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期待の令嬢。

 ──半年後。

 今日は、王太子シグヴァルトの十八歳の祝いの宴の日である。

 エルネスティーネはうきうきしていた。婚約破棄されたら、父は世間体上、領地に移れと言うだろう。嫁ぎ先もなくなるエルネスティーネを持て余すかもしれないが、エルネスティーネには、母から譲られた所領もある。成人するまで父が預かっている形のセーデルブラン侯爵領で、今までに得た知識を元に、内政改革してみたいと思っている。


 マリー=ルイシアへの「正妃教育代行」は、双方の努力でかなりのものになった。完璧にとはいかないが、そこは仕方ない。初めは「私には無理です」と泣くばかりだったマリー=ルイシアも、今では「この説明は間違っています」と、古い教本の間違いをはっきり指摘するほどになってくれた。感無量である。


 婚約破棄されたら、その場で受け入れよう。そして父に不始末を詫び、自らセーデルブラン侯領に移るのもいいかもしれない。いや、その前にマリー=ルイシアをセーデルブラン侯爵家の養女にしなくてはならないから、すぐに王都を離れてはいけない。まずはエルネスティーネが爵位を継ぎ、その上でマリー=ルイシアを養女にしなくては。


 美しく着つけられていく自慢の姫様が、まさか婚約破棄されることを心待ちにしているとは露知らず、グルストランド公爵家の侍女達は、せっせとエルネスティーネを飾りつけた。


***


 国王、王妃、王太子、王女達のお出まし前に、貴族達は華やかな宴席を楽しんでいる。この先は、シグヴァルトとエルネスティーネの挙式の日程が発表されると思っているのだろう。


「……ふふ」

「エル……」

「なあに、アスター」


 エルネスティーネのエスコートは、アスターだ。父は義母をエスコートしている。本来なら、エルネスティーネはシグヴァルトにエスコートされるのだが、あちらから連絡がなかった。父は不手際だと怒っていたが、想定内だ。シグヴァルトは、マリー=ルイシアをエスコートするのだから。


「いや……エルの言うとおり、セーデルブラン侯爵家とマリー=ルイシアさんの養子縁組の書類は揃えたけど……ほんとにやるの?」

「ありがとう、アスター。いい子ね」


 できるだけ「優しい微笑み」を演じてみたが、アスターには「悪い顔になってる……」と言われてしまった。

 その時、国王一家が入室した。国王陛下は王妃陛下の手を取り、まだ幼い王女殿下達は母である側室に付き従っている。そして、王太子シグヴァルトは──マリー=ルイシアをエスコートしていた。

 それに気づいた貴族達が、ざわりとさざめく。少し離れた場所にいた父と義母が、顔色を変えてエルネスティーネを見た。にっこり微笑み返してみたが、両親の顔色は青ざめている。


「王太子の十八の祝いに、皆、大義である」


 嫡男の祝いの宴だというのに、国王陛下はどこか疲れた表情だ。王妃陛下に至っては、無表情の極みである。


「──シグヴァルトが、どうしてもこの場で皆に申したいことがあると言う。聞いてやってくれ」


 もうどうにでもなーれ☆と言う心の声が漏れきった口調だった。



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