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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
姫様とデートをすることに! 抱える頭 浮かれる心臓編
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11月6日 草原の国 オリガ侯爵夫人と一日中酒盛り 今晩も泊めてもらうことに

 おそらく平成26年11月6日

 剣暦××年10月6日


 草原の国グラスフィールド

 王都内のフレイムロード侯爵邸 長子の部屋



 結局、今日も丸一日接待されて、あの侯爵夫人の『もう一日いなさいよ~』という甘ったるい声のせいで、泊まることに。

 流石に明日は帰る。



 ※※



 デミトリは今朝早くに僕の屋敷に帰った。

 自分の家なんだからいなよと懇願したが、「今の私は高町家の執事。主人の留守を預かるのが務めでございます」とか抜かして慌てて帰りやがった。

 挨拶もされずに逃げ帰った義理の叔父に、『も~叔父様ったらいけず~』とかぷりぷり怒るオリガ夫人を見てると、やっぱデミトリはこの夫人のこと苦手なのかな、と思う。デミトリは老獪な好々爺というキャラを作ってるけれど、夫人は、多分、素がこれだろうからな。


 で、リーヨンちゃんはミシェールさんと意気投合したらしく、朝から一緒にショッピングにでかけるらしい。なんでも、背の高い女性にも似合う衣服を揃えた店が大通りにあるらしく、二人で行ってみようと昨夜話したんだとか。

 そういや、ミシェールさんは身長180cm近くあるし、リーヨンちゃんに至っては僕よりも背が高い。その上二人ともかなりスタイルいいから、似合う服もそうないのだろう。こういう情報の共有は大事なのだね、うん。いってらっしゃいと送り出す。

 送り出し間際、ミシェールさんから『どうぞ、自分の家と思ってお寛ぎ下さいね。伯母が相手をさせていただきますので』と気遣ってもらう。


 ……いや、待てよ? まさか、僕は一人であのぽわんぽわんした見た目が実年齢-10歳を相手にしなきゃならないってことか?


 そのまさかだった。



 背の高い少女二人が12頭引きの馬車で出掛けるのを、オリガ夫人と一緒に見送った。馬車が見えなくなると、夫人は体を僕に押し付けてきて、腕にまとわりつく。

『ね~。暇だから~、オバサンの相手してくれないかしら~』

 そうは言ったって、7歳くらいしか違わんでしょ、僕とほぼ同年代ですがな。

 しかし、このマイペース人妻に逆らう方法が思いつかず、流されるまま中庭に連行された。


 

 そこからは、ひたすらに酒盛りだった。

 中庭に連れていかれると、テーブルと大きな日傘がセッティングされており、給仕とメイドが3人ずつ。あと、見えるところでコックが二人、肴を用意している。

 この女、最初からそのつもりだったな。


 仕方ないので、お相手をさせてもらったが、この夫人、えらい酒豪で、開幕からワインを2本空けやがった。

 僕も勧められるが、先日酒でひどい二日酔いを味わったところなので、あまり食指が動かない。正直に言うべきかと思ったが、断ってそれでわかってくれるようなキャラをしているとは思えず、仕方なく一口、飲む。


 やばい、これうまいぞ。


 いい酒というのは、とにかく喉越しがいい。まるで水みたいにす、と飲めて、うまい味だけが後から舌全体にしみ込んでいくものだが。

 この世界に来てから、ワインでそれを味わったのは初めてだった。

 酒の銘柄を聞いたが、僕の知らない土地でとれたブドウを使った、知らない飲み物だった。

 他にも、麦酒やら果実酒、オークの国から届いた明らかに密輸品な米酒 (日本酒みたな味)、あと焼酎みたいな味の謎の度の強い酒などなど、とにかく色々出てきた。

 肴も、僕の趣味を知っているのか、豆を茹でたのとか、サーモンにオイルまぶしたのとか、味付けが単純だけど質のいいものが取り揃えられる。

 すごいな、こんなものぱっと用意できるなんて、やっぱりこの家すごいわ。


 で、片言の剣語でオリガ夫人と談話。

 夫人も、僕の旅の話を知りたがった。それも、他の貴族さんが聞きたがる武勇伝よりも、僕が旅先でみた美しいと感じたものについての話を。

 そう、僕が話したいことを話させてくれた。話したいことを話せるように、会話を誘導してくれる。


 そして、今まで誰にも言ったこともないようなことまで口にしてしまう。

 僕が、イリス王女の派閥に取り込まれた人間でありながら、対立するリオロック王子派の腹心であるフレイムロード家と懇意にしているということ。

 それを背信と捉える人間もいること。

 地球にある僕の実家では、僕の家族は皆、死別か行方不明になっており、叔父夫婦の家に厄介になっていること。もう、帰っても誰もいない。

 けれど故郷に帰りたいこと。それを、誰にも言えないこと。

 この世界に来てから、体重が増えたような気がするけれど、僕の重さを測れる体重計がないこと。申告している体重は、異世界に来た二年前のものだということ。

 今までの人生で彼女がいたことがないこと。客観的に見て、自分に男性的な魅力はないと思うこと。


 ……やばいくらいにペラペラ喋ってしまった。

 ジンさんにも、デミトリにも、姫様にも言ったことのないことを。


 夫人は、何を言ってもにこにこと聞いているだけだった。


 飲み過ぎたか、と我に返った時にはもう遅い。

 特別な場所を設けて、同じ時間を過ごして、口を軽くさせて、言いたいことを言わせる。

 僕が、異世界人にいつもやってる手口じゃないか。



 一旦気付くと、もう、恥ずかしくなってきて、酔いが一気に冷める。

 しまったなあ、こんなこと言うキャラじゃないのに……。

 夫人は、にこにこと、グラスを傾けている。

 

 ふと、この人の立場について考える。

 雑談の中で、夫人の長男が20歳前後と言う話を聞いた。

 13でフレイムロード家に嫁ぎ、次の年には長男を産んで、その次の年に先代フレイムロード候が不慮の事故で死亡。ジョージ2世は侯爵家を継ぐ。

 そして、候の正妻として青春を過ごす日々。

 先代より地位を相続する中で起きた政変に大敗北を喫し、フレイムロード家は一気に立場を悪くし、政界からも社交界からもつまはじきにされる。その間も3人子を産みながら、夫を支え続ける。

 後に出奔していた先代の弟であるデミトリが隣国との人脈を作り帰国。それを利用して財を作り、見事返り咲いて見せた候。外務局の官吏として国中を、他国への使者として世界を駆ける主人の代わりに家を守る毎日。

 そして、世界廃滅主義者が夫を誘拐し、成り変りをした後は、その正体に気付き、偽物の候がフレイムロードの財を使えない様に見張り続け、偽者候がわざと失敗して他国との交流に失敗し、侯爵家が白眼視される間も、一人気を吐き続けた人。


 この人も、この人で偉大だよな。それで、こんだけぽわんぽわんしてるんだから。


 話題が候、つまりオリガ夫人の旦那さんのことになった。

 どこが好きなのか。

 色々長ったらしく長所美点を挙げていたが、早い話が、自分にしかできない仕事に真摯に取り組むところなのだとか。

『だから、主人の仕事を、名誉を守ってくださったあなたにはいくら感謝しても足りません』 

 急に、マジなことを言われた。

 いや、それ以前に。

『いえ、それ以前に。名誉なんて、それ以前に。世界廃滅主義者に誘拐された、あの人の命を助けて下さいました』

 この人の「素」は、これなのだろうか。

『デミトリも、ミシェールも、あなた様にどれだけ救われたかわかりません。もちろん、私も』

 これが、この家を束ね続けてきた人の、処世術? 本音?

『タカマチミキテル様。夫を守ってくださり、ありがとうございます。この返しきれぬ御恩忘れません、フレイムロード家はあなたの正義を支持します』

 ここまで来ると、デミトリが今日と指定した辺りから、この人に仕組まれていたんじゃないかとさえ勘ぐる。


 いつの間にか、オリガ夫人、僕の横にまで来ていて

『だから~お酒飲みましょうよ~』とか甘ったるい口調で言いながら、手に持ったグラスを僕の頬に押し付けてくる。

 やめれ、やめれ。せめて口に押し付けて、頬じゃ飲めん。



 この酒盛りは、リーヨンちゃん達がショッピングから帰ってきて止めてくれるまで、ひたすら続いた。

 気付けば夕方。

 もう一泊が決定。


 夕飯の後も、晩酌に付き合わされた。

 このオバサンの肝臓、どうかしてんじゃないのか?

 ミシェールさんは『こんなに楽しそうな伯母さま久しぶりです。もう少し相手してあげてくれませんか?』とか言うし。

 明日もあるし、度の低いお酒にしてくださいと頼んだら、センチペド産のお酒を用意された。

『馴染みのあるお酒でしょ~』とか言って、3本程。

 おい、僕知ってんだぞ、そこの産地、度の強い酒しか作ってないの。

 もちろん、無視された。

 なんなんだよこのぽわんぽわんした酒豪は。


 とりあえず、眠い。

 明日起きれるだろうか。

 何があろうと、絶対に明日の朝帰る。


 そう言えばまだミシェールさんにハンカチ返してないのに気付く。

 グダグダ過ぎんダろ。



 

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