12月4日 昨日の夜アルミナ公に報告 今日の昼エルフ一行帰国
おそらく平成26年12月4日
剣暦××年11月4日
草原の国グラスフィールド
王都 僕の屋敷
昨日の晩。レイさんが帰ってこないので、晩御飯食べて、風呂入って、日記を書いて寝てしまった深夜。
レイさんがアルミナ公の手紙を持って帰ってきた。すぐ来いとのこと。
眠いけれど、仕方ないのでタマちゃんとシャラクさんに起きてもらって、4人でアルミナ公の邸宅にお邪魔することにした。
久しぶりにあったアルミナ公はやっぱりやつれた中年という風だったが、言葉はとてもハキハキしている。滑舌よく、エルフ語を操る。
挨拶もそこそこに早速シャラクを紹介し、僕の知る限りの事情を説明した。
アルミナ公はエルフ語堪能なので、直接シャラクさんに色々質問して、そして何かを考え込んだ後、僕に数枚の書状を見せてくれた。
今、政争真っ最中のエルフの国フロッグワードにおける各派閥の有力者や高官の名で、国王崩御と、時期国内体制についてを報告する内容であった。
エルフ語なんて読めないので、タマちゃんに読んでもらうと、どうも王子を取り巻く次の文官武官の名前が文書によって全然違うらしい。
かいつまんで説明を受けるが、つまり、主導権争いをしている連中が国王崩御に関する公報を出す前に、フライングして他国の政務機関に自分の派閥が国を主導していく、という文書を勝手に送っているということである。
タマちゃんの見立てでは、王位継承の証である秘宝【ミキテル】の捜索がまったく成果が上がらず、主導権を握るにまで至っていない現状を巻き返すために、他国に自分が次の摂政であると認識させ、外圧を持って有利に進めていこうということにゃ、とのこと。
アルミナ公も、自分も同じ考えだと、口を挟んできた。
この件に、草原の国は一切、関わる気はないため、この文書を国王に見せる気はない、というのは、法務卿、外務卿、内務卿の結論だそうだ。
国王が見てしまったという事実が残れば、この問題に関わらざるを得なくなる。
だから、全力で揉み潰す。
で、エルフの国から来たシャラクさんはその書状を全部読むや、それはもう恥ずかしくて死にたい、というくらい顔を紅潮させていた。こういうの、嫌うタイプだからなあ。【どうか、エルフが皆こんな恥知らずな連中だとは思わないでください】なんて震える声で言ってた。「わかってる」と、タマちゃんを通して、伝えてもらった。
虎頭人のレイさんは、首をかしげていた。
「エルフは、とても自尊心の高い生き物のはずです。このような他力本願な手段を、自発的に取るとは思えません」
やはり低い声だが、注意深くそうおもって聞けば、やっぱり女の声だ。
そして、レイさんの発言に対して、シャラクさんはエルフ語で言ったのだ。
エルフ語だったので、わからなかった。
多分、『そうでないエルフもいる』というようなことを言ったのだろう。
ウタちゃんとマロくんを連れてこなくてよかった。こんな、つらそうなシャラクさんを見せなくて。
最後に、僕の意見を訊かれたが、できるだけ、政治色のある発言はしないように気をつけているので「それぞれの派閥が各国に手紙を送ってるってことはエルフの国は手紙を運ぶ案内人を何人雇ってるんでしょうね」と見当外れのことを言ってみた。
のだけど、その発言に、アルミナ公も、シャラクさんも、レイさんもえらい食いついてきた。なんで?
あとでタマちゃんに確認してみると、どう考えても、今エルフの国で動ける獣頭人の案内人と、これらの手紙を運んでいるだろう案内人の数が合わないんだって。
可能性は
1、獣頭人職人組合に案内人の数を誤魔化して報告をしている部族がある。
2、ダークエルフを案内人として雇ってるエルフがいる。
3、他国の王族情報に興味持つような人間の国にだけ手紙を送っている。
そのどれかにゃ、とタマちゃんはつまらなそうに言ったけれど。
僕の異世界人生の経験から言えば、全部なっててもおかしくはない。
その夜はそれで解散。
シャラクさんは、とりあえず、日が明けたら、エルフ姉弟を連れて帰ることになる。
帰路の馬車でも黙りこくったままだった。
翌朝、つまり今日の朝。
未だに顔が晴れないシャラクさんを連れて散歩に出る。
元気になって欲しいなと思って、大通りまで出てみる。
見慣れない異国の市に興味があるのか、少しだけ、元気が出たよう。
ウタちゃんとマロくんを連れて、今日の昼にエルフの国に出発する頃には、笑ってくれた。
結局、エルフの国の収穫祭には行けなかったけれど、また遊びに行くことを伝えて、別れる。
レイさんにも、ぜひ次の冒険には私と契約を、と営業される。
シャラクさん、ウタちゃん、マロくん、レイさんが見えなくなるまで手を振る。
見えなくなった後、タマちゃんがぼそりと「猫より虎の方が見栄えはいいか、にゃ」
意外と、嫉妬する子なんだろうか。