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決断した令嬢。

「どうして婚約破棄されたいの? こっちから破棄してやればいいじゃないか、殿下の不貞による有責だよ。国王陛下だってお咎めにはならない」

「できるわけないでしょう。国王陛下に申し上げた時点で、殿下はマリー=ルイシア嬢と引き離されて、私と成婚するまで蟄居謹慎になるわ」


 それでは駄目だ。あくまでも、シグヴァルトとマリー=ルイシア嬢には結婚してもらいたい。


「どうして浮気されてるエルが、そこまで殿下に尽くすのかな」

「変な子ね、アスターは。殿下がそうお望みだからだと言ったでしょう」

「エル、そんなに殿下が好きなの?」

「いいえ、全然」

「どうして好きでもない男の為に、自分の人生棒に振るわけ!? 今までの努力も無駄に──」

「無駄にはならないわ」


 きっぱり断言した異母姉に、アスターは脱力した。前々から思っていたが、彼女は少しズレている。


「エル……王太子殿下に婚約破棄されたら、エルと結婚したいなんて人はいないよ? そんな人は、王太子殿下が見落としたエルの美点を見出したってことになっちゃうから」

「政治や経済や医療や社交、外交も学んだけれど、私、領地の農耕改革してみたいわ」

「駄目だ聞いてない」

「アスター。私は私なりに、婚約破棄された後のことは考えているの。だから、お願い。協力して?」

「…………はあい」


 何だかんだで、エルネスティーネには弱いのだ。父は、優等生なエルネスティーネが大層自慢で「この子が男だったなら……あ、いやいや、我が公爵家の跡取りはアスターだよ、ルフィーナ」が口癖だ。ちなみにルフィーナとはアスターの生母である。


「あれでは、王太子殿下に婚約破棄されても仕方ないと、周りが納得してくれる理由が欲しいの」

「けど、エルは今まで学園では優等生だし、社交界でも王妃様に可愛がっていただいてるし……身贔屓で言うけど、王太子殿下の婚約者として、欠点はないよ」

「ないなら作りなさい」


 無茶振りだ。


「えーと……じゃ、その子をいじめてみたら? 身分違いなのは気にしているみたいだから、そこを突いて……」

「身分で人を区別するのは、この王政国家では仕方ないけれど、だからといって蔑むのは間違っているでしょう!?」


 頑張って答えたのに怒られたアスターは、それでも姉に逆らわなかった。


「……授業に必要な持ち物を捨てたり、ドレスを破くとか」

「アスター、物は大切にしなさいとあれほど……!」

「…………エル。僕の提案、聞く気あるの?」

「……だって、そんな……人としておかしいわ、そんなこと。私、マリー=ルイシア嬢を傷つけたり困らせたいわけではないもの」


 ただ、シグヴァルトが婚約破棄しやすいよう、協力したいだけだ。


「マリー=ルイシアさんに嫌がらせしてるとか、いじめてるとか、傷つけようとしたとかの証拠がないと、婚約破棄されるのは、エルじゃなくて殿下だよ……」

「……な、なら、考え方を変えましょう、アスター。私より、マリー=ルイシア嬢が、王太子妃に相応しいと思われればいいということよね?」

「自分が十五年かけて得た知識その他を、半年足らずでマリーさんに会得しろというのは、なかなか残酷だよエル」

 溜息をついたアスターの言葉に、エルネスティーネはきらりと芽を輝かせた。

「……それよ」

「え?」

「そうよ、私が鬼教師になって、マリー=ルイシア嬢を王太子妃に相応しい女性にしてみせるわ!」

「身分はどうするの」

「確か、私のお母様はセーデルブラン侯爵位をお持ちだったわ。私が十八歳になれば継承する家名よ、その養女にするわ!」


 ──え、それじゃエル、王太子妃から王太子妃の養母になるんだけど。元々の婚約者の養女と結婚とかアリなの?


 そう思ったものの、アスターは妙案だと舞い上がっている姉の様子を見て、「話すのは後にしよう」と結論した。

 姉が即断即決の人だということは、完全に忘れていた。


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