると、今度は質問を返される。

『そう言えば、カンテラさんは、本名が別にあるんですよね』

『あ、うん。タカマチミキテル。姓がタカマチで、名がミキテルって言うんだ』

『なんで、カンテラなんですか? それって、剣祖様と関係あるんですか?』

『ないない、偶然だよ。僕の国の文字ではね、観照みきてると書いて、無理矢理、観照かんてらって読めるんだよ。それで、向こうの友達がそういうあだ名をつけてきたんだ』

『へー、いいなあ。私もそういう付けられ方したかったなあ……あ、ごめんなさい。先に食べ終わっちゃって。職業柄、食べれる時にさっさと食べておく癖ついちゃって』

 兵隊さんだもんなあ。僕も一息遅れて、食べ終わる。

『ごちそうさまでした』

 手を会わせて拝むと、案の定フッドさんは訊いてきた。

『あの、気になっていたんですが、いつも食べる前と食べた後にしてる『ソレ』って、噂に聞く『ゴチソサマ』ですか? 最近流行ってる、ホビットの御祈りとか言う』

 ああ、これホビットの御祈りってことになってるのか。そう言えば、この世界で最初にこれやり出したの、ホビットだもんね。そういうことにしとこう。

『そうだよ』

『あの、それってどういう意味なんですか? 人間がしてもいいんですか?』

『いいよ、死竜だってやったくらいなんだから』

『死竜って、もしかしてあの死相竜セイクーハード?! 呪われたりしないんですか?』

『しないしない、あー、なんて言って説明したらいいのかな、いただきますって言うのは……

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