令嬢は混乱している。
「エル。御機嫌いかが?」
「……アスター? あなた一人?」
嫌な予感に襲われながら問いかけたエルネスティーネに、異母弟は整った顔に昏い笑みを湛えて答える。
「やだなあ、エル。──そんなはず、ないじゃないか……」
「エル! 今度こそ俺達自身の意志による婚約式だ、日取りを決めよう!」
「エルネスティーネ様! 私を専属女官にご指名下さい!」
アスターを押しのける勢いで入室してきた元婚約者とその元恋人に、エルネスティーネは声を張り上げた。
「王太子殿下、淑女の部屋に勝手にお入りにならないで!」
「気にするな、婚約者だ」
「破棄なさったではありませんか! ──ルイシア! 寝室に入らないで!」
「はい! エルネスティーネ様のお支度を調える許可は頂いています!」
「誰から!?」
「王妃様と公爵夫人です!」
だってわたくし、未来の母ですものby王妃陛下。
わたくしなんて、現時点で母ですものby公爵夫人。
「ルイシア! 正妃にあるまじき振舞いはするなと言ったでしょう!?」
「案ずるな、エル。俺の妃は君だけだ!」
「そうです! 私は王太子殿下とはもうお別れしました。あれは一時の気の迷いです!」
「恋に恋した的なものだったな、ルイシア!」
「おっしゃるとおりです、殿下!」
意気投合しているシグヴァルトとマリー=ルイシアは、恋人だった頃よりも親しくなった気がする。
「さ、エル。早く日取りを決めよう」
「その後で私を専属女官にして下さいね!」
何がどうしてこうなったのか、エルネスティーネは泣きたかった。
──婚約破棄を言い渡された直後、その当人から求婚された。そしてうっかり失神してしまったエルネスティーネの意志は無視して、父が受けていた。
「エルネスティーネ様は……ご自分があらぬ誤解を受けてでも、王太子殿下のお望みの為なのだからと。王太子殿下としてでなく、シグヴァルト殿下御本人をお支えするのが、エルネスティーネ様の務めだと……」
「ルイシアからそう聞いた時、俺──私は目が覚めました。私を、王太子としてでなく、私自身として見てくれるのは、昔からエルだけだった……なのに、そんなエルを裏切って……」
愁嘆に暮れようとした二人に、場の空気が「なんて健気なエルネスティーネ嬢……!」になったのだとアスターから聞いたエルネスティーネは、何を間違えたのかわからなかった。




