影の住む森
「逃げろ。逃げろ! ちくしょう!!」
普段は人のいるはずのない暗黒に包まれた森で、俺は一人で走っていた。
さっきまではあんなに楽しかったのに。
さっきまでは仲間がいたのに。
さっきまでは希望があったのに。
ヤツのせいで、今ではこの様だ。
今朝、この森の入口にあった警告を無視しこの森に入った時、すぐに気配は感じた。
だが、すぐにいなくなった。―――いや、いなくなったと思っていた。
しかし、ヤツは待っていたんだ。俺達が眠りにつくときを。
俺達が眠りにつくと、すぐにある男の断末魔の叫びが夜の森を貫いた。
俺は驚いて飛び起き、剣を抜いた。
すると、そこには錯乱した不寝番の姿があった。
彼は、この世の終わりを見たかの様な表情で近くの茂みを指さしていた。
「何だ? なにかいるってのか!」
次の瞬間その茂みで何かが動いた――と同時に俺の目の前からその男の姿が消えていた。
「なっっ!」
急いで周りを見渡すと、後ろに…今まで何もいなかったはずの空間にヤツはいた。
姿は、はっきりとは見えないが闇の中に光る不気味な紅蓮の瞳の中には、
しっかりと俺の姿が映しだされてた。
ヤツの足元には、何か大きな‘物体’が落ちていた。そこからは、大量の赤い液体が流れ出ていた。
おい、今何があった。見えなかったぞ…。
「う…うぉ…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
皆が茫然としている中、仲間の一人がヤツに剣を向け、突っ込んでいった。
その声が引き金になったのか、もう一人の仲間もその後に続いた。
しかし、ヤツは動く気配がない。
(いける!!)
そう思った瞬間信じられないこと起こった。
ヤツの足元に‘影’が現れたのだ。
影といっても、それは二次元ではなく三次元のものとして存在していた。
二人は、一瞬たじろいたが、また、すぐに走り出した。
すると、ヤツの影はゆっくりと姿を変えていった。
ヤツは、少しも動いていない。しかし、ヤツの影は一匹の生命体のように動めいている。
二人が同時にヤツに切りつける。
そして、剣が突き刺さ…らなかった。
二人が突きさした剣はヤツの影によって、受け止められていた。
二人は、一瞬何があったのか分からないようだったが、
隙を見せてはいけないとすぐに剣を構えなおす。
「一体、どうなってやがる!」
そう言いつつ、二人はまたヤツに切りかかる。
しかし、また同じことが起こった。
ちくしょう!! 今までの冒険はなんだったんだ。こんな時に足がすくんじまうなんて。
一歩も動けねえ!! くそ!!!俺も早く戦わないと。
自ら、旅に同行すると言い張ったあの時、覚悟はしていたはずだった。
辛いことがあるかもしれない。仲間を失うかもしれない。死ぬかもしれない。
全て分かっていたことだった。なのに、実際に仲間が殺されるとこれか!
くそっ! ちくしょう!!
俺は思わず、声に出しそうになるが、他の声に阻まれた。
「おい!このままじゃあ、体力の無駄だ!どうすればいい!」
その声にもう一人の仲間が反応する。
「そんなもん知るか!お前こそ、何かないのか? なぁ…。なぁ!」
「そんなに慌てるな!こっちが仲間割れしてどうす……っっ!!」
突如、ヤツと仲間の一人の姿が視界から消えた。
俺が呆気にとられていると、もう一人の仲間が唐突に聞いてきた。
「おい。何か聞こえねぇか?」
グチュッ! ギチュッ!
よく聞くと、どこからか気味の悪い音が、絶えず聞こえてくる。
それは何かを咀嚼する音だった。
「うっ・・・・うわぁぁぁああああああ!!」
仲間をたけ続けに殺された恐怖からか、最後に残った仲間が悲鳴を上げ、森の奥へと逃げて行った。
しかし、暫く聞えていたその叫び声も嘘だったかのように唐突に途絶えた。
周りは驚くほど静かだった。まるで、数分前の惨劇が嘘のように。
「逃げないと…」
そう、自分に言い聞かせるが、体はなかなか言うことを聞かない。
恐怖に、脳以外は全て壊されたようだ。
「くそっ。動けぇぇええええ!!」
気付かれてもいい。
そう思い、俺は叫んだ。こんな声が出るのかというくらい、大きな、大きな声で。
すると、体の中の何かが外れたように、いきなり体が動いた。
俺は危うく転びそうになりながらも、なんとか持ち直し、必死に走った。
恐怖に怯え、恐怖に戦いながら走った。
もうどのくらい走ったのか、分からなくなってきた。体も悲鳴を上げているのがよく分かる。
しかし、体は動く。どこにいるかも分からない恐怖から、逃げ出すために…。
普段は人のいるはずのない暗黒に包まれた森で、少年は一人で走っていた。
その先に、何が待ち受けているのか知る由もなく…
初投稿です。
なので、今回はありがちなものを書いてみました。
物足りなかったと思いますが、読んでいただき、ありがとうございました。
感想、お願いします。