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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

捨てられた王子

掲載日:2026/04/05

***BL*** 捨てられた僕の前に、捨てられた赤ちゃんが、、、。ハッピーエンド



 ある日、隣国の王女が来た。

 隣国とは言え、国交はほぼ無い。

 彼方あちらは大国。此方こちらは小国。

 王女とて、気まぐれでこの国に立ち寄ったのだろう。

 少数民族の小さな国。文明も遅れた辺鄙な土地。

 他国の王女が来る様な場所では無かった。


其方そち、綺麗な顔だな、気に入った。国に連れて帰ってやる」


 山間の小川で休憩をしていた時だった。

 突然現れ、勝手な事を言う。

 身なりは恐ろしい程良かった。一目で王族とわかる。

「名前は?」

「、、、」

「無いのか?」

笑う。美しい女性ひとだと思った。そして、恐ろしく我儘そうだ、、、。

 関わらない方が良い。

「はっ!」

いきなり馬を走らせ、近寄って来たっ!


ぶつかるっ!


フワッと身体が浮いた?


気が付くと全力で走らせた馬上だった。


、、、嘘だ、、、。どうして?



**********



 一人の男がやって来た。静かな男だった。

「我アーダ王女が、此方こちらの民を一人気に入り、大国に連れ帰ります。容姿はプラチナブロンド、青い目、痩身で、コチラを身に付けておりました」


 セアンのアンクレット


「王女より、後日、結納金が納められます。どちらに届ければ宜しいですか?」


 セアンの父が前に出る。この小国の王だ。

「何故、セアンが?」

「、、、」

男は何も言わない。


 嫌な予感がする。俺は急いで馬を走らせた。

 一番高い山に。


 セアンを連れ去った馬は見当たらない。方角は間違いない。既に、かなり遠くまで行ってしまったのか、それとも山間を抜けているのか。


 セアンはもう手の届かない所にいるんだろうか、、、。



 クソッ!



*****



 程なく、大国から結納金と沢山の食糧、生活必需品が送られて来た。

 ただし、セアンの状況は判らないままだった。


 相手は大国。こちらに成す術は無く、彼が幸せに暮らしていると願う事しか出来なかった。


 俺は毎日、山の上から大国の方角を見る。



 ある日、突然連れ去られたセアン、、、。



*****



 それから半年後、セアンは帰って来た。一通の手紙と共に。

 彼は病気の様に細く、顔色も悪い。目の下には隈があり、、、髪も肌もボロボロだった。



「子を成す事が出来ない為、離縁」



とだけ書いてあった。

 セアンの両親である王も王妃も、兄達も、セアンが帰って来た事は喜んだが、余りの変貌ぶりに悲しんだ。



「ヤルモ、、、済まないが、しばらくセアンの側に着いてくれ、、、」

第一王子がポツリと呟く。

「アイツは何も話さない、、、。一言も。ただ、毎晩(うな)され、小さな音にも恐怖を感じている、、、。何があったか判らないが、尋常では無い、、、」

「わかりました」

セアンは第三王子で、俺の婚約者だった。



*****



 彼はいつも窓の外を見ている。最近では少し食事を摂る様になったとか、、、

「セアン?」

俺が入り口から声を掛けると、ゆっくり振り向いた。

「、、、」

小さく笑いながら、ポロポロ涙を溢す。


 ああ、、、セアンが泣いている、、、


 思わず足早に近寄り、セアンを抱き締める。セアンは一瞬、身体を強張らせ息を飲んだ。


 ハッ、、ハッ、、ハッと、小さく短い呼吸が聞こえた。

「セアン?」

呼吸が上手く出来ないみたいだった。俺の服を引っ張る。苦しそうだった。俺は成す術もなく戸惑った。

「ダメだ、セアン、死ぬな、、、」

彼の背中をさすり、呼吸が落ち着くのを見守るしか出来なかった。



**********



 セアンが帰って来てから、追う様にアーダ王女から手紙が届いた。


 結納金や納めた品々の返品、必要無し。但し、他人との婚姻は認めず。万が一、子を成した際、此方こちらに咎が有っては成らない。


 勝手すぎる。


 王も王妃もセアンには手紙の事を知らせなかった。第一王子と第二王子にのみ手紙を見せ、ヤルモを呼んだ。



*****



 セアンが戻ってから、ようやく部屋の外に出られる様になった頃、セアンを捨てられた王子と噂する声が耳に届いた。


 本当だ、、、僕は捨てられた王子だ、、、。


 城内で囁かれる侍女達の噂話。

 子供が出来ないからと、王女に捨てられた。

 事実だから仕方が無い。それでも、セアンには辛かった。



**********



 人のいない所に行きたい。

 城の周りを散歩しながら、少しずつ離れていく。小さな国、小さな城、、、少し歩けば林になり、森に入る。誰もいない森、、、。


 人の声がしない。

 風の音と、鳥の囀り、温かい木漏れ日、、、。

 少し開けた場所に、ゆっくり身体を横たえる、、、地面に耳を寄せ、目を閉じる。



 誰もいない、、、やっと眠る事が出来そうだった。



*****


 

 アーダ王女の馬に乗せられ、大国の城に連れて行かれた。

 彼女は我が物顔だった。

「コイツを私の部屋へ!」

そう言うなり、一人の男に引き渡される。

「まずは、湯浴みを致しましょう」

砂埃で汚れた身体を綺麗にするのだろうけど、いきなりだ、、、。


 彼の後ろをおずおずと歩く。柱の一本一本が太く高い。天井までの高さに驚き、緻密な装飾に目を奪われる。

 僕の国とは規模が違い過ぎる。

 恐ろしかった。恐ろしいのに逃げる事が出来なかった。

 知らない場所、知らない土地、驚く程広い建物。僕は男の後を着いて行くしか無かった。


 湯浴みに侍女が付き、裸にされると身体中を洗われた。湯浴みに侍女が付くのは初めてだし、僕の国ではパートナーにしか素肌を見せてはいけない為、恥ずかしさで一杯だった。

「自分で、、、」

「成りません。王族の一員に成られるのですから」

そう言われて、抵抗も出来なかった。

 全身を、隈無く洗われ、湯上がりに身体を拭かれた。大国の衣服が準備され、一枚だけのそれを身に付けると王女の部屋に案内された。


 いきなり私室に入る事になり、驚いた。

此方こちらです」

と扉を開かれ

「奥のお部屋にお進み下さい」

と侍女が言う。僕が数歩前に進むと、静かに後ろの扉が閉まり、外から鈴の音が鳴った。

 何かの合図みたいだった。

 僕は言われた通り、目の前の扉を開けた。薄暗い部屋。殆ど灯りが無い。天蓋付きの大きなベッドがあって、その側に小さな灯りがあるだけだった。

 甘い甘い香り、、、。

 僕は恐る恐るベッドに近寄る。薄暗い部屋は他に何があるかよく判らなかった。

「来たか」

アーダ王女の声がした。嫌な予感がする。

「お前の美しい顔が欲しい、、、。さあ、我に子種を、、、」



 それが僕の地獄の始まりだった、、、。



**********


 

 目が覚めると、太陽が少し下がっていた。夕刻には早い。

 久しぶりに眠る事が出来た。

 誰もいない森、、、。

 ずっと此処にいたい、、、。


「セアンッ!」


 ヤルモが息を切らせている、、、。

 ホッとした顔をしながら、近寄って来る。

 ダメだ、、、来ないで、、、。

 でも、立ち上がる事が出来ない。

「セアン、、、心配した、、、」

僕に触れながら、声を振るわせる。



 僕に触らないで、、、。僕の身体はもう、綺麗じゃ無いんだ、、、。


 

 そう思うと涙が出た。

 ヤルモがそっと抱き締めてくれる。



 ごめんなさい、、、。



「城に帰ろう、、、」

僕は首を振る。まだ、帰りたく無い、、、。

「どうして?」

「、、、」

「分かった、、、いいよ。もう暫く此処にいよう。でも、灯りが無いから、暗くなる前に帰るよ」

コクンと頷く。

「ちょっと待ってて」

ヤルモは来た道を戻って行く。一度振り向いて

「俺が迷子になるから、そこから動かないで」

指を指した。僕は微笑んで二回頷いた。


「セアン!」

少し離れた場所から声を掛けてくれる。僕がびっくりしない様にだと思う。

 果物を二つ持っている。両手にすっぽり入る大きさ。

「ほら、お腹空いただろ?」

一つを僕に、一つはヤルモが大きな口でかぶり付いた。

「はぁ、、、生き返る!」

僕も一口齧る。水分がたっぷりで瑞々しい。

 美味しいと感じたのはいつぶりだろう、、、。

「美味しい、、、美味しいね、、、ヤルモ」

涙が出た。



 僕は、やっと言葉を発する事が出来た。



**********



 最後にセアンの声を聞いたのは、一年以上前だ。

 帰って来た時は、死んでしまうのでは無いかと言う程、ヤツレていた。細い身体、肌も髪もカサカサで土気色の顔、、、。

 大国でどんな扱いを受けていたのか、とても聞ける状態では無かった。

 早く忘れて、元のセアンに戻って欲しかった。

 だから、俺は大国の話は絶対しないと決めた。

 記憶を消す魔法があったら、セアンに掛けたい位だ。そんな薬があるなら、すぐにでも飲ませたい。

 でも、残念ながらそんな物は無い、、、。



 セアンは涙を流しながら果実を齧った。新鮮な果物から瑞々しい栄養を摂り、ほんの少しだけ元気になった様に感じた。



**********



「父上、、、お話があるのですが」

そう切り出してから、この城を出たいと話した。

「今日、森に行きました、、、。誰もいない、静かな場所でした。そこに住みたいのですが、、、」

王は地図を持って来させ、場所を確認した。

 悪くは無い、、、近くに水場もある。果実のなる樹々も多い。第一王子と第二王子を呼ぶ。

「ああ、此処であれば問題は無いでしょう」

賛成してくれた。

 父上も兄上達も、僕から大国で何があったか聞き出さない。ただ、侍女や女性が近付いた時の僕の反応で、王女と何かあっただろうと気付いている様だった。

 だから、僕が人から離れて森で過ごす事に反対はしなかった。

「ヤルモは連れて行きなさい」

「、、、」

父上は静かに言った。

 本当は一人きりが良かったけど、、、。父上の声に強い意志の響きがあった。

「それだけは譲れない。後は好きにしていい。欲しい物があったら言いなさい。後、、、そうだな、建物の設計図を書きなさい。簡単な物で良い」

「ありがとうございます」

僕は翌日から、考えなければいけない事が増えて、少し心が安定した。



*****



 夜中、目が覚める。

 僕は、筆記用具を持って外に出る。月明かりが、思った以上に明るく、僕は筆記用具を片手にあれこれ考える。

 入り口は無くちゃね。ふふ、、、。入り口が無かったら、何も始まらない。

 窓も欲しいな。

 キッチン。、、、自分で料理した事無いけど、、、何でも自分でやらないと、、、。

 設計図の描き方なんて分からない。でも、良いんだ。少しずつ少しずつ形にしていけば良い。

 

 窓は絶対だ。外からでも中が見える位大きな窓。明るい日差しが入って、中からも外が見える窓。

 あの部屋には窓が無かった。いつも夜の様に暗くて、時間の感覚が無かった。

 窓が無いから、中で何があったのか誰も気付か無かった。だから僕は、僕は、僕は、、、!


「わあぁぁぁーーーっ!」


筆記用具を投げるっ!


「セアンッ!」


「あ、、、あ、あぁ、、、!」


ヤルモが駆け付けて抱き締めてくれる。


「無理っ!無理です、、、出来ません。ごめんなさい、、、。僕には出来ません。、、、出来ないんです、、、」


「セアンッ!俺を見て!」

ヤルモが僕の頬を両手で包み、僕の瞳を見る。

「ごめんなさい、、、ごめんなさい、、、ごめんなさい」



**********



 部屋にセアンがいない。辺りを探す。

 筆記用具を持ち、庭園に面した階段に座っている彼を見つけた。

 楽しそうに、何か書いている。しかし、暫くすると様子がおかしくなった。そして、最後は大きな声を上げ、筆記用具を投げた。

 突然謝り出し、パニックになっている。

 何が彼を怖がらせているのか分からない。

「セアンッ!俺を見てっ!」

両手で彼の頬を包む。彼は泣きながら謝り続けた。

「ヤルモォ、、、」

俺は彼を抱き締めた。どうして彼がこんな目に、、、。

 俺の服を握りしめ、俺の胸で泣くセアン。暫く静かに抱いていると、急に静かになった。落ち着いたみたいだった。

 セアンを抱き上げ、部屋に戻る。俺に全てを預け、そっと寄り添う。右手は、相変わらず俺の服を掴んでいた。

 ベッドにセアンを下ろそうとすると、首を振る。

「あっちが良い」

指差す方を見ると、床に厚手の布を敷き、大き目のクッションや枕が置いてある。

 まるで巣だな、、、。

 膝を着いて、彼を下ろす。

「ヤルモ、一緒にいて、、、」

「勿論」

彼は俺の腕の中で、小さく小さく丸くなって寝た。



**********



 大雑把だけど、設計図が出来た。寸法は書かれていない。ある程度の広さは確認しないといけないな、そう思いながら、設計図に寝室が無い事に気が付いた。


 書き忘れたのか?


 いや、違う。セアンが何時いつもも寝ている。クッションや枕を集めた場所は決めてある。

 キッチンと暖炉がある、ただ部屋を大きくしただけの建物だった。窓はたくさんある。

 玄関は二つ?

 ああ、裏の玄関は物置き場の薪を取りに行く時の扉か、、、。

 暖炉はキッチンの横、、、。

 本当にこれで良いんだろうか、、、。そう思いながら、王に設計図を見せに行く。

 第一王子と第二王子も呼び、設計図を広げる。

「随分シンプルだな、、、」

「取り掛かればすぐに出来上がりそうだが。サイズが分からないな」

「大まかでもセアンにサイズの希望を聞こう」

「あの、、、。寝室が無いのですが、、、」

「本当だ、、、私室が無いね」

「セアンはベッドを嫌がり、毎日床で寝ている様です」

「床?」

「床で?!」 

「はい、この設計図と同じで、厚手の布を敷き、クッションや枕を沢山集めて、部屋の隅で寝ています」

「どうして、、、」


「子を成す事が出来ない為、離縁、、、」


王がボソリと言った。


 まさか、、、。嫌な事を想像した、、、。


「セアンにサイズだけ確認して、このまま作りなさい。足りない物は後から改築すれば良い。強度だけは気を付ける様に」



*****



 城の裏手を散歩しながら歩く、セアンが転ばない様に手を繋ぎながら。林を抜け、森を抜けると、小さな新しい建物が見えた。

 まだ、完成はしていない。

「後、少しだね、、、」

セアンが嬉しそうに言う。

 最近は食欲も戻って来た。夜はまだ目が覚めてしまう日もあるようだけど、以前に比べれば良い方だった。

「内装が終わっているなら、もう引っ越して来ても良いかな?」

「随分気が早いね。まだ、もうちょっと待った方がいいかもよ」

セアンがちょっと不満そうに唇を尖らす。

「それより、今日、商人が来るらしいから必要な物を選ばないと」

「本当?キッチン用品見たいな」

「セアンが料理するの?」

「だって、僕とヤルモしかいないんだよ?自分で出来る事、どんどん増やさないと」

セアンの前向きな発言が嬉しかった。



*****



 城の料理人を呼んで、セアンに丁度良い鍋を選んで貰う。その他に、包丁、まな板、最低限必要な用品。お皿やカトラリー。

「選ぶ物が多くて、疲れちゃうよ、、、」

「定期的に回って来るんだから、無理して買わなくても良いんだよ?」

「そうだね。此処から運ぶより、直接あっちで見て買った方が楽かも、、、。次からは、森の中の僕の家も回ってくれる?」

商人は必ず寄ると約束して、今回買った物を置いて、町に降りて行った。


 セアンは城の料理人に料理を教えて貰う。一人でいるより、何かをしていた方が良いだろう。

 最初は辿々(たどたど)しかった手付きも、時間は掛かるものの大分増しになって来た。

 

 小屋の様なセアンの家が出来て、二人で荷物を運ぶ。道は舗装されていないけど、歩きやすい場所を選んだ。

 商人から買った品物や、セアンの持ち物を運び込み、片付けると、夜には二人で住める様になった。



「セアン、町の女の子達が」

彼は不安そうに此方こちらを見る。

「セアンにって」

昨晩、第一王子と第二王子に頼んで運び込んで貰った。隠す様に掛けた大判の布を取ると、沢山のクッションがあった。色取り取りの刺繍がしてあって、どれ一つ同じ物は無い。

 セアンは刺繍をそっと撫でる。

「綺麗だね、、、。すごく綺麗」

厚手の敷物の上にクッションを並べる。元からあるクッションと合わせると凄い量になった。

「これなら二人で寝られる」

セアンは緊張しながらも、微笑んでいた。



 まだ、女性が苦手な様で、対面で会おうとはしない。城の中でも侍女は近付けさせなかった。



**********



 ヤルモとの生活はゆっくり進む。

 定期的に城に行く事はあるけど、殆ど僕と一緒にいてくれた。



 夕方、ウトウトしていた。ふと気付くとヤルモがいない。のそのそと起き上がると、外に人の気配があった。


 誰か来ている、、、。


 此処に人が来るのは商人位で、用事が有ればヤルモが城に行く。僕は恐る恐る外を見た。

 侍女が一人、俯きながらヤルモに何かを渡している。僕だって馬鹿じゃ無い。彼女がヤルモに好意を持っている事位すぐに分かった。

 それならヤルモは?

 ヤルモは此方に背を向けているから、表情は分からない。でも、品物を受け取ったと言う事は、嫌いでは無い筈だ、、、。

 ヤルモは小屋に入って来ると

「セアン、起きたんだ」

ニコリと笑う。

「うん、、、」

「お菓子を貰ったから食べない?」

「僕はいらない」

「そっか、、、」

「さっきの侍女と仲が良いの?」

「悪くは無いけど?」

指先が震える、、、。


、、、ヤルモは、彼女に触れる事が出来る、、、。


 吐きそうだ、、、。


 僕はゆっくりクッションの山に近付く。気持ちが悪い、、、。

「セアン?」

「ごめん、、、ちょっと気分が悪くて、、、」

モソモソと入り込み、頭から枕を被る。


 ヤルモに出来る事が、僕には出来ない。僕は女性に触れる事さえ、出来なくなっていたから、、、。



 彼の溜息が聞こえた。



 、、、ごめんなさい。やっぱり僕一人で此処に住めば良かった、、、。



*****



 暗闇が怖い。あの部屋を思い出すから、、、。窓一つ無い部屋。甘い香り、、、。王女の女性らしい身体、、、。脅す様な声、、、。



「セアンッ!」



 ここは、、、何処?



「セアン、、、目が覚めた?水、飲もうか、、、」


 自分でも驚く程、汗を掻いていた。口の中はカラカラで、喉がひりつく様だった。

 ヤルモがキッチンから水を汲んで来た。

「飲める、、、?」

僕は両手で受け取り水を飲んだ。

「ヤルモ、もし好きな人がいたら教えて、、、」

僕の手からコップを受け取る。

「何を言ってるの?」

「そうしたら、ヤルモの代わりを呼んで貰うから」

「セアン、、、本気で言ってる?」

「だって、ヤルモは女の子を抱けるでしょ?。それなら結婚して、子供が出来るかも知れない。いつまでもこんな所にいない方が良いよ」

「セアン、、、。俺達は元々婚約者だろ?そんな事考えて欲しく無い、、、」

「でも、もし、誰か好きな人が出来たら」

「出来ないってっ!」

急に大きな声を出されて、びっくりしてしまった。

「あ、、、」

「ごめんっ!セアンごめん!、、、大きな声を出してごめんね」

ヤルモはコップを床に置いて、僕を抱き締めた。

「セアン、、、君が不安な時に一緒にいたいんだ。だから、一人で頑張らないで、、、」

「、、、うん」

ヤルモはコップを端に寄せ、僕を抱き締めて横になる。

「さっきの侍女の事、気にしたの?」

僕も彼を抱き締めた。

「もう来ない様に伝えたよ。此処には商人以外、出入りを禁じているんだ。あの侍女はそれを破って来たからね。初めてだったから優しく言ったけど、次は無いよ」

「このままではいけないと分かっているんだ、、、。でも、どうしても無理みたいで」

「良いじゃ無いか、誰にだって嫌いな物や苦手な事があるよ。無理して好きになる必要は無いと思う。セアンが此処で元気にしていてくれれば、俺はそれで良いんだ」

「良いのかな、、、?」

「良いんだよ。そんなに慌てて生きる必要も無いし、屋根のある所で寝て、ご飯が食べられれば、それで幸せだよ」



*****



 ヤルモは森に動物を狩りに行く。

 僕は商人が来る度に、新しい野菜の種が無いか、植物の本や料理の本が手に入っていないか、聞いたりしている。



 ヤルモが城に行った日。僕が一人で畑にいると、女性が一人森を抜けて来た。僕は急いで小屋に入り、鍵を閉めて隠れた。

 外で人の気配がする。行ったり来たりしているみたいだ。部屋の中を覗いている気がして、息を止めていなくなるのを待つ。

 ようやく気配が無くなり、そっと窓の外を覗くと、女性は来た道を戻って行った。背中に赤ちゃんを背負っていた。


 一体何をしていたんだろう、、、。

 僕はもう暫く様子を見てから外に出た。


 、、、嘘でしょう、、、。赤ちゃんがいる。


 待って、置いて行かれても困る!お母さんを追い掛けないと!


「ふえぇ、、、」


 赤ちゃんが泣いた。そうだ!泣いてっ!お母さんを呼ぶんだ!


 赤ちゃんの泣き声は次第に大きくなる。

 僕は抱きながら、もっともっと!と心の中で叫んだ。


 

 赤ちゃんがどんなに泣いても女性は帰って来なかった。僕はどうしたら良いか分からず、かと言って放っておく事も出来ず、二人で家に入った。

 赤ちゃんはずっと愚図っていた。たまに激しく泣いたと思ったら、疲れたのか弱々しく泣く。

 僕はどうする事も出来ず、ただ抱いていた。



**********



 城から戻ると、セアンはいつもの場所で寝ていた。俺はそっと近寄り、枕を抱きながら寝ちゃうなんて可愛いな、と思いながら顔を覗き込む。

 ギョッとした、セアンが抱き締めていたのは枕じゃ無くて赤ちゃんだった。

 何が何やら分からず、頭が混乱しながら、二人を起こさない様にしないと、、、と考えた。

 俺はセアンの横に座り、彼の頭を撫でる。

 


**********



 赤ちゃんの泣き声がする。


 目が覚めると、ヤルモが僕と赤ちゃんを抱き締めながら寝ていた。

 僕がモゾモゾ動くとヤルモも起きた。

 二人で見つめ合う。どちらから話し出すか様子を見る様に、、、。

「今日、、、女の人が来たんだ、、、」

僕は上手く説明出来ないから、あった事をそのまま伝えた。


「この子、、、どうしたら良いかな」

赤ちゃんは激しく泣き始めた。僕達だけじゃ、手に余るのは分かった。

「城に行こう、、、」

ヤルモに言われて、赤ちゃんを抱き準備する。

「ヤルモ、、、赤ちゃんが濡れてる」

「見せて」

お尻がびっしょりだった。

「、、、急いで行こう」

ヤルモがサッと赤ちゃんを抱き、家を出た。



 城に着いても赤ちゃんは激しく泣いた。

兄上が出て来て対応してくれる。兄上の子供の乳母を呼んで、赤ちゃんを預けた。

 乳母は

「あらあら」

と言う顔をして、嬉しそうに抱き上げると、サッサと奥に引き込んでしまった。


 ヤルモが兄上に事情を話してくれた。僕はヤルモの後ろに隠れながら、赤ちゃんを心配した。


「食事がまだだって?」

兄上に話し掛けられる。

「今、準備するから食べて行きなさい」

「ありがとうございます」


 準備を待つ間、お互いに近況を話し、そうこうする内に父上と母上も来てくれた。

 乳母がスヤスヤと眠る赤ちゃんを連れて来る。

「わあ、、、」

湯浴みをして、授乳を済ませた赤ちゃんはピカピカになっていた。ヤルモが乳母から赤ちゃんを預かり、僕に抱っこさせてくれた。

 乳母は、扉まで下がり、僕から距離を置いてくれる。

「可愛い、、、」

「男の子です」

乳母が離れた場所から教えてくれた。

 僕はヤルモを見る。微笑んでる。

「首は座っていますが、まだミルクが必要な時期です」

そっか、、、。僕だけじゃあ、育てられないんだ。

「セアン、赤ん坊は誰かに託すか?」

父上に聞かれて返事をした。

「はい、、、」

「分かった、こちらでどうするか考えよう。それまでは乳母に預けるが良いか?」

「お願いします」

赤ちゃんは僕の腕の中でスヤスヤ寝ている。いつまでも見ていられる、、、。

「こんなに可愛いのに、どうして置いて行かれちゃったんだろう、、、」

ヤルモがポンポンと僕の頭を叩いた。


 食事中は、籠に入れて寝かせていた。最初は静かに寝ていたけど、途中で泣き出して乳母が抱き上げた。乳母はお辞儀をすると赤ちゃんを連れて部屋から出て行き、長い間帰って来なかった。


 やっと戻って来たかと思ったら、またフニャフニャと泣き出す。乳母は再び抱き上げて、連れて行ってしまった。

 赤ちゃんが寝るのは半時位で、乳母は休む間も無かった。


 あの女性は、背中に赤ちゃんを背負っていた。一人でも大変そうなのに、赤ちゃんが二人いたら、、、。



 捨てられた王子

 捨てられた子供、、、。



 僕達は同じだ、、、。



*****



 その日もなかなか寝付けなかった。ヤルモが横で寝ている。そっと、彼の胸の中に入ると寝ながら抱き締めてくれた。

 温かいな、、、。

 あの赤ちゃんは今頃どうしているだろう。一人で籠の中で寝てるのかな、、、。


 もう一人の赤ちゃんは、お母さんに連れて行って貰えた。どうして、彼が置いて行かれたんだろう、、、。


 悲しくて淋しくて涙が出る。

 ヤルモが僕の髪にキスをした。優しく背中を撫でてくれる。

 僕は泣きながら眠りについた。



*****



 早朝、僕は赤ちゃんが気になって城に行ってみようと思った。

 準備をしているとヤルモが目を覚ました。

「どこに行くの、、、?」

「城に赤ちゃんを見に行こうと思って」

「じゃあ、俺も行くよ」

そう言って準備を始める。


 二人で歩きながら

「あの子の名前、、、なんて名前なのかな」

「、、、何も手掛かりは無かったんだよね?」

「うん。でも、ずっと赤ちゃんって呼ぶのも可哀想だよ」

チラッとヤルモの顔を見ると微笑んでいる。

「セアンが考えてあげたら?」

「、、、僕が?」

「彼に似合う名前を考えてあげなよ」

「そっか、、、新しい名前を上げても良いんだ」


 、、、オンニ


 、、、トイヴォ


 、、、アルマス、、、

 アルマス、、、。



 庭園で乳母が赤ちゃんを抱いて散歩をしている。ニコニコ笑っている。手を伸ばしながら、赤ちゃんの言葉で話しをしている様だった。

 乳母が気付いてお辞儀をした。ヤルモが近付き、赤ちゃんを受け取る。僕の側に来て、赤ちゃんを抱かせてくれた。

 落ちない様に、落とさない様に、、、。

 彼は僕の顔を触り、お喋りをする。

 あー、、、とか、うー、、、とかそんな言葉。

「おはよう」

んー!と顔を寄せるとうきゃうきゃ笑う。可愛い。



「セアン」

「兄上、おはようございます」 

「朝食の準備が出来ているから、食べて行くと良いよ」

昨晩もご馳走になったのに、、、。

「君もセアンがいた方が嬉しいよね」

そう言いながら、指でチョンチョンと触る。

 ヤルモを見ると笑っている。

 僕も赤ちゃんと離れ難かった。



*****



朝食を食べながら、ヤルモが

「あの子の名前を付けても良いですか?」

と聞いた。僕はヤルモの顔を見る。

「そうよね」

母上が言う。

「名前が無いと不便よねぇ」

母上を見る。

「セアン、何か良い名前があるかしら?」

「あの、、、アルマスって、、、」

ちょっと恥ずかしいな、、、。俯いてしまう。

「アルマス、、、良い名前ね」

赤ちゃんは籠の中で寝ている。、、、君の名前はアルマスだよ、、、。



*****



 父上とヤルモ達は仕事の話しをする為に、場所を移動した。

 食堂には母上とアルマス、僕の三人だった。

「セアン、城に戻って来ても良いのよ、、、」

それは、まだ、、、。

 朝食の後、母上に提案された。

「今、畑で作物を作っているんです。始めたばかりで、上手くいかないけど、、、。中途半端にしたく無いし」

「そう、、、。それなら、朝食と夕食は此方こちらで頂いたら?アルマスに会いたいでしょ?」

「アルマスもいつかは何処どこかに貰われてしまうのでしょう?、、、」

「ねぇ、、、この子をセアンとヤルモで育てたいと思わない?。貴方達は元々婚約していたのだし、、、。結婚したら、二人の子供が欲しくなるかも知れないわ。今は小さ過ぎて大変でも、離乳食が始まれば、授乳の必要が無くなるし、、、。それまでは乳母に見て貰えば良いと思うの」

僕がアルマスの掌を指先で触ると、小さな手で握ってくれる。

「慌てないで良いわ、暫くアルマスは此方こちらで預かるし、もし、他所に行く事になったとしても、授乳期が終わってからになるんじゃないかしら」

「母上、、、僕、ヤルモと結婚しても良いんですか?」

「あら、、、。そんな事言っていたら、ヤルモが悲しむわよ?ヤルモはずっと貴方の事が好きなんだから」

「でも、、、僕、、、」

あんな事があったから、、、。

「、、、セアン。貴方はヤルモの事、嫌いなの?」

首を振る。

「大好きだよ。だけど、、、」

僕はアルマスを抱き上げた。ギュッとすると、アルマスの香りと、温かさと、重さに安心する。

「だけど、僕、、、出来なかったんだ、、、」

「出来なかった?」

「、、、あの場所で、身体が上手く反応しなくて、、、その、、、どんなに頑張ってもダメで、、、。あの人に強要されたけど、全く動かなくて、、、。だから、僕の身体はそう言う事に向かないんだと思う」

アルマスに顔を埋める。

 母上は、それだけで何があったのか理解してくれた。

「セアン、それは貴方の所為じゃ無いわ。そんな状況で、そんな事出来なくても大丈夫」

「でも、他の人達は出来るって。ちゃんと、あの王女ひとを満足させたって、、、出来ないのは、僕だけだって言われたんだ、、、」

「だって、愛が無かったんでしょう?」

「愛?」

「好きでも無い人に反応しないのは、普通の事じゃ無いかしら?」

「???」

「セアン、心配しなくて良いの。出来ても出来なくても、ヤルモと貴方が一緒にいて、幸せだなって感じる事が大切よ」

「母上、、、この事はヤルモにも話さないで。、、、誰にも知られたく無いんだ、、、」

「そうね、二人だけの秘密にしましょう。この秘密は、天国まで持って行くわ」

母上は、優しく笑ってくれた。少し、涙を流しながら、、、。



*****



「あ、、、のね、、、」

緊張する。

「母上が、アルマスを僕達二人で育てたらどうかって、、、」

「王妃様が?」

「うん、僕達が結婚したらいつか子供が欲しくなるだろうからって、、、」

「俺と結婚してくれるの?」

一つ頷いた。クッションに囲まれて、ヤルモの隣りでドキドキしながら頷いた。

「本当に?大丈夫?」

僕はヤルモを抱き締めて

「ヤルモの事、ずっと好きだったよ。、、、もし、ヤルモが僕の事嫌いじゃ無ければ、結婚して欲しい」

「セアン、、、俺がいつからセアンの事好きか知らないでしょ、、、。俺だって、ずっとずっと好きだったんだ」

そう言って、ギュッと力を込めた。安心する。

 髪にキスをしてくれた。不思議だな、肌に触れた訳じゃ無いのに胸がキュウッてなる。

 僕がヤルモを見上げると、額にキスをしてくれた。背中に回された掌が、僕をトントンと優しく叩き、安心させる。


 キス、、、したいな、、、。


 、、、キス、したいな?、、、。


 嘘でしょ?僕、ヤルモとキスしたいの?うわっ!?


「セアン?」

「や、、、えっと、あの、、、」

顔が赤くなりそうだ。



*****



 毎日アルマスに会いに行く。朝は大抵乳母と庭園でお散歩をしていて、ヤルモが乳母から譲り受け、僕に抱っこさせてくれる。

 アルマスは、僕達を覚えてくれた様だった。

「アルマス、おはよう」

そう言って頬にキスをする。可愛い。もう一度キスをした。



 朝食を摂りながらアルマスを見ると、天井を見ながらお喋りをして、手を伸ばしている。

 可愛いな、と思っている内に泣き出して乳母が連れて行く。



 食事が終わる前に戻って来たアルマスは、籠の中で眠っていた。

 アルマスを連れて行く訳には行かないから、僕は寝ているアルマスにキスをして、ヤルモと森に帰る。

 夕食の頃、再びアルマスに会うと僕はまた彼にキスをした。そして、帰り際もキスをする。


「今日は随分アルマスにキスをしていたね」

森の中を二人で歩きながら、ヤルモに言われた。足元を照らすランプがゆらゆら揺れている。

「そうかな、、、」

と言いながら、つい唇に指先がいく。ムニムニと下唇を触る。


 だってさ、、、ヤルモとキスしたいんだもん。


 そう思いながら唇を噛む。



*****



 ヤルモに寄り掛かりながら唇を触る。

 むにむに、むにむに触ったり噛んだりする。

 ほぼ寝具になった敷物の上で、ウトウトする。ヤルモは本を読んでいた。眠いのに、完全には眠れない。寝返りを打って、ヤルモの身体に顔を擦り付ける。なかなか良い態勢が見つからない。

 やっと落ち着いたかと思うと、無意識に唇を触っていた。

 顔に当たるヤルモの服。右手で唇を触り、ヤルモに抱き付く。


 ヤルモが僕の頭を撫でて、また本を読む。



*****



 アルマスが指しゃぶりをしているのを見て

「赤ちゃんってどうして指しゃぶりするんだろう」

と聞いたら、ヤルモが笑った。

「セアンもよく唇を触ってるよね?」

「え?そうかな?」

「考え事してる時とか、寝る前に」

「赤ちゃんは眠い時や不安な時に指しゃぶりをしますよ」

乳母に言われて、そう言えばそうかと思う。

「じゃあ、今は眠たいのかな、、、」

「お尻も綺麗になって、お腹が一杯になったので、そろそろ眠るかも知れませんね」



*****



 森を歩きながら

「アルマスも、もう少ししたら離乳食が始まるって」

ヤルモは最近、いつも手を繋ぎながら歩いてくれる。

「セアンは何か不安な事があるの?」

不安な事、、、。と思ったら、また唇を触ってしまった。

「ほら、唇触ってる」

と笑われた。

なんか、ムニムニしてて気持ち良いから」

「そんなに?」

「うん」

「俺にも触らせて、、、」

「良いよ」

とヤルモの方を向いて目を瞑る。


 フワッと触れた。


僕は目を開けた。

「よく分からなかった、、、」

ヤルモの顔が近付いて来る。


 あ、、、


と思ったら、唇をはむっと唇で挟まれた。

「本当だ、柔らかいのに、弾力があって気持ち良い」

彼が笑う。

「ヤルモの唇も触りたい、、、」

と言うと、ヤルモは少しかがんでくれた。首に腕を回して、彼がした様に唇を優しく噛んだ、

 一度離れて、彼の顔を見るともう一度寄って来る。唇を押し開けられて、想像していたキスとは違うキスをされた。腰を抱かれて、身体の中心が密着する。


 モゾ、、、。


 な、、、んか、、、。


「ヤルモ、、、あの、、、」


僕の脚の間に、彼の脚が入って来る。僕が逃げ腰になると、ヤルモは僕の腰の下辺りをグイッ!と引き寄せた。


「待って、ヤルモ、、、。僕、何だか変なんだ、、、」

「キスに、反応しちゃった?」

唇を離しながら嬉しそうな顔をする。

 僕は彼の胸に顔を押し当て、コクコクと頷く。


「じゃあ、急いで帰らないと」


サッと僕を抱き抱えると、平然と歩く。僕は身体の中心が疼いて困るのに、、、。

「ヤルモは何とも無いんだ、、、」

僕には反応し無いのかと思うと、少し淋しかった。

「まさか!早く帰りたくて走り出したい位なのに?」

と僕の額にキスをした。


 早歩きをするから、落ちない様にヤルモにしがみ付く。身体中を彼に押し付けたい。

 やっと小屋の前に着くと、彼は僕を降ろして、キスをしながら鍵を開ける。

 後ろ手に扉を閉めて鍵を掛けると、僕を抱き上げる。子供を抱っこする様に、僕は脚を彼の腰に回し、彼は僕が落ちない様にお尻を支える。

 先刻さっきより密着度が高い、、、。

 彼は、僕を落とさない様にしっかりと支えながら、クッションの上に降ろす。

 そのまま熱いキスを交わすと、そっと太腿に触れた。


「あ、、、」


と、声が出た時、僕は彼が欲しくて堪らない事に気が付いた。

 ヤルモが好きだ。身体が反応する気持ち良さに、飲まれて行く、、、。良かった、、、僕、ヤルモに反応している。僕の身体の知らない所が、彼を求めて、触れて欲しくて、勝手に動いてしまう。


「セアン、、、いい?、、、」

確認されると、大切にされてるみたいで嬉しかった。

「もっと、、、もっと触ってヤルモ、、、」

頭の先から、爪先まで触れて欲しかった。触れて、トロトロに溶かされて、二人で一緒になってしまえば良いのに、、、。



**********



 アルマスがお座りする様になった。離乳食も少しずつ始め、ハイハイは爆速だった。

 みんなでアルマスを育て、兄上の子供達もアルマスが大好きだった。

 朝食を終え、今日は何が収穫出来るか考えながら小屋に向かう。

 小屋の前に女性が立っていた。見覚えのある後ろ姿。ヤルモが僕を見る。知らない女性はまだ苦手だった。

「大丈夫?」

と言って、背中を支えてくれた。僕達の気配に気付いたのか、彼女は振り向いた。

「アルマス?」

ヤルモが呟いた。

 彼女の胸にはアルマスがいた。

「え?」

「彼女がアルマスを置いて行ったんだ、、、」

僕はシャツをギュッと握り締めた。

 彼女は深々と頭を下げる。

 ヤルモは彼女に近付いた。僕は行きたく無かった。

「あの、あの子は今、、、」

彼女の声を聞きたく無い。僕は裏口から急いで小屋に入った。


 ヤルモと彼女の声が聞こえて来る。内容までは分からない。そして、僕は酷く怒っていた。


 どうして来たんだっ!

 アルマスを捨てたクセに!

 あんなに泣いていたのに、アルマスを捨てたのは貴女じゃ無いかっ!


 ヤルモが彼女を待たせて、小屋に入って来た。

「セアン、、、」

僕はヤルモの呼び掛けを無視した。

「セアン、、、アルマスを迎えに来たって、、、」

「イヤだよっ!アルマスは僕達の子だよっ?どうして今更、、、」

「それでも、お母さんが来てるんだ」

「ヤルモはアルマスがいなくなっても良いの?」

「、、、」

「すぐには決められ無いよ、、、。今日は帰ってもらって、、、」

「そうだね、急過ぎて、俺も頭が回らない」


 ヤルモは静かに部屋を出て、暫くすると戻って来た。


「アルマスの名前ね、テーオドルって言うんだって、、、」

「、、、アルマスの方が似合ってる、、、」

「うん」


 僕達は黙り込んだ。何を話したら良いか分からなくて、僕は涙を堪えた。



*****



 夕方、いつもより早目に城に向かった。アルマスの事を相談したかったから。でも、僕達の歩く速度はゆっくりで、いつもと、変わらない時間になった。

 

 僕はアルマスを抱いて離さなかった。ヤルモがみんなに話してくれる。アルマスは僕と一緒に窓の外を見る。

 アルマスが急に愚図り出して、僕は今までやった事の無い、アルマスの下着交換を習おうかと思った。離乳食を少しずつ始め、下着を汚さない様になったら、小屋に連れて行って良いと言われていた。もし、下着の交換が出来るなら、アルマスと一緒に帰れると思ったから、、、。


「セアン、アルマスを返しましょう」

母上に言われても、僕は聞こえないフリをした。

「セアン、、、」

「アルマスは、あの人の家で幸せになれるの?此処にいた方が幸せだと思う」

「それでも、家族と一緒の方が」

「でも、捨てたんだよ?!」

「そうね、、、。二人同時に育てる自信が無かったそうなの。旦那様が怪我をして、暫く働けなくて、、、。今は、旦那様の怪我も治って、二人の赤ちゃんも育てられそうだからって、、、」

「そんなの勝手だよ、、、。あの日、アルマスが泣いても、あの人は戻って来なかったんだ!あんなに、一所懸命泣いてたのに!」

本当は僕だって、お母さんと一緒に育った方が良いって分かってるんだ。でも、、、やっぱり、この子と離れたく無いよ、、、。

 ヤルモが泣いているアルマスを抱き上げ、乳母に渡す。乳母はそっと部屋を出て、アルマスの下着を替えに行った。

「此処でみんなに大事にされていたのに、急に知らない人の所に行ったら、アルマスが可哀想だよ」

僕はヤルモに訴えた。

「名前は?名前だって、アルマスって呼ばれてたのに、テーオドルって呼ばれちゃうの?アルマスが混乱しない?」

ヤルモはそっと僕を抱いてくれた。もう、イヤだって言ってもどうにもならない事が分かってしまった。



*****



 翌日、僕とヤルモでアルマスを連れてあの人の家に行った。夫婦は喜び、アルマスそっくりのカルステンはアルマスと仲良くしていた。

 夫婦の家は比較的綺麗だった。アルマスの住む家が、汚い家だったら連れて帰ろうと思っていたのに、それも無理だった。


「アルマス、、、ばいばい」

そう言って、ヤルモと家を出る。一瞬、アルマスの泣き声が聞こえたけど、すぐに聞こえなくなった。

 僕はアルマスを捨ててしまった様な気がして、ただ歩くだけだった。



*****



 城に立ち寄り、ヤルモが報告をして、二人で帰る。小屋の中に入ると脱力して、何も出来なかった。

 ヤルモが作ってあったスープを温めてくれる。それをカップに入れて、持って来てくれた。

「ありがとう、、、」

一口飲むと、何だか涙が出た。いつか此処で三人で住む筈だったのに、、、。

 ヤルモもスープを飲む。ゆっくりゆっくり飲んで、全部飲み終わったら、カップを受け取り片付けてくれた。

 僕はモゾモゾと、クッションに身体を埋める。ヤルモが横に来て、抱き締めてくれた。

「アルマス、、、行っちゃったね、、、」

「うん」

僕はヤルモの胸で泣いた。ヤルモも僕を抱きながら泣いているみたいだった。



*****



 僕は自分が意外と薄情だと気が付いた。一週間も経つと、アルマスがいない淋しさに慣れてしまった。

 最初は、城に行くとアルマスを思い出してしまうから、行くのを辞めた。

 それから、毎食、食事を作りヤルモと過ごした。

「たまには新しい料理でも習おうかな、、、」

そう言うとヤルモはにっこり笑ってくれる。


 城に戻り、母上に料理長に料理を習いたい話しをする。それならと、夕食の準備の時見学させて貰う事になった。

「アルマスの事は大丈夫?」

「はい、最初は淋しかったけど、今は平気です。やっぱりこれで良かったと思います」

「たまには見に行っているの?」

僕は首を振る。

「会ってしまうと、淋しくなりそうで、、、」

「そうね、、、」

二人でしんみりしていると、兄上の子供達が

「お祖母ばぁ様?」

と顔を覗かせる。手には赤ちゃんの頃に遊んだ玩具おもちゃを持って。

「これ、、、もう使わないからアルマスに上げたいんだ」

そっか、、、淋しいのは僕だけじゃ無いんだ、、、。

「テーオドルだよ。、、、アルマスの本当の名前はテーオドル。明日、ヤルモと玩具を届けに行こうか」

「本当?」

「うん、カルステンの分も選んで上げて?二人が喜んでくれそうな物、沢山選んでおいて」

「うん!もう着れなくなったお洋服もあるよ!母様と相談していっぱい集めるね!」

兄上の子供達は、はしゃいで部屋を出て行った。

「あら、、、私も行こうかしら。テーオドルに会いたいわ」

、、、みんなで行ったら迷惑になりそうだな、、、。



 夕方、料理長に美味しい肉の焼き方を教わった。僕はいつも火がちゃんと通る、スープやシチューにしてしまうから香辛料や香草を使って肉を焼くのは楽しかった。



*****



 料理を二人分持ち帰り、ヤルモと食べる。今日、城であった事を話すと

「テーオドルとカルステンに来てもらった方が、良いかもね」

「?」

「みんなで押し掛けたら、ちょっと人目を引き過ぎるかも、、、」

僕とヤルモ、兄上の子供達、母上もテーオドルに会いたいだろうし、乳母だって、、、。

「わあ、、、」

二人で話し合い、明日の昼過ぎにテーオドルを迎えに行く事にした。



*****



 翌日、昼過ぎにテーオドルの家に行く。一応、ヤルモが午前中に先触を出していたけど、ちょっと緊張した。

 テーオドルのお母さんは、ヤルモと少し話してカルステンを抱く。ヤルモがテーオドルを抱き上げ、僕に託した。

 懐かしい感じがする。それにちょっと大きくなったかも、、、。



 最初、城に招待しようかと思ったけど、それは辞めた。テーオドルの両親を疑う訳じゃ無いけど、知らなくて良い事は知らない方が良い。

 みんなにも、少し変装して貰った。

 僕達の小屋に着くと、みんなテーオドルとカルステンを歓迎した。双子を見た事の無い兄上の子供達は、どっちがテーオドルが分からなくて混乱している。

 乳母はテーオドルが分かるらしく、ニコニコしていた。

 母上は、テーオドルのお母さんに

「貴女が一番大変だから」

と食事を準備させて、テーブルに着かせ椅子に座らせると、ゆっくり食事を摂らせた。

 兄上の子供達が玩具を沢山持ち寄り、遊ぶ。

 テーオドルとカルステンが昼寝をしたタイミングで彼等を家まで送った。



 母上は夕食を一緒に摂ろうと誘ってくれたけど、僕とヤルモは遠慮した。

 何と無く、テーオドルに会うのは今日が最後だと思った。それで良いんだ、、、。あまり関わり合っては行けない。僕達は王族で彼等は庶民だから、、、。



**********



 夕食が済んで、いつもの場所で本を読む。セアンは俺の横で俺にくっついて、モゾモゾしている。

 クッションの位置が悪いのか、アレコレ並べ直して、最終的に俺の左側で落ち着いた。脇に入り込み、左肩を枕にして、俺の腕に抱き付く。

 まぁ、ページを捲るのに支障は無いから良いけど、、、。

 


*****



 夜中ふと目を覚ますと、セアンが椅子を持ち寄り、窓際に座っていた。外を見ている。

 俺はそっと近付いて話し掛ける。

「眠れないの?」

「ちょっとね、、、」

「そっか、、、。結婚式、、、いつにしようか、、、」

「え?」

セアンが見上げる。俺はそっと口付けた。

「結婚式を挙げた方が、家族になったって気がしない?」

「うん、する。、、、結婚式したい、、、」

そう言って、セアンは俺の首に腕を回して口付けてくれた。

「セアン、愛してる、、、ずっと一緒にいよう、、、」

「うん、僕で良いなら、、、」

「どんな結婚式にしたいか考えておいて、、、明日、みんなに話しに行こう、、、」

セアンは横に立つ俺に腕を回して頬を寄せる。見下ろしながら頭を撫でると、嬉しそうな顔をして見上げた。


 月明かりが当たって綺麗だった。


 俺はセアンを抱き上げ、いつもの場所に移動する。

「ヤルモ?」

落とさない様に、そっと横たえ口付ける。

「ドキドキしてる?」

「だって、、、」

首を支えた腕を引き抜き、そっと首筋を撫で、胸を撫でる。そのまま、下腹を触り服を捲る。

 チラリと彼の顔を見る。トロンとした顔が、フッと俺を見つめた。

 潤んだ瞳で微笑む。

 ああ、だめだ、、、キスがしたい、、、。甘い甘いキスがしたくて堪らない、、、。

 キスをしながら、彼の素肌を触る。



 セアン、、、。



「ヤルモ、、、大好き、、、」




二人がいつまでも幸せでいられますように!

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