隣のクラスは家庭科の授業だったらしい。え? うちのクラスは誰が美少女のクッキーをもらえるかで大騒ぎだよ。
放課後になると教室内が騒がしかった。
きっかけは女子。隣のクラスは午後の家庭科の授業でクッキーを作っているらしい。
戻ってきたら誰が隣のクラスのイケメンにクッキーをもらえるかで盛り上がっていた。
その会話を聞いていた男子が、俺らも隣のクラスの女子からもらえるんじゃね、と。
教室内はお祭り騒ぎ。
話の中心は男子リア充グループの運動系やチャラ男たち。意見は言わないまでも、クラスの中堅層からクラスに馴染めない少数派までも参加していた。つまりは男子全員だ。
女子も似たようなものだ。
男子たちはどんどん活気づいていき、隣のクラスの女子から誰が隣のクラスの美少女、『木島 くるみ』からもらえるかで論争していた。
男子グループと女子グループ、クラス全員がたった一人の男女のことで団結していた。
この活気を別のところで活かして欲しい。
男も女も自惚れすぎだろ。
スマホを見ていた俺は一人だけ教室から出た。
廊下で楽しそうに会話をする女子グループとすれ違う。手にはクッキーの入った小袋を持っていた。
これからうちのクラスはさらにうるさくなりそうだ。
帰る前に俺は屋上の方に向かって階段を上っていた。
スマホにメッセージが来て呼び出されたから。
屋上前の踊り場に着くと木島くるみがいた。
くるみは辺りをキョロキョロと見まわし、誰もいないことを確認する。
「はい、これ。美味しくできたから」
クッキーの入った小袋を渡される。
ここまでは予想通りだったのだが、急に抱き着いてきた。
「ん、どうした?」
なにも答えずくるみはぎゅっと強く抱きしめてから名残惜しそうに離れた。
「本当はずっと一緒にいたいけど見られたら面倒だし」
「抱き着いたところ見られたほうがまずいだろ」
「だって我慢できなかったんだもん」
頬をぷくっと膨らます。
くるみの頭を少し撫でる。
気持ちよさそうに頬を緩ませていた。もう少しこうしていたい気持ちはあるけど、これ以上は誰か来る可能性がある。
「そろそろ教室に戻らないと友達が心配するんじゃないのか」
「うん、そうかも」
「怪しまれないためにも俺はもう少しここにいるから気をつけて帰れよ」
「うんっ。今日も夜に電話するから」
「わかった」
くるみはにこっと可愛いく笑って階段を下りていった。
手作りクッキーをもらうだけでなく、抱きしめてもらい、可愛い笑顔も間近で見られる。
これが隠れ彼氏の特権である。
まあ隠れ彼氏なのでいつもイチャイチャはできないが。