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昭和の家族 ⒉

真奈美のばあちゃんはツンデレさんだ。


大きな声を出したり、滅多に笑顔を見せなかったり、頑なに写真に写ることを拒否したりと、付き合いづらい面もあったが、真奈美にはずっと優しかった。


今も退院して座敷に寝かされている真奈美を、家族の目を盗んで見にきている。


「ほう、真奈美や、真奈ちゃんや」


……ばあちゃん、こんな優しい声が出せるんなら、いつもそうやって笑ってりゃいいのに。



祖母、久恵(ひさえ)は早くに母親を亡くし、酒飲みの父親に邪険にされて育った苦労人だ。

こういう生い立ちのせいか、いつも眉間にしわを寄せたような難しい顔をしている。

脳腫瘍で亡くなったので、この頃からもう頭痛が酷かったのかもしれないね。


祖母は病がちであった。けれど母親はいつも祖父の仕事の手伝いに駆り出されていたので、真奈美はこの祖母に育ててもらったようなものだ。



そして夕方になり、真奈美を襲いに来る姦しい叔母さんたちがやって来た。


叔母一号の良枝(よしえ)は、花も恥じらうお年頃。

看護婦養成学校を卒業し、真奈美が生まれたこの年には、たぶん保健所に勤め始めたころじゃなかったかな? インテリ眼鏡の気の強いお姉さんだ。


この叔母さん、とにかくクセが強い!

後年、学校の養護教員に転身して、真奈美のことを可愛がるあまりによく弄り回してくれた。

中学生の時、成績不振のため、叔母さんに「中川真奈美さん、お話があります。保健室に出頭しなさい」と、()()()()で呼び出された恥じは、忘れられない。

くそっ、今回は絶対にその呼び出しを回避してやる!



叔母二号の初子(はつこ)は、運動神経はいいがお勉強の方はいまひとつという、ちょっとぽっちゃり系の笑顔ヨシさんだ。


前世では、この時期の初子おばちゃんの様子を覚えていないが、真奈美の顔を覗き込んだ時にフワッとパンの匂いがしたので、もしかしたらもう高校を卒業して、パン屋さんにアルバイトに行っているのかもしれない。



この姦し姉妹が家にいたおかげで、真奈美たち姉妹が親を呼ぶ時の呼び方がおかしなことになっていく。


つまり真奈美にとっての「おじいちゃん、おばあちゃん」は、彼女たちにとっては、「おとうちゃん、おかあちゃん」になる。当然だよね。


ここで子どもらの混乱を危惧した大人たちによって、「それなら、最近流行っているパパ・ママ呼びにすればいいじゃん」となったらしい。


ここからがより混乱したカオス状態の始まりだ。


若夫婦を「パパ、ママ」と家族みんなで呼ぶ。

つまりおじいちゃんは、100歳で死ぬまで、長男の嫁である真奈美の母親のことを「ママ」と呼んでいた。(笑)

叔母ちゃんたち二人も義理の姉のことを最後まで「ママ」って言ってたんだよ。


よその人が聞いたら、おかしくね?



そして真奈美の祖母、つまりおばあちゃんは真奈美が小学校の一年生の時に亡くなってしまった。

ということは、家族の中の「おかあちゃん」枠が空いたことになる。

それにここら辺りは田舎だ。

真奈美や妹の敏子(としこ)にとって、都会風の「パパ・ママ」呼びはハードルが高い。

なんせ周りの友達の中で、そんな軟弱な呼び方をしている子なんて一人もいなかったのだ。


そこで呼び方が「パパとおかあちゃん」になり、小学校の高学年になる頃には、パパと呼ぶのも恥ずかしくなり、「父上とおかあちゃん」になってしまった。

パパと父上、どちらが恥ずかしいか真奈美の友達の中でも諸説あったが、とにかく時代の流れの中でそう言うことになってしまったのだ。


これには後日談がある。

パパは、パパ呼びが気に入っていたらしく、真奈美の子ども、パパにとっては孫に向かって、「おじいちゃんじゃなくて、パパと呼べ」とのたまわったのだ。


確かに40代でおじいちゃんと呼ばれたくないのはわかる。

しかし真奈美の子どもたちは混乱した。

実家の祖父母の呼び方が「中川のパパとおばあちゃん」?、そしてひいおじいちゃんは「中川のおじいちゃん」になる。

子どもたちが大人になってから聞いたのだが、おばあちゃんとおじいちゃんが夫婦で、パパはよくわからない同居人だと思っていたそうだ。(爆)


このパパさんはアクティブの権化で、テニスにスキーにゴルフはもとより、バレーボールの監督をしてみたり、マラソンに参加してみたりする。山には昇るし水泳もする。


その行く先々に「孫」を連れて行って「パパ」と呼ばせ、孫ではなく「うちの子ども」だとマジな顔をして紹介するものだから、混乱はどこまでも伝播していってしまった。

ある人は本当に勘違いして、お妾さんの隠し子なんじゃないかと心配してくださっていたらしい。

ホント、迷惑な爺さんだよ。



今世では「父さん、母さん」に統一する。

絶対に、するったらする!

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