11月9日 国王陛下よりの依頼 『不法滞在エルフを見つけてこい』
おそらく平成26年11月9日
剣暦××年10月9日
草原の国グラスフィールド
王都にある僕の屋敷
国王陛下に呼び出され、城に行くと、奇妙な依頼をされた。
『草原の国内に、不特定多数のエルフが、法規制を無視して紛れ込んでいるという噂が流れている。その真相を調べ、もし実際にエルフが特定の目的を持って国内に入り込んでいるのならば、対処方法を検討して欲しい』というもの。
それこそ法務局なり警察局なりが動けばいいと思うのだけれど、公的権力を利用してエルフを疑うような真似をすることが国際問題に発展するおそれもあるため、偶然僕が見つけたということにしたいのだそうだ。
国王陛下も無茶なこと押し付けるよな。
聞かされた第一声が「僕の手に余ります」だったのだが、「昨日、ワシの娘が突然城下に忍んだそうなのだが、何か知らぬか?」とか言って脅してくるから、とりあえず、調査だけすることにした。
実務については、法務卿アルミナ公と打ち合わせをする。
すごい、気まずい。
と思いきや、なんと言うか、すがすがしい表情をしていた。
「ピコ君は元気かね?」とか訊かれる。この前あったばかりじゃないですか。
剣祖共通語の勉強を始めていることを教える。執事業務に必要なのもそうだけれど、自分自身の力で人とコミュニケーションを取る力を付けたいらしい。そのために、ラドゥバレトフ大陸で一番使用者の多い言語、剣祖共通語を学ぶのが効率的とのことで。
今までは剣語で『旦那さんお茶入りました』しか言えなかったが、今朝は『旦那様、出発のお時間でございます』と言われたことを説明。
それを聞いたアルミナ公は、嬉しそうだった。
わかっていること。
・王都だけでなく、草原の国内の主要都市でエルフらしき人物の目撃情報があること。
・彼らは特に何かをするわけでないが、民家の中をじろじろ覗きこんだり、草原の国で使われていない貨幣で買い物をしようとしてトラブルになったり、武具持ち込み禁止の地域に弓を持ったまま入ろうとして官憲に止められたりする。マントについたフードをすっぽり被っているので顔はほとんど見えないが、偶然見えると、とんがった耳の美形の男女なのだと言う。
・使う言語が聞きなれない言葉のため、コミュニケーションをとれたものはいない。実際に応対した者が聞き取れた言葉は【セラル】【フレーレア】【ミキテル】の三種類のみ。どうも、その言葉が示すものを探しているらしい。
目撃証言の多い町をピックアップしてもらい、調査に行くことになるが、今の僕には案内人がいない。
ジンさんはあくまでリーヨンちゃんのお付きだ。
草原の国が契約している案内人を貸してもらえないのかと訊いてみたが、今は皆別の任務について出払っているのだとか。
それと、アルミナ公がオフレコで教えてくれたが、どの獣頭人も、僕と契約するのを嫌がるんだとか。
僕の契約したジンさんが、事あるごとに「あのカンテラだけは本当に滅茶苦茶して俺をこき使う」とぼやいていたらしく、皆僕が獣頭人使いの荒い奴だと思ってるらしく。
ひどい。本当のことだけど。
調査に出るにしても、まずは人員の確保からだ。
そりゃ、レンちゃんにメイドから護衛兼案内人に戻ってもらうのが一番手っ取り早いけれど、エルフ絡みの仕事に使うのは気が引ける。なんだかんだで、レンちゃんもダークエルフだし。
ユキくんに帰ってきてもらえたらいいけれど、彼も忙しいだろうし。
後、僕の知り合いの獣頭人と言えば、猫頭人のタマちゃんくらいだけれど。
彼女も放浪癖あるから、連絡とるのは難しいよなあ。
帰ってからは、誰に協力を仰ぐかを考えるのに時間を潰してしまった。
僕が気難しい顔をしていたのか、イオちゃんが「旦那さん また旅に出るん?」と心配している。
「今度は行方不明にならないようにする」とは言ったけれど、約束守れるだろうか。
あと、リーヨンちゃんをセンチペドに連れていくことにしてるが、どうしよう。
……いや、それを理由に国内を旅行すればカモフラージュになるか?
まあいいや、眠いし、明日考えよう。
今日の夕飯は ハンバーグとネギのスープ ドワーフサラダ
おいしかった。




