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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
エルフの国へ行こう! 獣頭13部族大集合編
133/363

11月20日 草原の国 王都よりセンチペドに向けて出発 ラッセルさん家で宿泊

 おそらく平成26年11月20日

 剣暦××年10月20日


 草原の国グラスフィールド

 センチペドの手前の小さな村 ラッセルさん家



 今朝、王都を旅立つ。 

 僕と、タマちゃん。そして、リーヨンちゃんと、ジンさんの4人。

 移動手段は例によって例の如く、馬車。

 今回は貸切馬車を利用。

 僕もそろそろ自家用馬車の一つくらい持った方が経済的なのかもしれないが、なんか持つ気になれない。

 この前の冒険でお世話になったジョッキー・リードさんに御者をお願いする。

 人のいいリードさんは、僕やリーヨンちゃん、ジンさんのことを覚えてくれていた。

 タマちゃんなんかは「そりゃ、忘れたくても忘れられない面子だにゃ」とか言っていたが。

 馬車で旅することを説明すると、彼女「あんた、いつから馬車で移動できる身分になったにゃ、お大臣様気分かにゃ」とか口悪いことを言っていたが、いざ馬車に乗る段になると、妙に緊張して踏み入れるのを戸惑っていた。

「タマちゃん、馬車乗るの初めてだっけ?」と訊いてみると「当たり前だにゃ」とか、こわばった顔のまま怒り返してきた。

 いくら獣頭人が徒歩大好き生物でも、契約主に同乗して馬車に乗ることくらいあるだろうに、と言おうとして、そっか、この子案内人なんてしたことないんだな。ということをおもいだす。

 とりあえず、にまにま見ていることに。

 しかし、余りに怖がって乗ろうとしないので、手を引いて、乗せてあげる。

「勝手に手握るんじゃねーにゃ!」とか怒られた。扱いに、困る。

 全員乗車。出発。

 窓から、手を振って見送ってくれる屋敷の皆に手を振り返す。

 イオちゃんもレンちゃんもデミトリも、ピコくんも、メイドの皆も、見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。

 お土産、たくさん買ってこなくちゃ。


 最初は座りが悪そうに車内をきょろきょろしていたタマちゃんだが、慣れたら後は勝手知ったると言わんばかりにどうどうとしている。

 リーヨンちゃんの膝に乗ってゴロゴロ言ってるかと思えば、窓から身を乗り出すし、おやつは食べだすし。

 こんな自由気ままにしていたら、ジンさん当たりが何か言いだすかと思ったが、彼は無言。とりあえず「ジンさん、いいの? いつもなら獣頭人の恥部め! とか言って怒鳴りそうなのに」と茶化すと「今の契約主であるリーヨン殿下は、タタマのああいうところを好いている。殿下に迷惑がかからないのであれば、あれでいい。お前も、別にタタマの振る舞いが気にならないのだろ? なら、プライベートな空間でまで、俺がとやかく言う必要はない」と、なんだか大人な意見。

 ジンさんがタマちゃん叱る時って、大体第三者の眼がある時か、彼女が詐欺紛いかボッタクリをやってる時だけだもんな。

 タマちゃんも、リーヨンちゃんも楽しそうだ。なら、それでいいのだろう。

 ……ジンさん、タマちゃんの保護者みたいだな。

 まさか、血縁関係なんてオチないよね。


 無事に、日が出ている内に、センチペド一つ手前の町まで辿りつく。

 ラッセルさんという人の家で歓待を受ける。この人は複数の獣頭人と顔馴染みで、ちょうど朝早くに王都から旅立つと夕方に到着するこの村で宿を求める人達を迎えるのを趣味にしている。

 正直、異世界人と獣頭人とオークという組み合わせがどこまでこの国の人達に受け入れられるのか、未知数なところはあったが、ここでは好奇心が上回ってくれたらしい。

 僕とリーヨンちゃんはベッドを借りたが、ジンさんとタマちゃんは納屋へ行く。

 遠慮しなくていいのに、と思ったが、ここは僕の家ではない。

 獣頭人に部屋で寝かせないというこの世界の常識に従って振る舞うべきだろう。ラッセルさんも意地悪でそうしてるのではないし、ジンさん達も、当たり前に礼を述べて家を出た。

 そういうものなのだ。


 広い部屋で寝ると遠吠えしてしまう開所恐怖症の犬頭人や、寝ている最中に無意識に柱で爪を研ぐ習性がある猫頭人は、客間では寝るのは憚られる。

 明日、センチペドに到着する予定。



 ※※



 お昼休憩に、停車して、皆でお弁当を食べることに。

 御者のリードさんも、一緒に昼食。

 草原の国は、都や村の間には草原しかない。

 風の気持いい国だが、今の季節は寒い。僕も下着と服の上にもう一枚上着を着てる。

 ジンさんも、フードのついたマントに体を包めている。

 そんな中、リーヨンちゃんとタマちゃんは普段着のまま草原を走って遊んでる。

 ……元気だな。

「僕のいた世界じゃ犬は寒いと喜んで、庭を駆け回るもんなんだけどね」

「残念だったな、ここは草原だ」

 案内人契約がどうのこうのと言っても、やっぱり僕とジンさん、リーヨンちゃんとタマちゃんという組み合わせになってしまう。

 まあ、それも見越してのチーム編成なんだけれど。 

 休憩中、タマちゃんがいない時を見計らって、訊いた見たかったことがある。

「ねえ、ジンさん。タタマって言いにくくない?」

 僕も最初はタタマちゃんと呼んでいたのだが、物凄く言いにくくて、タマちゃんと言ったのが、いつだったか。気が付いたら、ニックネームになってた。

 ジンさんは寒そうに顔をしかめたまんま

「いや、普通にタタマって言えるだろ、なんで一文字減らす?」

「僕の滑舌が悪いから、言えなくて」

「タタマはそれで納得したのか?」

「……嫌悪感はないみたいだったから、そのまま通した。ねえ、ジンさん、今更だけど、名前を縮めて呼ぶのって、獣頭人は好まないの? それとも、僕ってもしかして、馴れ馴れし過ぎたかな……?」

 今更に、今更な質問をしてしまった。

 しかし、ジンさんの顔色は変わらない。

「今更だな。『ジン』も『タマ』も、親しい間柄だけの愛称の範疇に入るよ。お前が馴れ馴れしいのは、いつものことだしな」

 そっか。

「ただ、タマなんて呼んでるのはお前とリーヨン殿下だけだ。と言うか、タタマ自身が、そう呼んでいいのがお前達だけと決めている。俺が言うと、怒るんだ」

 なんか不貞腐れてる?

「もしかして、タマって呼びたいの?」

「……」

 何故に無言。

「ジンさん?」

「俺の方が、付き合い長いのにな」

 やっぱこのひと不貞腐れとる。


 



  

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