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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
三方向作戦! 三カ国を巡るリーヨンちゃんとピコちゃん編
110/363

10月29日 草原の国 夜中に家に着いた その足で城に行って姫様に会った

 おそらく平成26年10月29日

 剣暦××年9月29日


 草原の国グラスフィールド

 王都バーミューダ

 城下町の僕の屋敷



 結局、旅は今日丸一日使ってやっと終わった。

 日が沈み、月が昇ってから、やっとこさ僕の家に着いた。

 今日を含めた一週間前後くらいに帰るという連絡は魔女郵便を通して入れていたが、深夜になっても明々と屋敷中に火が灯っているところをみると、デミトリもイオちゃんも、寝ずに僕の帰りを待っててくれたのかもしれないな、と、心が痛む。

 今回も、オークの国でリーヨンちゃんを連れて逃避行したから、また行方不明期間が発生したからなあ、心配、かけたかも。

 もし、怒られてもその時はその時と思い、玄関の呼び鈴を鳴らして、「ただいま」と声を上げた。

 五秒で戸が開き、こんな時間なのにメイド服を着てるイオちゃんとレンちゃんが飛び出してきて、そのまま体当たりされた。

 痛い。

 でも、「痛いよ」と言う前にイオちゃんに「旦那さんの馬鹿!」と叱られた。

「毎回毎回! 旅立つ度に! 行方不明にならんといて! 心配! させんといて……」

 そっか、僕が出掛けるたびに、イオちゃんはこんな風に待っていてくれていたのか……。

「カンテラ様、御怪我はございませんか?」

 レンちゃんも、心配そうに僕の頭からつま先まで、何度も見る。

 レンちゃんも、僕の危急を聞いて、慌ててオークの国まで駆けてくれたのに、結局会えずじまい。申し訳ないことをした……。

 2人に飛びかかられて、身動きとれないでいると、後から少し遅れてやってきたデミトリが、一礼して「御帰りなさいませ」ときた。

「うん、ただいま。みんな、ただいま」

 この世界に来て、好きなように生きればいいと思っていたけれど、僕にも、もう家族 (のようなもの)がいるんだ。



 イオちゃんが、夕飯を用意してくれていた。

 僕が帰ってくるかもしれない予定日から、毎日三食作って待ってくれていたらしく、夕飯の用意があるという。

 ここで、「夕食は今日はいい」なんて涙目のイオちゃんに言おうものなら、僕はカンテラ軍団全員から愛想をつかされてしまうだろう。

 けれど、『いや、まだいい』と言った。

 イオちゃんの目玉がおそろしくひんむかれたのを見て、ジンさんが必死で「お前腹減ってるだろ! 自分の家で遠慮なんかすんなよ! 食えよ!」とか必死でフォローいれてくれてたけど、違うのだ。

 イオちゃんに僕の気持を伝える。

「イオちゃん、僕、今から姫様に会ってくる。帰ったらご飯食べるから、置いといて欲しい」

 

 深夜にイリス王女の城に行こうとするカンテラに対して

○賛成

 リーヨンちゃん イオちゃん 

○反対

 ジンさん ユキくん デミトリ レンちゃん ピコくん残る8人のダークエルフメイド


 結論から言おう。

 結局、行った。

 姫様には会えた。

 帰ってから、最早夜食となった夕食。

 「無理 しないでええ」とイオちゃんは言ったけれど、無理しなくても余裕でパクパクいけた。

 こんちくしょう、やっぱり家で食べる飯はうまい。

 風呂も沸かしていますときたもんだから、さっさと入って寝たかったのだけれど……、なんでイオちゃんは袖まくりしてスカートから半ズボンに着替えてるのだろう。ご丁寧に頭に鉢巻き巻いてるし。

「お背中 流します」

 丁重に、御断りした。



 ※※


 夜中、石畳を踏む音はことの外、よく響く。

 月の端に雲のかかる夜。

 うす暗く、目抜き通りに定間隔でおかれた灯篭のおかげで、どこを踏めばいいのかわかる。

 最早、どこの店も閉まっており、開いているのは、閉店した酒場の従業員が仕事終わりに一杯ひっかけるような、特別な飲み屋くらい。 

 僕と、ジンさんが大通りの真ん中を歩く。

 夜の帳がすべてに幕をおろし、時の流れを無視した2人の足音だけが、響く。

 時折、犬の遠吠え。

 時折、犬頭人の呟き。

「なんで、俺が、お前の、我儘に、付き合う、義理が、あるんだよ」

 ジンさんは、えらい不機嫌だった。

「仕方ないじゃん、他にこんなこと付き合ってくれる面子があの場にはいないんだし」

「俺は名目草原の国使節団の契約案内人なんだぞ? 自分の案内人を使え」

「ユキくんは大事にしてやれって言ったそばじゃん。それに、なんと言うか、こういう用件にユキくんを使うのは、躊躇っちゃうよ」

「俺ならいいのかよ……。なあ、どうして今夜でなければならなかったんだ? 何か、理由があるのか?」

「いや、何も」

「ノリか?」

「……まあ、そういうことかな」

「……本当に、王女殿下に会えると思ってるのか? どう考えても門前払いされるだろ。俺達、かなり臭いぞ」

「そりゃそうだよね」

「……」

「……ごめんって、悪かったよ」

「カンテラ、ちゃんと本心を言え」

 ジンさん、自分からこんな他人に踏み込んでいく性格の人じゃなかったんだけどな。

「本当に、ふと思っただけなんだよ。もし、万が一、姫様が僕のことを待っていてくれたとしたら……、少しでも早くただいまって言うべきだって」

「そんなありもしない可能性のために、俺はくたびれた体で付き合わされてるわけか」

「ごめんね」

「いや、それも悪くないな」

「ジンさん、最近、変ったね」

 

 だらだらとお喋りしながら歩いて、町の衛兵に三度職務質問を受けて、二回酔っぱらいに絡まれて、五回野犬に吠えられてその内しつこかった一匹はジンさんがワンと吠えて蹴散らして。

 王城についた。

 普段は馬車で呼ばれるくらいの、結構な距離を歩いてきた。

 もう、日付も変わるくらいの時間。

 門が閉まり、灯りが消えてるのを確認して「ま、そりゃそうだ」と言ってからジンさんにぶーたられながら帰ろうと思っていた。


 城門の前に、姫様のお付きのメイドが立っているのを見るまでは。


 彼女は一礼して、僕とジンさんを連れて歩きだした。

 秘密の抜け口的なものを通って、夜警の兵士の眼をかいくぐり城内に入り、ホビット忍者により爆破された部屋の一部を初めて見て「あー、こりゃまずいわ」と呟いて、中庭のテラスに案内された。

 月の端にひっかかっていた雲もとれて、少しだけ、輪郭と顔色がわかる夜。

 女の子が、椅子に座っている。

「今、お前と会った最初の日のことを思い出していた」

 いつもの、流暢な日本語。

「お前が王都に連れてこられて、謁見のため登城した日。私が生まれて初めての異界漂流者。どんな化け物がやってくるのかと思ったら、ホビットに担がれて輿に乗って城内に入ってきた。王族と会うのがわかってる癖に、泥だのトマトの汁だのを服にひっかけて。訊けば、ぬかるみにはまった馬車を助けてきただの、犬に追いかけられただの、道に迷ったあげく、昔助けたホビット達に無理矢理道案内をされただの」

 そう言えば、そんなこともあったっけ。初めて僕が草原の国に来た日だ。

「あの気難しい父様も、無口な兄様も皆笑うしかなかった」

 笑ってたっけ? よく覚えてないや。

「内務郷が怒っていたな。で、世話を焼いて着替えを出してきた」

 思いだした! あの滅茶苦茶趣味の悪い服! しかもパツパツ。

「そんな服で、陛下の前に出てくるんだから。最早存在が不敬だった」

 仕方ないじゃん。

「母様がなくなって、灯りが消えたようになってた城の中は、辛かった。もう、世界が終ったんじゃないかってくらい」

 ……。

「でも、お前が来てくれて、何かが変わったんだ。だらしない服装なのに大真面目で、礼儀正しい癖にヘマばっかりして、種族も国も関係なく、助けを求める人がいる限り、どこにでも行く。そんな人間が、この世にいるんだ、ってわかったら、少しだけマシな気がした。私がもし女王になったら、この男どんな顔をするんだろう? そう思ったら少し楽しくなってきた」

 彼女が、僕の顔を見る。

「お前がこの世界に来てくれて、私の世界が変わる気がしたんだ」

 椅子に座った、イリス・グラスフィールド王女殿下が、そこにいた。 

「おかえりカンテラ」

 流石に、僕が続く言葉は一つしかない。

「ただいま姫様」


 それから少しだけお話して、また抜け道を通って帰った。

 お腹は空いたけれど、帰って食べれるかなあ。

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