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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
既に一年経過! カンテラの人となりに触れる編
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4月2日 草原の国から小人の国の旅路 女性陣に帰れと言ったら、大いにモメた

 おそらく平成26年4月2日

 剣暦××年3月2日


 草原の国 領地上馬車の上



 馬車に揺られながら、一日を過ごす。

 恐ろしいくらいにのどかな一日。こういう時は、次の日にとんでもないことが起きたりする。何もないことを祈りながら、今日くらいはゆっくり幌車の中で、ゆられていよう。


 と思っていたのが午前中。



 昼飯の時間に、勝手についてきた女の子達に、今回は帰ってというお願いをしなければならない。

 イリス王女とお付きのスノウさんは、近衛兵長が連れてってくれたから、問題なし。(散々文句を言っていたが、どう考えても、無茶である。近衛兵長は立ち去る間際「ウチの馬鹿がご迷惑を……」としきりに謝っていた。こっちが頭を下げたくなる。簀巻きで城に連れて帰られる姫なんて、あの姫様だけだろう)


 しかし、僕は剣祖共通語をまだ片言くらいしか喋れないから、ジンさんに全部通訳してもらう。

「ジンさん、とりあえず、皆に帰ってほしいってことをオブラートに包んで説明してくれないかな」

 犬頭人の心底迷惑そうな顔を、はじめて見た。

「オブラートとは、何だ」

「あー、なんて言ったらいいのかな」

「文脈から言いたいことは大体わかる。しかし、……それを俺に言わせるのか?」

 僕も心底困った顔をしていたのだろう。

「ごめん……。僕、まだこの国の言葉、喋れない」

「……言葉のわからない者同士の意思をつなぐ。これも、案内人の仕事の内か」

 ジンさんは苦虫をかみつぶした顔で、五人の女の子と向き合う。



 ジンさんから撤退勧告を受けた残り五人は何かをわめき散らしたり、淡々と説明したり、熱心に何かを演説したり。

 すべて聞き終わったあと、うんざりした様子で、ジンさんは通訳してくれた。



 ドワーフ娘のレミィちゃんには、正式にドワーフ軍団の百人長になったのだから、勝手に抜け出すな、と常識論をかましたのだけれど、「私はドワーフ王元帥閣下から、カンテラに見染められて来いって言われて……、じゃない! カンテラをドワーフ軍団に引き抜いてこいと命令されてるんだ!」とか顔を赤くして吠えた。……。あの王様なら、それくらい言いかねない。


 剣の国へおつかいに行く最中に知り合いになった、旅芸人のサンドラさんには、自分のサーカスはどうした、と訊いたところ「人の手に渡った」とのこと。(ふと、以前に僕のために大金を貸してくれたことを思い出す。まさか、あの金を捻出したせいで……、と僕が少し顔を青くした)彼女は続けて快活に笑って「あの時の借金は関係ない、あの頃は羽振りがよかったから端金さね。なあに賭けに負けて取られただけさ!」とまあ、楽しそうに後ろで束ねた赤髪を揺らした。全然楽しくない。 


 行商人のタマちゃんには、かなり厳しく言い咎める。しかし、猫耳の生えた女の子という見た目と裏腹に、彼女はしぶとい。これからの旅費のことや、道連れのメリットを散々熱弁してくれるので、こっちが根負けした。


 クォーターオークのリーヨンちゃんは、犬が怖いせいか、ジンさんに見つめられて、目も合わせられないようだったけれど「自分はカンテラ様と次は一緒に旅をすると約束した。絶対に帰らないです」と断言したとか。


 エルフの元軍人で、竜山脈戦争で退役したシャラクさんが何故ここにいるのか一番の謎だったけれど、何か、ジンさんに熱心に語っていた。

 ジンさんの説明では、ただひたすらに、僕のことを褒め称えていたらしい。……意図がまるでわからない。

 すると、ジンさんはすごく大きな溜息を一つ「要するに、お前に会いに来ただけだ」

 なんで?

 僕はシャラクさんにはひたすらに、エルフ以下の虫けら的な目で見られたことしかないし、一番最後なんて、おしっこもらしたところ見られたのだけれど……。


 最後に、今回は同行をお願いしなかったはずのレンちゃん。レンちゃんは日本語わかるから、僕が直接言おうかと思ったけれど、贔屓したらいけないし、「これは案内人の仁義にかかわる問題だ」と一番マジな顔して、ジンさんはレンちゃんと何か僕の知らない言語で言いあっていた。

 で、最後泣き出した。


 すると、他の女の子がよってたかって、ジンさんを責め出す。言語はわからなかったけれど、ジンさんが大分たじろいでいた。

 僕のせいだと思って、ジンさんを僕の後ろに隠して、片言でなだめようとするが、皆もまくしたてる。

「ジ、ジンさん、皆なんて言ってるの」

「……俺は知らん。こんな行く先々で女をひっかけまわる癖に、女の扱いを知らん餓鬼みたいな奴、どうやって案内しろと言うんだ」

 なんか、落ち込んでいる。


 

 午後からは、ものすごく馬車の空気が悪かった。


 レンちゃんを慰めるために、女性陣が一致団結し始めたし、ジンさんは戦闘不能になるし。


 前途多難すぎる。



 国境まで、この調子だと一週間もかからないだろう。というのが、今日ジンさんと最後に交わした会話だった。



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