昭和35年という年
ラジオからは、「安保反対」だの岸総理大臣がどうしたこうしたとかいう、ピリピリした政治の話題が流れてきていたが、真奈美にとっては、お乳を飲んで、寝て、汚した布オムツを替えてもらって、というのんびりした日々が続いていた。
ちなみに今上陛下である浩宮様と真奈美は学年違いの同い年だ。
あちらが二月生まれで一学年上になる。
「おーい中村君」という歌謡曲が流行った年に結婚したうちの両親は、「おーい中川君」と悪友たちにからかわれたらしい。おそれおおくも平成天皇ご夫婦もその同じ年に結婚されたので、それは子どもも同じ頃に産まれるわな。
ま、あちらは遠い東京とやらにお住まいになっている雲の上の存在なので、今後、接点は一切ない。
ところがうちの父さんが、あちらの大叔父様と接点を持ってしまった。
驚天動地の出来事だ。
父は、子どもができたことをきっかけに、近所の人に勧められて宗田市役所に勤めるようになった。
村一番の悪さ坊主に、よくその人は役所勤めなんていうお堅い仕事を勧めたものだ。
ただ昭和の頃の公務員の給料は雀の涙だったらしく、職員のなりてもいなかったんだろうね。
結婚する前は、ケンカをしてやめたり、怠い仕事が気に入らなくてやめたりと、いろんな職業を転々としていた父親だったが、さすがに一家の大黒柱となり、少しは自覚も出てきたらしい。
意外にも定年まで、この公務員生活は続くことになる。
スポーツという趣味に邁進していた父は、市役所の中でも異色な存在だったらしい。
けれど、国体などのスポーツ系の行事になると、そんな父の趣味が重宝される。
「お前、柿崎君と一緒に、冬季国体の開会式に行ってこい。高〇宮殿下がご臨席されるからな、失礼があってはならんぞ。スキー連盟の会長を知ってるんだろ? ちゃんと手伝ってくるんだぞ」
想像ではあるが、上司にこんなことを言われたであろう父は、張り切って国体の雑務のお手伝いをしていた。
ところがここで、トラブル発生だ。
高〇宮殿下が、ホテルにもどこにもいなくなってしまった。
真っ青になった国体の関係者一同。しかし、ここで先輩の柿崎さんが、ひらめいた。
「中川くん、殿下はお忍びで温泉に行ったんじゃないかな? なんか近くの温泉のことを気にされていたような気がする」
「それじゃあ、温泉宿を探しましょう!」
この二人のひらめきと機動力は凄かった。
ある温泉宿で殿下を見つけた二人に、殿下は観念してこうおっしゃったそうだ。
「しまった、もう見つかっちゃったか。こうなったら一緒に風呂に入ろう。これで一蓮托生だからな、他の奴には言うなよ」
殿下も殿下だが、この二人も二人だ。
なんと一緒に温泉につかって、知らん顔をして一緒に戻ってきたらしい。
……昭和の時代って、こんなやんちゃも許されていたんだね~。
<作者注>
この作品は、パラレルワールドの異世界の「創作」したお話です。
現実世界と似たような個人名、団体名があっても、同一のものではございません。