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かんてらOverWorld  作者: 伊藤大二郎
三方向作戦! 三カ国を巡るリーヨンちゃんとピコちゃん編
109/363

10月28日 草原の国 王都に向けて馬車の旅 ピコちゃんは今日からピコくんと記載する。

 おそらく平成26年10月28日

 剣暦××年9月28日


 いまだ、草原を進む馬車の中。



 朝は、毛布にくるまっていないと、寒くて風邪をひく。

 馬車の座席は硬くて、寝るのに適していないので、野宿。

 一張りしか用意していないテントは、リーヨンちゃんと、ピコ……ちゃんに使ってもらって、僕、ジンさん、ユキくん、御者さんは3枚ある毛布をうまく組み合わせてくっついて寝る。

 最終的には、寝相が極端に悪い僕が一枚を独占し、御者さんに一枚、ジンさんとユキくんが2人で毛布を分け合うことになる、らしい。

 らしいというのは、僕は朝目覚めるのが一番遅いので、その光景を見たことがないからだ。

 何も言わずに、僕の腹に毛布を乗せて、朝食の用意をする皆。

 ユキくんが、いつも通りの険しい貌で鼻水を垂らしていたのでどうしたのか訊いたら、やっと教えてくれた。

「ジンさん、それならそうと早く言ってくれたらいいのに」と文句を言ったら、「言ったところでお前の寝相が治るわけでもないだろう」と諦められた様子。

 ユキくんがいつものように趣味で拾ってきた薪で湯を沸かし、ジンさんの私物の薬缶に保存してある煎豆の粉末(多分、これコーヒーの一種なんだと思う)と、希少な角砂糖を溶かして全員に配る。

 これ、全部ジンさんの私物だろうから、旅が終わったらちゃんと請求書出してねと伝えたが、サービス精神の旺盛なジンさんはちゃんと覚えてくれているだろうか。

 その間に、リーヨンちゃんがピコ……ちゃんに、サバイバル料理的なものを教えている。

 僕は御者さんと世間話。

 僕の言語力もまだまだで、御者さんの話している内容の半分くらいしか理解できないが、空白部分は脳内補完し、御者さんの表情から言いたいであろうことを、推測して、なんとか会話っぽく話せている気がする。

 御者さんの名前はジョッキー・リード。王都から東に400程の小さな町に家を持つ、長距離馬車運転手。

 元々は騎兵としてばりばりならしており、辺境騎兵警備隊の一員として、草原を駆け廻っていたが、野盗討伐の際に膝に矢を受けて、前線勤務引退を余儀なくされたとか。

 馬の仕事から離れることができず、今は国中の路線を周り、馬が必要だけれど馬に乗れない人のために、雇われ御者をしている、とのこと。

 どうも、息子さんも全寮制の騎士の学校(ニュアンス的にそんなもんがあるらしい)にいて、騎兵になるため勉強しているとか。

『そんな、いいもんじゃないんですけどねぇ』

 白髪交じりの人のいいおっさんにしか見えないリードさんは、そう言って笑った。



 午前中は何の問題もなく、馬車の旅を楽しんだ。

 車内で、ジンさんに御者さんと会話していた時にわからなかった単語とか、制度について教えてもらっていると、ふと、ユキくんが一人手持無沙汰なのに気付く。

 リーヨンちゃんは、もっぱらピコ……ちゃんとおしゃべりしている。クォーターオークとダークエルフ。何語で喋るのか見ていたが、2人に共通して喋れるのは日本語だけだった。お互いに、自分の知っている日本語を教えあっているようだ。馬車の中の5人中4人が日本語で喋ってる、不思議な世界。

 一人、なんだかさみしそうなユキくんも会話に混ぜようと思って話しかけると、無反応。

 どうしたのだろうか。一人、無視されて、傷ついたのかな。

「ごめんなさいなのです。眼を開けたまま寝ていたのです。今、何か言ったのです?」

 この子、こういうキャラだったっけ?



 ちょうど、昼食頃に中継の町に着く。

 食料とか、生活用品とか、必要なものを揃える。

 ついでにピコ……、ああ、もうピコくんでいいや。

 ピコくんの服を買うことにする。

 いくらなんでも、男の子がホットパンツにチューブトップはニッチ過ぎるだろう。

 せめてタンクトップにしようぜ。

 ユキくんとピコくんと、服屋に連れていきながら、何で女の子の格好をしていたのかをそれとなく訊く。つまり、こういうことだった。

①ダークエルフのこどもの正装は、大抵あんな恰好。

②草原の国でメイド服だったのは、いきなりあの服を宛がわれたので、多分、着てもおかしくないんだろうな、と判断した。

③他のダークエルフ達も、僕がピコくんを女の子だと勘違いしているとは思いもしていないだろう。

④昔から、周りの年上のエルフに、似合うからと女の子の服を着せられたりはしていた。

 ④のせいだな、うん。

 なんか、僕が屋敷で着ていたのと同じデザインの上着を欲しがっていたけれど、僕の羽織はホビットの職人に作ってもらった一品物だから同じものはないよ、と我慢してもらう。

 普通の旅人っぽい上下を揃えてみた。しかし、ノーマルにしろダークにしろ、エルフはスタイルいいから何着ても似合うな。体型スリム過ぎて人間用の服だと、少しダボるけど。

 そうして、ピコくんの新衣装のお披露目会をして、昼食。


 午後からも馬車は進む。

 しかし、今日には王都に着くのかと思っていたけれど、全然形も見えやしない。

 ジンさんにそろそろ着いていいんじゃないか? と確認すると、まだ全行程の3分の2も着ていないとのこと。

 あれ? 前に草原の国使節団より早くリーヨンちゃんに会い、説得をしなければならなかった、あの時。ユキくんに案内されての王都から国境警備基地まで、もっと早かった。ユキくんのが、地理得意なんだろうか?

 ジンさん曰く「そりゃお前とジョリャが非合法な道通ったからだ」

 やっぱり、安全とか、物流の面から、馬車が通っていい道とかは、ある程度指定されているらしい。

 草原の国陸運局の定めたルートを守らない馬車は、辺境警備騎兵隊に追跡され、御縄につくことを教えてもらう。

 ……今まで、よく捕まらなかったな。

 ジンさんはまったくだ、と腕を組み唸る。よく見ると、ユキ君の方を見て、眼を細めている。ユキ君は肩を狭めて(大きすぎて、狭め切れてないが)俯く。

「ジンさん、僕が急いでって言ったから、ユキくんはそのルートを選んでくれただけで、ユキくんを責めるのはお門違いだよ」と助けるつもりで言ってみたが、ジンさんの眼はそのまま僕を見据え、「責めるつもりはない。ただ、初めての契約に、こんな奴の子守を任せてしまったせいで、非合法な手段ばかり取らされて、ジョリャに可哀想なことをしてしまったな、と思っていただけだ」

 子守って、せめて御守と……。

 そして、小声でこっそりと

「お前、ジョリャに『ケモノリア』まで使わせたそうじゃないか」

 げっ! なんで知ってる。

「ジョリャがな、昨日、相談してきたんだよ。お前の頼みとは言え、禁じ手を使ってしまったことが、今更怖くなってきたって。思わず叱ってしまったが、よくよく考えなくても、全部お前のせいだしな」

 あー。やっぱり14才の男の子にそんな秘密を抱えさせるのは、まずかったよな。

「あのな、一応ジョリャもプロの案内人とは言え、駆け出しで、子供なんだ。俺の時みたいに使い潰さずに、少しは手加減してやれよ」

 なんか、いつもと言ってることが違う気がするけれど、ジンさんがそこまで言う程ユキくんも疲れてるのかもしれないな。



 夜、まだ王都にはもちろん着いていない。

 今日も野宿。

 リーヨンちゃんが「わたしも のじゅく したいです」とか言い出したので、今日はテントが開く。

 そうだ、ユキくんつかいなよ、と言おうとしたら、全員から僕にテントを使って欲しい、との要望。 

 ああ、そうか。僕がいると寝相で結局誰か毛布を奪われるから、中で一人で寝ろと言うのね、はいはいわかりました。

 ちょっとさみしく一人寝る。



 貴重な油を灯して、日記をここまで書いていると、ピコくんがテントに入ってきた。 

 どうも、毛布の数が足りなくなったらしく(そう言えば、リーヨンちゃんは僕より背が高いもんな、毛布も足りないか)ピコくんは、テントで寝ることになったとか。

 どうやら、ジャンケンで負けた結果とのこと。

 罰ゲームかよ。

 明日に備えて、そろそろ寝る。

 ピコくんは「旦那さん 潰さないで 寝て」と言っていたが、それは剣祖のみぞ知るところ。



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