そして令嬢は苦悩する。
今日も今日とてやって来た二人を何とか追い返し、エルネスティーネは異母弟相手に愚痴をこぼしていた。淑女らしからぬ振舞いだが、そんなことはもうどうでもいい。
「おかしいわアスター。私はルイシアに嫌われて恨まれて、シグヴァルト殿下のお怒りを買うはずだったのよ」
「だってエルのしたことは、マリー=ルイシアさんをフォローすることばかりだし。しかもフォローされてるってルイシアさんが気づいちゃってるし」
「どうして!?」
「だからさ、嫌われたい恨まれたいなら、正妃教育を叩き込むとか装飾品を調えてあげるとかじゃなくて、「こんなこともおわかりにならないの」と馬鹿にするとか、「質素なアクセサリーですこと、男爵家ではそれがせいぜいかしら」みたいに意地悪しなきゃ」
「そんなひどいことできないわ! それに、ルイシアを養女にして王太子妃にさせるなら、正妃としての心得はちゃんと覚えておいてもらわないといけないし、装飾品だって気を配らなくては恥をかくわ!」
だからフォローした。そうしたらルイシアに懐かれ、シグヴァルトに好かれた。何故だ。
「僕がちゃんと計画書作ってあげたのに、それを渡す前にエルが行動に移ってたからだよ……」
「嫌よ、私はセーデルブラン女侯爵になって、領地でスローライフするのよ」
「王太子殿下のご意志、お望みはエルとの結婚だよ。殿下のお望みの為に頑張るんでしょ? 結末がちょっとズレただけだよ。殿下のお妃の養母になるんじゃなくて、殿下のお妃になっただけだよ」
「あなたは誰の味方なの!?」
「一応、エルの味方だけど」
「どこが!?」
「三日に一度は、殿下とルイシアさんを追い返してあげてるじゃない。王族相手に、貴族の息子が阻止率三割だよ、褒めてよ」
ぽんぽんと肩を叩いて慰められた。確かに、毎日ではないのはありがたいけれども。
「本来の立ち位置に戻っただけだよ。よかったねエル、愛されての婚約だよ!」
「あなた適当に言ってるでしょう」
「正直、殿下からの圧力が露骨になってきた上、父様と母様が『どうして邪魔をする』って無言のプレッシャーをかけてきてるから、もう僕は引っ込みたい」
「アスター!」
それ以来、ほぼ毎日(三日に二日の割合)訪れては求婚してくるシグヴァルトと、「男爵家の娘ごときが王太子殿下の側室! 何を思い上がっていたのかしら私! エルネスティーネ様に施していただいた教育の成果は、王宮勤めで活かしてみせます!」と職業婦人に燃えてしまっているマリー=ルイシアであった。
「……どうして……」
「何?」
「婚約破棄なさりたいとおっしゃっていたからご協力したのに、どうしてまた私に婚約を迫るの!?」
「政略結婚から恋愛結婚に変更だよ! 忠誠心ある女官も獲得だよ!」
「そんなことどうでもいいわ!」
「どうでもいいそうです、つまり受けてもいいそうです殿下! ルイシアさんも、専属女官の件は大丈夫!」
「わかった! 協力に感謝するぞアスター!」
「ありがとうございます、アスター・ウィレム様!」
ダダダッと駆けていく足音は、シグヴァルト。軽やかに音を立てずに離れていく気配は、マリー=ルイシアだろう。
「……アスター……?」
「賭け直しになっててね。いつエルが受けるか。今日の午後が四十八倍の大穴。配当金は半分あげるからね!」
──弟は、味方だと言ったくせに、既に姉を売り飛ばしていた。
こうして、エルネスティーネの苦悩は続くのであった。




