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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
姫様とデートをすることに! 抱える頭 浮かれる心臓編
119/363

11月7日 草原の国 法務卿アルミナ公 僕の屋敷に来る。 ピコくん、養子縁組の話を断る。

 おそらく平成26年11月7日

 剣暦××年10月7日


 草原の国グラスフィールド

 王都 僕の屋敷



 目覚めると同時に、フレイムロード侯爵家から出る。

 一応、侯爵夫人に挨拶。『もっと遊んで行きなさいよ~』とか言うが、固辞する。

 これ以上いたら僕の肝臓がもたない。

 ミシェールさんにもハンカチを返しがてら、帰宅の挨拶をしにいったら、昨日買ってきたという新しい服を見せられる。何かいい感想でも言えばよかったのに、早くこの屋敷から出たかった僕は『ばっちり似合ってます』とだけ言って帰ることを報告する。

 今度、一緒に国立劇場に、観劇に行こうという約束をして、終わる。


 帰りの馬車。僕と、これまた昨日買ってきた、落ち着いた色合いのツーピースに着替えたリーヨンちゃんが馬車に乗ると『せっかくだから、家の前まで見送るわ~』とか言いながら馬車の中に這入ろうとしてきた侯爵夫人。

 固辞した。丁重に、馬車から叩き出した。

 馬車の揺れに体をあずけ、ぐでっとなる。とても疲れた二日間だった。リーヨンちゃんが、ものすごく喜んでくれたのが何より。


 朝帰宅すると、僕の屋敷の玄関。

 気難しい貌をしたイオちゃんが、立っていた。

 あれ、もしかして朝帰りを怒ってるのだろうか。ちゃんと帰れないという連絡はしてもらっていたけれど、そういう問題ではないということだろうか。

 馬車から下りた僕を目にするやいなや飛びかかるように走ってきて、

「旦那さん! 急いで! 着替えて! 準備して!」

 手を引っ張られ。屋敷に放り込まれると、服は無理やり剥ぎ取られるわ、風呂に叩き込まれるわ、背中を流されそうになるわ (そこは固辞した)、てんやわんや。横目に屋敷の様子を見ると、他のメイド達も掃除やら何かの準備に走り回っている。デミトリも、僕が帰ってきたらにやにやして「昨夜はお楽しみでしたね」とか言いそうなものだが、僕を見るや一礼だけして走り去った。

 簡単に風呂に入り、髭をあたり、湯上り、急に礼装を渡される。

 ??

 何が起きたの?

 部屋の片隅で、これもやっぱり一番上等な服を着て、蝶ネクタイなんてつけたジンさんが待機している。

「ジンさん、その蝶ネクタイどうしたの? 怖ろしい程似合ってないよ」

 軽口のつもりで言ったが、ジンさんはマジな顔をしていた。

「……どうしたの?」

「このネクタイという奴は、首が締まって苦しい」

 ああ、そっちかい。

「ちなみに、今から法務卿アルミナ公が来るぞ」

 ……そっちを先に言ってよ。


 僕も初めて知ったのだが、今日は執事見習いのピコくんの誕生日で、お祝いにアルミナ公が僕の家に来るらしい。そして、養子縁組についての回答を、今日することになってるんだそうだ。

 僕、聞いてない。

 僕がフレイムロード候の屋敷に発った直後に、アルミナ公の使者が来たのだそうだ。

 だったら、連絡してくれればいいのに。

 ジンさん曰く「王国一の美貌を持ち、王国一酒の強い女と言われるオリガ侯爵夫人の噂は有名だからな。その酒癖の悪さも。万が一、法務卿の来訪に会わせて侯爵夫人までこの屋敷に遊びに来るなんて最悪の事態をさけるため、ギリギリまでお前で夫人を足止めしようということになった」

 僕、一応この屋敷の主人なのだけれど。



 とりあえず、約束の正午には、すべて準備は整った。

 ダークエルフメイド達は『熱烈歓迎! 法務卿』『今日はお触りOK』とか横断幕を用意していたが、もちろん片付けさせた。

 いつ来るのかなーと緊張しながら待っていると、玄関に随分と古めかしい馬車が一台停まった。

 なんだあのみすぼらしい馬車? 公の使者が先に着いたのか? とか思っていたら、なんと馬車から、花束を抱いたアルミナ公爵が降り立った。

 びっくりだわ。もっといい馬車に乗って現れるのかと思ったら。(あとでデミトリから教えてもらったのだが、あの古い馬車は初代アルミナ公の時代から使われていて、最も大切な行事に参列する時にしか使われない代物らしい)


 とりあえず、僕とピコくんでお出迎え。

 花束を受け取ったピコくん、自分が執事の格好、男の恰好をしていることについて何か説明すべきか迷っていたようだが、公はそこには何も触れずに、ただにこりと挨拶してエルフ語で『誕生日おめでとう』と言うにとどまった。ダークエルフの褐色の肌に、少し赤みがさしているのを横目で見て、この子、誕生日を祝われるのは初めてなのかもしれないな、なんて思った。

 屋敷に案内。

 リーヨンちゃんも、一応お忍びとは言え、隣国の王族として挨拶。その後、部屋に隠れてもらう。

 僕、ジンさん、アルミナ公、ピコくんで、応接間にて、歓談。

 デミトリがお茶を持ってくる。アルミナ公はデミトリを見て少し驚いていた。

 後で、デミトリに訊くと、昔軍属だった頃、同じ部隊にいたことがあるらしい。どちらが上官だったのかは、質問するの忘れていた。

 紋切型のあいさつを済まし、僕がフレイムロード侯爵家に招待されたことを話すとオリガ夫人の話題になった。アルミナ公もあっこの夫人に3日3晩付き合わされて死ぬかと思った話をしてくれた。

 談笑して、お菓子をつまんで、御茶を飲んで。


 そして、ピコくんの話題になった。

 僕は口を挟まない。

 アルミナ公とピコくんは、とても、とても大切なものを見る眼つきでお互いを見ていた。

 三つ四つエルフ語で言葉を交わし、顔を伏せたピコくんの頭を、アルミナ公が撫でてあげて。

 そして、歓談は終わる。

 アルミナ公は公務があるとのことで、食事もせずに帰ることに。

 帰り間際、「タカマチミキテル君、いつでも私の故郷を訪ねてくれ。君の来訪を、私達センチペドは待っている」と日本語で言ってくれた。

 見送った後、歓談に同席していたジンさんに、ピコくんとアルミナ公が何を話していたのかを訊いてみた。

「それを訊くのは、お前の言うところの野暮ってやつじゃないのか?」

 と、真面目な顔をして言う犬頭人に、「まっこと僕もそう思うのだけれど、またピコくんを連れてセンチペドに行く時のために、知るべきことは知っておきたい」と真面目に答えてみた。


 ジンさんは教えてくれた。

「ピコは『今はもう、自分のことを家族のように大事にしてくれる主人や仲間がいるから、その人達を置いて自分だけ幸せになろうと考えられない』と断った。あと、『私が男なのを言えなくてごめんなさい』と付け加えた。アルミナ公は、『君が男の子だって、もちろんわかっている。君を娘の代替に、なんて考えたことはないよ。それでいいんだ、君が君の家族と共に幸せになってくれることを願っている』と答えた」


 なんだか、どっと肩に荷が乗ったような気がした。そんな僕の様子を察してジンさんは言う。

「お前がピコの幸せについてまで責任を背負おうなんて考えるなよ。そんなのは、本人が努力することだ」

 そうなんだけど、ね。

「お前が想われる主人としてすべきことは、そうだな、給料の未払いをしないことだ。そんな程度で良いんだよ」

 やっぱり、ジンさんがいると、僕の心にかかる重さはちょっと違う。


 まだ、お日様は天頂から動き始めたばかり。

 絶好の昼食日和。

 大慌てでイオちゃんが作った昼ごはんを、中庭に長机を並べて、皆で食べた。


 デミトリ、イオちゃん、レンちゃん、ピコくん、メイドの皆、リーヨンちゃん、ジンさん。

 いつの間にか、僕の家族も増えたもんだ。


 その昼食を食べながら家族達に「あ、そうそう。明日の朝から、姫様と出掛けてくるね、デートだってさ参ったよ」と伝えると、


 激震が走った。


 皆口をそろえて「大丈夫なのか?」と心配している。

 プランは考えてると説明しても、信じてくれなかった。

 え、どうして皆そんなに深刻な顔するの?

 僕だって女の子のエスコートくらい……、できるんだろうか、不安になってきた。

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