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宣戦布告する令嬢。

「アルムストレーム男爵令嬢、マリー=ルイシア・ティルダ・エッダ様。私、あなたにお話があります」


 下校時間前に、エルネスティーネはマリー=ルイシア捕獲に走った。先にシグヴァルトと合流されてからではまずい。エルネスティーネがマリー=ルイシアをいじめていると誤解されるのは構わないが、その場合、事態把握してすぐに処断しないと、シグヴァルトがアホだと思われてしまう。エルネスティーネも、お妃教育を叩き込む前に退場させられるのも困る。


「エ、エルネスティーネ様……」


 マリー=ルイシア嬢は、小さく震えている。金色の髪と翆玉の瞳の、暖かみのある可愛らしい令嬢だ。月光色の髪と青い瞳のエルネスティーネは、控えめに言っても冷たい顔立ちなので、マリー=ルイシアの愛らしさにシグヴァルトが惹かれるのは、とてもよくわかる。


「とうとう、エルネスティーネ様のご寛恕も限界ということね」

「それはそうよ、男爵家の娘ごときが、ご婚約者であるエルネスティーネ様を差し置いて王太子殿下と──……」

「でも、直々に断罪なさらなくても、わたくし達にお声がけ下されば……」


 ひそめられていない悪意の声が耳に入った瞬間、エルネスティーネはキッとそちらを睨みつけた。


「今、マリー=ルイシア様を貶めたのはどなたですか」


 ぴたりと、雑音が止まった。


「誤解があるようですから申し上げておきます。私は、(私に代わって王太子妃になっていただくのだから)マリー=ルイシア様に悪意も敵意もありません。(いずれは王妃になられる御方ですから)敬意を以て接したいと思っています。今後、マリー=ルイシア様への侮辱は、(マリー=ルイシア様を養女とする予定の)私への侮辱と受けとります」


 エルネスティーネは()の台詞以外を一息で言い切ると、ぽかんとしている令嬢方には一瞥もくれず、マリー=ルイシアの手を取って目的地──公爵家の屋敷に向かった。


***


 グルストランド公爵家の離れで、エルネスティーネは手ずから紅茶を淹れ、焼き菓子と共にマリー=ルイシアに勧めた。向い合せに座ると、マリー=ルイシアは怯えたように顔を伏せた。


「あ、毒などは入っていませんからご安心を。不安でいらっしゃるなら、私の分と換えましょうか?」

「い、いえ……いただきます」


 びくびくと震えながらも、マリー=ルイシアはカップに手を延ばし、口をつけた。一口飲んで、ほっとしたように笑った。


「……おいしい」

「お口に合ったなら、よかったこと」


 できるだけ「優しい笑顔」を心がけて微笑み返すと、マリー=ルイシアはまた固まってしまった。昨日、アスター相手に何度も練習したが、どうしても「冷ややかな微笑み」に見えてしまうらしい。難しいものだ。


「単刀直入にお話しします。先日、中庭で……シグヴァルト殿下のお望みを聞いてしまいました」

「えっ」

「私との婚約を破棄し、マリー=ルイシア様、あなたを妃に迎えたい。殿下はそうおっしゃ……」

「私、そんなことは望んでいません!」


 マリー=ルイシアは、淑女らしからぬ勢いでそう主張した。


「確かに、私は殿下をお慕いしています。あの時の会話をお耳になさったなら、側室としてお傍に置いてほしいと申し上げたことを、お怒りなのだとは思います。でも、私、妃となられるエルネスティーネ様のお目を汚すことは致しません。王宮に入るつもりもありません。……ただ、時々……殿下との逢瀬を許していただけるなら、私はそれで」

「よいわけがないでしょう。あなたは馬鹿なのですか」

「……はい……そ、そうですよね。ご成婚前から、側室を許してほしいなど……」

「そんなことはどうでもよろしい」

「え」


 マリー=ルイシアの悲嘆をばっさり切り捨てて、エルネスティーネはずいっと身を乗り出した。


「よろしいですか。殿下がお望みなのです。私との婚約破棄、そしてあなたを妃にと! それを、臣下たるあなたが『側室がいい』『妃になりたくない』などと、何を馬鹿なことを言っているのです。王家をお支えし、お仕えするのが貴族の務めです!」


 アスターが聞けば「馬鹿はエルだよ……」と突っ込むだろう。しかし、幸いなことに、彼はここにいない。


「ですが、今のままでは婚約破棄は難しいのです。私に非がありませんから、殿下がそう口になさったところで、国王陛下、王妃陛下から叱責を受けてしまわれる」

「は……い……?」

「でも、私に非があれば、殿下のお望みどおり、私との婚約は破棄できます。それには、あなたの努力と協力が必要なのです」


 そこで区切って、エルネスティーネはじっと正面の少女を見据えて、ゆっくり言い聞かせた。


「私は、明日からあなたに正妃教育の一環を、できる限りの力でお教えします。あなたはそれを学び、会得しなくてはなりません」

「正妃教育……」

「もちろん、正規の手順でやっていては間に合いません。ですから私なりの応用で、徹底的にやります。かなり厳しくさせていただきますから、時々、殿下に訴えなさい。私につらく当たられていると」

「そんなこと!」

「私があなたに厳しくなるのは事実です。あなたは嘘偽りを口にする必要はありません」


 ──この後、エルネスティーネは二時間かけてマリー=ルイシアを説得し続けた。

 もう家に帰りたいと泣くマリー=ルイシアに、「私に門限破りさせられたと、父上母上に泣きつきなさい」と迫っていたところを、帰宅した異母弟に見つかって制止されたが、マリー=ルイシアが「わかりました、努力致します」と誓約するまで譲らなかった。

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