ショッキングピンク
ご賞味あれ
俺はAIシステム ジョノと名乗るロリ美少女と対面している。
「信じてますか?疑ってますか〜?」
「どうなんだろう、よくわからない」
始めての体験で心臓が高鳴っているのが分かる。
「とにかくジョノさんの話を聞かせて下さい」
さっきの心音とは全く別の好奇心に満ちた心音。それに従う様に自然と体が前に出る。
ジョノさんは一つ頷き。
「はいはーい、じゃ〜 まずは世界に起きた改変についてですー」
「改変…」
この単語はアプリ伯爵が言っていた語だ。
「アプリ伯爵はこの世に改変を施したのですー、その改変はアプリ『DI』を使って全世界に浸透しました〜」
最初っから詰め込まれてきたな…
「ちょっと待ってくれ、ジョノさんの言う事を聞くとまるでアプリ伯爵がリアルの世界を改変したみたいなんだけど」
「その通りですよー、アプリ伯爵は現実世界に干渉して現実世界を改変しました〜」
「マジかよ、現実世界を改変…」
もう嘘をついている様には感じていない、俺自身がすでにこの話にのめり込もうとしているから。
ジョノさんは続ける
「アプリ伯爵は昨日の夜、ん?今日の夜かな?ま〜 とにかく改変を開始、そしてみんなが起きる頃には改変を終了しました〜」
「あの質問」
俺は挙手。
そしていつの間にか俺は床に正座していた事に気づいた。
「何ですかー?」
相変わらずベッドに座ったままのジョノさんは促す。
「みんなが起きる頃のみんなってアプリユーザーのみんなですか?」
「おー正解です」
「って事は昨日の夜は全世界のアプリユーザーが全員眠ったって事ですか?」
「その通りです」
パチパチと乾いた拍手が鼓膜を揺らす。
やっぱりか…急に眠くなったのはあのアプリのせいだったのか…
繋がりが生まれ現実性がまして行く。
「で、具体的にどんな改変をしたんですか?」
真実に更に近づく決め手。改変の内容。
「そうですねー、アプリ伯爵は全アプリユーザーの室に行き、そこに書かれていた事を叶えたのですー」
叶える?これまたぶっ飛んだ改変。
「叶えるってどんな感じのですか?」
叶えるじゃこれは範囲が広すぎる。もっとしぼった言い方をしてもらわないと。
「えーとですね、例えば火の魔法が使いたいとかですかね〜」
超ぶっ飛んだわ、ぶっ飛んだわ!!
「火の魔法が使いたい⁉ え⁉そんなあり得ない事を叶えるのか⁉」
「叶えるんです、むしろあり得ない事を叶える事、それこそがアプリ伯爵の改変ですー」
俺の予想していた叶えるはお金持ちになりたーいとか現実的に可能なものだ。それが火の魔法が使いたい⁉ファンタジー!!
でも改変って聞くとそっちの方が説得性があるように感じる…
「アプリ伯爵はDI所有ユーザー全てにそれを行ったのですー」
「そうなんだ…何か凄いな」
体が無意識に震え出している。武者震いって奴か…ははっ ヤバい 今までで一番ヤバい。
何が起きているのかイマイチだけど凄さが分かる。世界を改変?アプリ伯爵バンザイじゃん!
「歓喜してるとこごめんなさい、まだ話は終わってないんですー」
「え?そうだった?ごめんごめん」
ジョノさんは桜色の髪を揺らし再び語り出す。
「アプリ伯爵は叶えた、でもそれは全てを完璧に叶えたわけじゃないんですよー」
「どうゆー事?」
「アプリ伯爵は叶える事柄を選別してるんですー」
これまた事務的な。
「どんな感じに選別したのかと言うとですね、多くなく少なくなく強くなく弱くなくです」
なくばっかりで理解に苦しむっす。
「理解に苦しむって顔ですねー分かりました、また例をあげます。えーと、あるユーザーは火の魔法が使いたいと書きましたー、でもそのユーザーは他にも雷の魔法が使いたいと書きましたー他にも瞬間移動、空間転移、時間停止、爆破魔法、飛行魔法、恋愛魔法、召喚魔法など書きましたー」
書きすぎだろ!どんだけ現実逃避してんだ!
「でもその全てを叶えたらいけませんー何故か分かりますか〜?」
唐突なフリ。知らんよ!そんなん!とは言えないので推測を答える。
「多すぎるから?」
「ピンポン、正解です〜」
やった当たった。
「この人は書きすぎています、どれだけ現実逃避したいんでしょうねー」
ごもっとも。
「これじゃ〜他の人と差が出てしまいますー、力の差をなるべく出したくないアプリ伯爵は全てのユーザーが対等くらいになるように慎重に叶えて行ったのですよー?」
「へーなるほどー」
何か納得、そうだよなそんなんで力が決まったらやり切れねーよな、うんうん。
……ってあれ?何だこの会話。
違和感を感じる、そして正体が分かった。
ジョノさんの言っていた事。
火の魔法。ファンタジー。
多くなく少なくなく強くなく弱くなく。
そして他ユーザーとの力の均等。
これじゃまるで“戦う事”が前提になっている?
「気づきました?」
ジョノさんは俺の心を見透かした様に言う。
それはつまり俺の推測は当たっていた事を示す。
俺は言葉を選び問う。
「アプリ伯爵の目的は何ですか?」
多分俺の本日最大の質問。
「それは知りません、プログラムされていませんー」
そうだった…ジョノさんはアプリ伯爵に作られたAIシステムだったな…
何かそれも自然に受け止められる。
「でも当たってますよ?このアプリは人に力を与える為のアプリ、それはつまりユーザーどうしで戦う事を示唆させる、波乱のアプリですねー」
ロリボイスですっげー事言ってくれんじゃん。
でも何かいいじゃん、新しい世界じゃん。
「あっ、言い忘れてました重要な事を」
細く綺麗な指を立る
「君は最後の方でアプリ伯爵に叶えられたんですよー、でもその頃にはアプリ伯爵がグダクダに疲れてまして何か投げやりになってたんですよね〜」
投げやりってなんだ?
「つまりどうゆー事?」
「つまりー、君の室に書かれた事を特に選別する事なく てきとーにやったんです〜、こんな感じに」
ジョノさんが立てていた指をチョイっと振ると俺の身体からやけに明るいピンクのオーラが湧き出てきた。
「なななな何これっ⁉」
思わず立ち上がる。
まさかこれがジョノさんが言ってた改変の力⁉
そしてそれはあっという間に全身を包み込み、何故か知らんが俺はピンクのフリフリスカート、レース、リボン、つまるところロリータファッションを身にまとっていた。
「なをんじゃコリゅぁゃゃやΣ(゜д゜lll)」
この絶望的ファッションはぁぁぁ!!思わず顔文字使っちゃったよ!!
「これがアプリ伯爵が叶えた事の一つですよ〜」
「俺こんなの書いてねーよ!女装趣味なんか無いからな!」
これが改変だとしたらヤバイぞ!俺何するん⁉
「知ってますよーだから言ったでしょ?アプリ伯爵は てきとーに叶えたって」
「だとしても思い当たる節が皆無だわ!」
俺はコスプレ趣味なんかじゃないし、女装趣味でもないし、ましてやおネェなんかじゃないぞォォオ!!!
実際に叫ぶとかなりうるさそうなんで心の中で盛大にリアクション。
「アプリ伯爵はですね、ショッキングピンクが似合う男になりたいってゆーのを叶えたんです〜」
衝 撃 で す ‼
確かに、確かに書いたよ⁉
でもほんの冗談で書いた文を叶えんなよ!
しかも叶え方が雑!
ほんとてきとーだな おい!
「ショッキングピンクが似合うって、これただ単にショッキングピンクが似合うロリータファッションを着ただけじゃん!俺的には似合ってねーよ!逆効果だよ!」
俺みたいな普通の高校生がこんな格好してたら逮捕状が出されるわ!
ジョノさんは俺の怒りぶりをみて慌てた風にあたふた。
「あっ!でもちゃんと力はあります!はいっ!」
「フォローになってねーよ!何、俺この格好で戦うの?恥ずかしくてこっちがやられるわ!」
「あっ、あっ!でも似合ってますよ⁉ 全然大丈夫です!もうこれ以上ないくらい萌えますっ!」
「それをこのファッションが完璧に似合うであろうジョノさんに言われても説得力0だよ!ってか第一に似合ってたら逆に困るけどね!」
「あっ、あの!あ、あぁ…っとぉ!」
せわしなくわさわさ動くジョノさん。
なんかのんびりしてるジョノさんよりテンパってるジョノさんの方がかわいいかも…
「あっ、あぁ、え、えと…す!すいませんっ!」
ベッドの上で正座して謝ってくるジョノさん。
さすがにかわいそうかも。
「もう大丈夫ですよジョノさん、怒ってませんから」
「本当ですか…?」
ベッドに顔を埋めたままなのでごにょごにょ聞こえる。くそっ、かわええー
「はい」
俺は今世紀最大の優し声を発動。え?今の声、超優しくなかった?
ジョノさんはゆっくり顔を上げ
「あ、ありがとうございます」
今世紀最大の笑顔を発動。はぅ⁉かわええー!
凄いカウンターパンチだ…のんびり屋さんのジョノさんがこんな素晴らしい笑顔を向けてくれるなんて…サイコーだー!!
いやいや、それは置いとこう。
とりあえず今は…
「この格好どうにかして?」
絶望的ファッションの変態にはなりたくありません。
「それはですね、自分の意思で自由に扱えますー」
お、のんびりモードに戻った。
しっかし自分の意思で自由に扱えますって言われてもな〜
ってか力なんかあるのか?ただの変態じゃん。
とりあえず俺は『解けろ』と念じてみる。早く戻りたいもので。
するとなんとまぁ戻りました。
ピンクの光がポッと弾けたと思ったら白Tシャツジーパンのいつもの姿に。
「へ〜凄いな」
感嘆しちまうよ、へっへっへ
「これが改変の力です〜、分かってもらえましたかー?」
「一応マジだってのは分かったかな?」
魔法の世界がやって来たのか、すげ〜
そして俺は変態高校生として改変されたのか…
ジョノさんは桜色の髪をくるくる指に巻いて遊んでいる。
「あ、そういえば、ジョノさんも改変の力で現実化したんですか?」
「んー?そうですよ〜、私はDIのシステムなんですけど、世界の改変と共にDIの秩序を作る新しいシステムとして改変され、今ここに顕現しているのです〜」
へー何言ってるか全然分からんかった。
「ま〜、つまりですね、ナビゲーターみたいなものですー、私は新しい世界の在り方とか新しい秩序とかを教えたり、共に頑張る君専属の伴侶なんですー」
伴侶?
「伴侶⁉」
伴侶ってつまりあれか⁉ずっと一緒なんすか⁉
このロリ美少女と⁉
キャー‼嬉しはずかし!
「どうしましたー?顔が溶けたゴムみたいですよ〜?」
どんな顔だよ、まぁ、かなりにやけてんのかな?
「一応大まかな事は話し終わりました〜、なのでこれからが重要な本題ですー」
「まだあるんですか?」
「すぐなんで大丈夫ですよー、じゃ〜早速。DIを立ち上げて下さい」
DIね、なんか仕上げっぽいな。
俺はスマホを持ちジョノさんに言われた通りにDIを立ち上げる。
するといつもと違う画面が出た。
いつもなら『DI』ってでっかく表示された後に自分の室に出るはずなのに、今は自分の室の代わりに二つの選択肢が表示されている。
「それに答えて下さいー、それで終わります〜」
出された選択肢。それは
『この世界を受け入れますか。それとも拒否しますか』
この後に及んでこんな選択をさせるのかよ。
決まってんじゃん
「もちろん受け入れますよ」
ピッと迷わず押す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
しかし特に何が起こるわけでもなく、いつもの画面に戻る。
「これで終わり?」
「終わりですー」
「なんか実感がわかないな」
俺としてはすっごい効果音と共に波乱万丈の世界に飛び込むとばかりに思ってて結構ドキドキだったもんでかなり意表を突かれたと言うか、拍子抜けと言うか。
「改変の力を目にしたじゃないですかー?」
あれね、絶望フリフリファッションの事ね。
「でももっと凄い変化が起きるのかなーと」
もう実際に凄い変化は起きてるんだけどね、うん。
「心配しなくても大丈夫ですよー、君はもう新しい世界の一員です」
すると
□□□□□□□□□□ぴこん□□□□□□□□□□
DIの入室をお知らせする通知音が。
誰かが俺の室に入ったって事だ。
もはや条件反射気味に見てみると
【ザラキエルが入室しました】
誰だよ、知らんぞこのユーザー名は。
「早速来ましたねー」
そう言うジョノさんはどこか嬉しそう。
「来たって俺の室に?」
ザラキエルが?いや誰だよ。
ジョノさんはスッと音も無く立ち上がり、声質を変えずに一言。
「戦いにですよ〜」
読んでいただきありがとうございました。