チート能力を持って異世界に行ったけど、誰も興味を持ってくれないので無気力に暮らしてます【ショートショート】
ーー王都フリーゲルス、人通りの多い裏路地。
メーディアに連れられ、アリスは怪しげなテントの前に立っていた。
アリスは、強大なチート能力を持つ召喚賢者である。
でありながら、自分自身を誰にも理解されない孤独から、召喚されたこの異世界で何の行動も起こさずに無気力な生活を送っている。
「ねえ、メーディア。なんでわざわざこんなとこにきたの?」
アリスはそう言いながらローブの下のパーカーの袖を捲り、うんざりした顔をした。
メーディアと呼ばれた若い男性魔術師は、真面目な顔でテントを見つめている。
「アリス殿。貴殿を知るためだ。このテントの主『千里眼のババ』は、この世界のあらゆる真実を見通すという」
「ふん。どうせありきたりなことしか言わないでしょ」
アリスは鼻で笑った。
「いや、千里眼のババは、人の心の奥底にある、小さな願いを見抜く。そしてその小さな願いこそが、その人間の、この世界の真実だと、私は考えている」
「ふーん。よくわかんないけど、まあいいわ」
アリスとメーディアがテントに入ると、中にはランプの薄明かりの中、水晶玉を覗き込む白髪の老女がいた。
老女は水晶玉からアリスへと鋭い視線を移した。
「んんん、お前さんの未来は――」
老女は唐突に言った。
「お前さんの未来は『孤独』だ! 誰にも理解されず、その冷めた瞳は一生、世界を傍観し続けるだろう!」
「ーーえ、ああ……やっぱりね」
アリスは自嘲気味にため息をついた。
この世界に来てからというもの、アリスに話しかけてくるのは、彼女のチート能力に興味がある者……ではなく、
何故か彼女の胸ポケットに刺さった物にしか興味がない者ばかりだ。
例えば、先日訪ねてきた衛兵は
「インクを付けずに字を書き続けられる不思議な棒の技術についてお聞きしたい」
と言い、
ギルドマスターは
「その不思議な棒の入手方法をどうか教えて欲しい」
と言ってくる。
誰も、アリス自身の容姿や性格、さらにはそのチート能力にさえも興味を示さない。
老女は更に言った。
「だが、お前さんの隣のローブの若者! こやつが、その孤独を終わらせる鍵となろう。この男が、お前さんの『宝物』を見つけるだろう」
老女はそう言い、立ち上がってアリスの胸ポケットに刺さっているボールペンを指差した。
それは元の世界で買った、ごく普通のシンプルなボールペンだ。
「そしてその、魔力を帯びない棒だ!」
老女は興奮してアリスに言った。
「その棒こそ、お前さんの『宝物』を見つける鍵だ! 魔力も使わずにインクを尽きさせない、その奇跡の筆記具は、この世界に欠けている最も重要な要素を象徴している!」
しかし、アリスは老女の言葉を半信半疑で適当に受け流した。
一方、メーディアは老女の予言を真剣に受け止めた。そして何かに気づいたようである。
「アリス殿! わかったぞ! 衛兵やギルドマスターが貴殿に話しかけてきたのは、きっとこの棒が持つ真実の意味を探るためだったのだ!
そして我々がすべきことは、この魔力を使わない奇跡の棒が示す意味を、世界に広めることだ!」
メーディアはアリスの胸ポケットからボールペンをそっと取り出した。
「メーディア!ちょっと待って、意味がわからん! ちょっと何してんの! それただの……(ボールペンだってば)」
「アリス殿、貴殿はまだ、この奇跡の棒の意味に気づいていない!
これは、己の力も誇らずただ淡々と記録を残し続ける存在だ!
それこそが、この世界に足りない『謙虚』という名の素晴らしい力だ!
そしてアリス殿! 貴殿もまた同じ!
貴殿は、その強大なチート能力を誇るでもなく、見せびらかすでもなく、ただこの世界で静かな日々を送っている。
それは能力や、それぞれの身分に関係なく、人は、生き物は、すべての物は、存在するだけで尊いのだと身を持って示してくれている!」
メーディアの、わけのわからない、それでいて真剣な言葉に、アリスはもう笑うしかなかった。しかし何故か、笑っているうちに涙が出てきた。
ーーああ、そうか。
この世界は、私が持ってきた、ただのボールペンのことですら真剣に考え、大切な意味を見いだしてくれる。
そしてこの男は、人様の世界に来てまでふてくされて無気力で何もしようとしない冷めた私でさえ、存在価値があるのだと、誰よりも真剣に向かい合い、受け入れてくれるーー
アリスは、老女の言葉の意味を理解した。
そう、
アリスの孤独を終わらせる鍵とは、メーディアの馬鹿がつくほどの真っ直ぐな心。
そして『宝物』は……。
「……そっか」
アリスの冷めていた瞳の奥が潤んだ。
「アリス殿。良い笑顔だ。そうだそれだ! もしかして貴殿のその笑顔、その偽りのない感情こそが、貴殿がもつチート能力よりも大きな価値をもつ宝物なのではないか?」
メーディアは、真っ直ぐアリスの瞳を見てそう言った。
「ふふ、そうね」
そんな彼を見て、
アリスは穏やかな笑顔で、もう一度小さく笑った。
了




