12月15日 草原の国 高町観照 エルフの国行き決定
おそらく平成26年12月15日
剣暦××年11月15日
草原の国グラスフィールドとホビットの国ムーンスレイブの間
グラスフィールド国境警備基地にて一泊
どこの誰が雇ったのかわからないが、ダークホビット忍者によって僕は捕まって連行された。尋問されても僕はホビット語わからないから答えようがないでいたら、アルミナ公が派遣してくれたライオン男のスケルツォさんと黒豹女のカクリコさんが助けに来てくれて、無事逃げ出した。
そして、追手を撒いた後、偶然見つけたホビット廃屋 (利用者がおらず廃棄されたホビット小屋)を見つけ、そこで一泊。
というのが、今日までのあらすじであるが、その後結局グラスフィールドの国境警備基地まで来てしまった。夜中、廃屋を訪ねてきたホビット忍者達の案内で。
ややこしいが、つまり僕と仲良くしているいつものホビット忍者の方である。ミッショデゴザルと言いたいだけの、火遁の術と称して建物を爆破する癖のある方の、ホビット忍者だ。
彼らが言うには、ホビット王は王家から離れて勝手に活動するダークホビット達を取り締まるつもりらしく、彼らの動きを手持ちのホビット忍者達に見張らせていたらしい。残念ながらあと一歩が届かず、僕をみすみす拉致されてしまったが、その後も行方を追ってくれていたとのこと。スケルツォさん達に僕の監禁場所を教えてくれたのも、彼らだったのだ。
その時のスケルツォさんの「おお、草原を捜索している時に、小屋への道を指し示すようにパンの欠片が落ちていたのは偶然ではなかったのか?!」発言により、このライオンさんもボケ属性であることが発覚した。
廃屋を出て、月明かりの中、出発。彼らの案内で、僕達を探しているらしい草原の国の騎兵隊と合流できた。一人先に王都に戻ってもらっていたノーズさんも、一緒に襲われてなんとか逃がしたフッドさんも、無事で、僕達を探してくれていた。 特に、フッドさんは涙もろいのか、僕の無事を確認してぽろぽろ泣き始める。おいおい、そんな泣き虫で騎兵なんてやれんのかい。
国境警備基地に着くと、イオちゃんとタマちゃんがわざわざ迎えに来てくれていた。二人とも、かなり心配してくれた様子。『また行方不明にならずに帰って来たよ』と笑ったらイオちゃんに怒られた。結局、何をしても怒られるのだろうか。
とりあえず、事情を把握してそうなアングラ系猫耳娘のタマちゃんに何が起きているのかを確認する。
①エルフの派閥争いが深刻化しているようで、一部の連中がフリーのホビット忍者や求職中のダークエルフ、依頼人をそんなにえり好みしない獣頭人職人組合に【秘宝・ミキテル】の捜索を依頼してしまった。僕を襲ったのも、その内のどこかの派閥だろうとのこと。おそらく、僕が【ミキテル】について何かを知っているのではないか疑惑は、皆が持っている。
②イリス王女殿下は、国境をブチ抜き急行した近衛騎兵連隊により『黄土の村』で発見。無事保護されたとのこと。なお、『別に私が狙われるわけじゃないんだし、もう少し羽をのばしてもいいじゃないか。例えば、エルフの国くらいまで』とかほざいたので、簀巻きにして現在移送中。どうしても一枚噛みたがってるようだ。
③エルフ国王位継承者ニオ・フロッグワード殿下は、草原の国に公式に人材派遣の依頼を出した。表向きは考古学発展のために、古代宝物学の研究者を招聘するということだが、間違いなく【ミキテル】捜索のために、高町観照に来いと言っている。
①僕がこのまま自分の屋敷に帰ると、襲ってくる人がいて皆が巻き添え食らうかもしれない②姫様が帰ってきたら、我儘言って僕に無茶をさせる可能性もある。③分断主義の中でさえ、唯一交流のある考古学のための公式な依頼となれば、断るのも難しい。
僕は、いよいよエルフの国に行かねばならないようだ。
しかし待って欲しい。僕の名前が高町観照というだけで、僕はエルフ秘宝【ミキテル】が何かなんて全然しらないのだけれど。
さて、どうすっぺか。
※※
国境警備基地で一晩明かし、明日一度旅の支度のために王都の屋敷に帰る。
流石に一泊するくらいで敵さんが襲ってくることはないだろう。そして、帰る前までに決めなければならないことがある。
夜中、一人暖炉の前で丸まってくつろいでいたタマちゃんに相談した。
「タマちゃん。エルフの国に一緒に来てくれないかな」
「ふざけんじゃねーにゃ。何が嬉しくてあんな危険地帯に。第一、私は案内人の資格なんてもってねーにゃ。もぐりのバッタモンにゃ。異国を旅するなら、正式なプロを雇えにゃ」
「そりゃ、正式なプロを雇うとしても、タマちゃんにも来て欲しいんだ。ほら、エルフ語も堪能だし」
タマちゃんが起き上がる。
「観照さんは、私を侍らせたいにゃ?」
「いえ、決してそういうわけじゃ」
「だって、あなたの横には、高位の獅頭人や豹頭人だっているにゃ。私である必要がないにゃ。能力でないなら、私にはこの愛玩動物みたいな容姿しか、ないにゃ……」
「一緒に旅して楽しいって、大事な要素じゃないの?」
「本当に、そう思ってるにゃ?」
「この一カ月、何見てたのさ」
「あなたを見てたにゃ」
すごい返し方をするなこの猫人さん。
「私なんかで、役に立てるかにゃ」
「滅茶苦茶重要な役目だよ」
「……」
「話してみてわかったけれど、あのライオン男のスケルツォさんも、黒豹のカクリコさんも、僕について来る気満々なのはいいんだけれど、どうもボケの匂いがするんだ。このままではパーティがボケボケボケのフラット3を構成してしまう。ここで強烈なツッコミであるタマちゃんの加入は必須なんだよ!」
熱弁したら、タマちゃんにすごい冷めた眼で見られてた。
「……まー、あんたがそういうムードの欠片もない男だって、わかってたつもりだったけれど、にゃ」
そして、僕を無視して丸まり
「まー、考えといてやるにゃ」
一歩前進、だろうか。