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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
エルフの国へ行こう! 獣頭13部族大集合編
168/363

12月22日 草原の国の思惑 猫頭人の糾弾 獅頭人の真意 豹頭人の真意 

 おそらく平成26年12月22日

 剣暦××年11月22日


 草原の国グラスフィールド

 王都バーミューダ 僕の屋敷



 日中、城に行き外務卿チャームプライド公と打ち合わせ。

 結局、スケさんカクさんは悪目立ちするのでお留守番してもらう。タマちゃんは、何故か不機嫌でついてきてくれなかった。

 登城。

 チャームプライド公爵は、恰幅のいい好々爺と言った様子の人で、8月に一度公の屋敷の舞踏会に参加したことを覚えてくれていたらしく、歓迎してくれた。

 あの時、僕とミシェールさんが介抱した老婆は、すっかり回復して色んなパーティに顔を出しているらしい。まあ、一度落ち着いたらけろっとしちゃうのが心の臓の病と言うが、元気なことで。


 さて、草原の国使節団は、剣暦××年12月1日に出発することになったそうだ。

 すごい強行軍だ。普通、国の使節なんてもっと時間をかけて準備して出発するものなのに。

 そこらへんもちょっと触れてみたら、結局は僕をエルフの国に送り込むための使節団であるし、他国の使節も入国予定という報告もあり、現地(エルフの国王都)での捜索の主導権を握るためにも、可能な限り早く出発したい、とのこと。

 なんでそんなに草原の国が介入したがってるのだろうか。そんなに【秘宝ミキテル】を自分達の手で見つけて恩を売りたいんだろうか。

 何故、そこまで本腰を入れて捜索したがるのかを訊くと、思ったよりも変な理由であった。


 草原の国の伝説では、エルフ秘宝は、元々初代草原王が友人だった初代エルフ王と共に冒険し、苦難の末に財宝の山を見つけた時に手に入れたものらしい。友情の証としてエルフの国に譲られたものであるため、エルフ秘宝はなんとしても草国人の手で見つけてあげたい。

 ギャリク陛下は、マジでそう思っているらしい。

 外務卿、内務郷、法務卿が陛下に隠し通そうとしていたのは、草原の国には何の得もないこの事業に、ガチで取り組むことがわかっていたから。

「王がやると言うのなら、やらねばなるまい。カンテラ殿よ、草原の国が支援する。何としても、ミキテルとやらを見つけてくだされい」

 なんか変なプレッシャーがかかる。



 家に帰ると、獅子男のスケさんと猫耳娘のタマちゃんが喧嘩していた。

 口論と言うか、タマちゃんが一方的にスケさんに詰問して、スケさんがおろおろしてる。

 なして?

 事情を訊くと、タマちゃんは、スケさんが、どこかの国か獣頭人職人組合に雇われたスパイでないかと疑っていた。

 まず、旅をしたことのない獣頭人が、いくら友人の頼みとは言え仕事をぶっちしてまで国境をまたいでまで旅に出るか? と言うこと。

 そして、その後何の接点もない僕に同行してエルフの国に行こうとするのが、無理矢理すぎる、という点。

 その後、いくつか会話をして、納得は言った。僕は、スケさんもカクさんも信じていいと思う。タマちゃんも、多分納得してくれた。

 のだけれど、なんとタマちゃんまでエルフの国について行くと言いだした。

 

 しかし、そこで気付く。

 そう言えば、草原の国使節団ということで、草原の国の役人や兵士も同行してくれることになると思うのだけれど、案内人についての手配はどうするのだろう。

 僕の知り合いから推薦するのでいいのだろうか? 今まではずっとジンさんが当たり前に着いてきてくれていたから、何も考えてなかった。

 いかん、チャームプライド公に確認を取らねば。



 ※※


「このライオン野郎! 違うと言うのなら、ここではっきりと違うと言えにゃ!」

 タマちゃんは、スケさんに怒鳴りつけた。

 でもライオン野郎はないと思う。そのまま過ぎる。


 さて、チャームプライド公との打ち合わせが終わって家に帰ってきたら、騒がしい。

 応接間に向かうと、廊下に神妙な顔をしたデミトリとレンちゃんが立っていた。

 二人は僕の顔を見るや、さらに緊張した表情を作る。

 騒がしい声は応接間の中からするようだ。覗きこむ。

 そこで、何故かタマちゃんとスケさんが言い争っていた。

 背の低いタマちゃんが、僕と同じくらい体の大きいスケさんを指差し、どなり散らしている。

 タマちゃんは、スケさんをスパイか何かじゃないかと怪しんでいたようだ。

 確かに、今回の騒動は、色んな勢力が暗躍をしているようで、誰がどこで何をしているのか不明な点が多い。

 何しろどこにあるのか、そもそも何なのかがわかっていない秘宝を見つけるために世界中の人種が探しまわっているのだ。実は僕が持ってるんじゃないかと疑って家に襲撃をかけてきた連中までいる。

 タマちゃんの気が立ってるのも無理はないが、ちょっと言い過ぎな気もする。

 思わず、声をかけた。

「ねえ、タマちゃん」

 二人は、僕に気付いた。僕は続けた。

「スケさんは、わざわざ国境越えてまで僕を助けに来てくれたんだし、そこまで否定しなくてもいいんじゃない?」

 タマちゃんは、僕の発言にも御立腹のようだ。

「何をふざけたことを! にゃ! そこから計算だってことも考えられるにゃ!」

 タマちゃんは、かなり真剣な眼だった。

「そもそも獣頭人職人組合は、案内人の仁義を守るための組織。人命救助のために駆けつけたことで罷免されるような風聞の悪い懲罰人事なんてしねーにゃ! 第一、こいつ、その不当人事に対して、一切抗議してないにゃ。それに、そうなることがわかっててあんたに自分の境遇伝えて、一緒に旅できる流れにして。それも、獅子に豹、有力な部族の一線級が。全部都合がよすぎるんだにゃ!」

 うまくいく展開に慣れ過ぎていたので、特に違和感も持っていなかった。

「この前言ったにゃ。組合に報告されてる案内人の数と、実際に動いている案内人の数が合わないって。だから、その調査のためにフロッグワード国に合法的に監察官を入れるために、今回の罷免騒動をでっちあげたんじゃないかって、私は疑ってるにゃ」

 そこまで深読みしてたのか。

「別に僕はそれでもいいよ? 遠くの旅なんだし、それぞれ自分の目的があったって、お互いに助け合えば」

 タマちゃんに、滅茶苦茶睨まれた。

「馬鹿野郎。案内人は、そんな生半可な気持ちでやっちゃ駄目にゃ。私らは依頼人の命を預かるんだニャ! それ以外の目的なんてもって、中途半端な気持ちで、依頼人を守ることなんて!」

 僕のために、考えてくれているようだ。

 そして、タマちゃんはその怖い眼つきのまま、自分よりも三倍くらい体の大きな獅子男を向いた。その握りしめた拳が、震えている。

「私は、正式な契約なんてしてないけれど、それでもこの人の猫にゃ! だから、私の前で誓えにゃ! この人を欺いてないと!」


 それまで、一切口を開かずに僕とタマちゃんのやりとりを見ていた、たてがみをオールバックにした獅頭人は、なんと言うか、困った顔をしていた。

 そして、視線を落として、タマちゃんを眼を合わせる。

 頬をぽりぽりと掻いて、そして。

「獣聖レヴァンティンに誓う」

「何をニャ」

「今から、正直に全てを口にすることを」

 タマちゃんの唾を飲み込む音。

 獅頭人は、言葉を紡ぎ始めた。

「吾輩、この20数年、ずっと事務方であった。獣頭人の皆が安心して旅をできるように、各種取り次ぎをなすのを、天命と思い、務めてきた。のだが、今回アーマライト殿にカンテラ殿の援護を頼まれた時、手の空いた獣頭人を斡旋すればよかったのであるが、つい魔が差してしまったのである」

 ……。

「吾輩が助けに向かうのも、アリではないかと。仕事よりも友情を取る獣頭人ってイイ話っぽい気がしたのである。それで、責任を取るという形で降格処分をとりあえず受けて、ほとぼりが冷めたら復職すればいいと思っていたのである。幸い貯金はあるし。それまでの暇な期間で、噂のカンテラ殿と一緒に旅なんてしてみたくなったのである」

 ……。

「……うむ。だから、私利私欲が、ないわけではないのである」

 いや、百パー私利私欲じゃん。嫌いじゃないけれど。

 開いた口がふさがってないまま固まってるタマちゃんに、声をかけた。

「ねえ、タマちゃん。なんと言うか、獣頭人ってさ」

「言うにゃ、頼むから、何も言わないで、にゃ」

 まあ、本音は聞けてよかったよ。


「……ぁの、ゎたしも」

 消え入りそうな声が、部屋の隅からした。

 僕、タマちゃん、スケさんが思わず見やると、部屋の隅で物陰と同化しているカクさんがいた。

 すごく頑張って、声を出しているのがわかる。

「……ぁの、ゎたしも、人見知り……治したくて。それで、元気なヵンテラさんに……、その……ぉ願いします」

 人見知りを治してくて、よく喋る僕の案内人をしようと思って来た、ということなのだろうか。


 こめかみに手をやりながら、タマちゃんは唸った。

「やっぱり、私も同行するにゃ。ツッコミが足りない」

「来てくれると嬉しいよ」

「ふん、そもそも、あんたが勝手に案内人を決められるのか、にゃ? 使節団として行くなら、人選は外務卿権限にゃ」

 それもそうである。

「明日、確認に行ってみる」

 そういうことになった。



 そこで、さっきから姿が見えなかったメイド長のイオちゃんが現れる。

「旦那さん、ごはんできた」

 食べることに。

 食堂に向かって歩いていると、スケさんが最後の確認。

「カンテラ殿……、このような次第になってしまったが、吾輩を……」

「うん、一緒に行こうよ」

 とりあえず、即答しといた。

 眼が点になってるスケさんに、タマちゃんがため息交じりにアドバイス。

「こいつは、こういう奴にゃ。あんまり深く考えちゃダメにゃ」

「うむ……。ところでタタマ殿。先ほど自分をカンテラ殿の猫と言われていたが、主従関係なのであるか?」

「そこは一番深く考えるんじゃないにゃ!」

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