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第1話 束の間の幸せは塵のごとく  5

 フレイムヴェールに来てから10日程経っただろうか。

 今日も今日とて商売を終えた後に酒場の前まで来たのだが……僕は店の前で不満を垂れた。


「……飽きた」

「? なにが?」


 店の前で突如呟く僕を振り返りながらアラミさんは首を傾げた。


「アラミさん、なんで毎回酒場なんですか? さすがに食べ飽きてきたんですけど…たまには違うものを食べたいんですが……」

「時間が遅いから酒場しか空いてないのよ。普通の店は危ないから夜開けないわよ。それに、この酒場はこの辺りでもメニューは豊富な方よ」

「……じゃあせめて他の酒場ないんですか? 流石に毎日連続で同じ場所で食べると飽きるっていうか……大体のメニュー食べちゃったし」

「じゃあ他の酒場にいく? 少し距離あるけど」

「一回ぐらい違うとこ行きましょ! ね! お願いします!」

「いいけど……結構歩くわよ?」

「それでもいいです! 行きましょう!」


 そう言って僕達は違う店に移動した。

 しかし僕はすぐに後悔することになる。


 何故なら歩けど歩けど店につかないからだ。かれこれ1時間ぐらい歩いてる。商売で疲れた足にくる距離だ。


 ヘロヘロになりながらアラミさんに尋ねる。


「アラミさん……ま、まだですか……?」

「もうすぐよ。……だから念を押したのに」


 ヘロヘロの僕をみて呆れながら言われてしまった。


「すいません……アラミさんの体力を見誤ってました…せいぜい20分ぐらいかと……」

「まぁ、旅をするのに体力は必要だから。あなたももう少し体力をつけた方がいいわね」


 アラミさんは余裕層に笑ってスタスタと進んでいく。

 欠片も僕に合わせようとしてくれないアラミさんに僕はくそぅと思いながら気合でついてくと、


「……ん?」

 アラミさんが突如足を止める。僕もその後ろに立ち止まり、何だろうとアラミさんの横方顔を出す。

 すると先方の交差点で一人の人影が横切るのが見えた。

 ローブを着ているのか、頭まで覆われていて誰なのかはまったくわからない。

「? どうしたんですか?」

 アラミさんを見上げてそう聞くと

「あれリリアンよ」


 アラミさんは何の疑いもなく言った。


「え、よくわかりましたね……」


 小さな街頭の明かりしかない夜の通りでなんでそんなのわかるんだ。


「こんな時間に一人でどうしたのかしら」


 何か予感を感じたのか、アラミさんは駆けて行った。


 えぇ……おいてかないでよ。僕だって夜道は怖いんですよ。

 僕は慌てて走ってアラミさんの後を追った。


 曲がり角を曲がり、アラミさんは追いつく前に声を掛ける。


「リリアン」

「!」


 ローブの人は驚いて振り返る。それは本当にリリアンさんだった。


「あ、アラミさん……」


 アラミさんに気付いたリリアンさんは、明かに何か焦っている様子だった。

 僕は少し遅れてアラミさんに追いつくと、


「リリアンさん! こんな時間になにしてるんですか?」

「……ルドくん……こ、こんばんは」


 いつもの優しい感じで挨拶してくれるが、明かに同様しているのは僕にでも分かった。


 アラミさんはその焦りに触れずに会話を進める。


「こんな時間にどうしたの? 1人で出歩くには危ないわよ」

「えっと……だ、大丈夫ですよ。その……彼の家に向かう所なので」


 こんな時間に家に呼ぶ彼やばくない? と、僕は思ったことを言う。


「こんな時間にですか? 男なら迎えに来るべきでしょ。なんで彼女を一人で……」


 僕がそう文句を垂れると、アラミさんも当然そう思っているのだろう。


「送るわ。その彼氏さんにも挨拶ぐらいしておいきたものね」


 そう提案をした。

 しかし、リリアンさんは、

「だ、大丈夫ですよ! そんなに遠くもないので!」


 慌てた様子で断った。しかしアラミさんは全く引かず、

「それこそ近いなら送るわよ」

「いえ……だ、大丈夫です」


 そう言ってもリリアンさんは困ったように断った。


 僕もアラミさんの言葉に乗っかり、

「そんな遠慮しないでくださいよ~。それこそここで出会ったのもなにかのえん———」

 そうリリアンさんの言ってくれた事を言おうとすると


「こないでください!!」


 リリアンさんが遮るように力強く言った。


「…………え」


 僕はそのセリフにショックをうけ固まった。


「あ……ご、ごめんなさい!」


 リリアンさんは固まった僕を見て申し訳なさそうに謝り、逃げるように走り去っていった。


「…………」


 僕はあまりにも突然の拒絶に唖然と立ち尽くした。


「な……なんでしょうか……僕は嫌われたんでしょうか……?」


 僕は固まったまま首だけアラミさんの方に向けて聞いた。


「なわけないでしょ……どう考えても彼女に何かあるわよ」


 アラミさんはショックを受けながら的外れな事をいう僕に呆れたように言った。


 ですよねぇ。内心そうわかってても、面と向かって言われるとショックなもんだ。


「どうしたんでしょうか……彼氏に会いに行くにしたって、そんな恰好には見えなかったですけど……」


 こんな夜中にあんな暗いローブ着て…怪しいの一言に尽きる。警備兵とかいたら止められそうだけど


「……跡を着けるわよ」


 アラミさんは少し考えると、突如そんなことを言いだした。


「……え?」


 なんて? 跡をつける? 断られたし、僕達今晩御飯に向かってたんじゃないの?


「何かに巻き込まれているか。はたまた何か企んでいるかしれないわよ」

「いやまぁ、そうかもしれないですけど……さすがにお腹空いたんですけど……警備兵に任せましょうよ」

「我慢しなさい」


 そういうと、アラミさんは有無を言わさず僕の腕を掴み、酒場には行かずにリリアンさんの後をつけることになった。


 僕の晩御飯……。





 …………人々が寝静まった深夜、フードを深く被り、辺りを警戒しながら外を出歩く1人の人影があった。

 月夜に照らされた暗がりの路地裏を通り街を抜け、草原の奥に小さな丘があり、そこには大きな屋敷が建っていた。


「…………」


 フードを被った人は、屋敷の扉をノックした。


 その音に扉が開くと、中からは明らかに悪そうな30代ぐらいの男が出てきた。


「……来たな」


 そういうと、男は乱暴に尋ねてきた人を家の中に引き入れた。


 フードが取れると、屋敷に訪れたのはリリアンだった。


「……こんな時間に呼び出して……な、なんですか?」


 男は質問に答えることなく階段を指差す。


「奥でガレスさんが待ってる。行け」


 階段の方をゆっくり見るリリアン。


「…………」


 緊張しながら階段を登り、扉の前まで行くと独りでに扉が開いた。


 驚いているとリリアンの身体は見えない何かに服を引っ張られる様に部屋の中へ入れられる。


 扉がしまるとリリアンはベットに投げ込まれる様に倒れ込んだ。


「きゃあ!」


 突然の事に驚いていると、そのままの勢いで勝手に飛んできた縄で後ろ手に縛られる。


「きゃあ! な、なんですかこれは!」


 リリアンは慌てて抵抗していると男の声が聞こえる。


「ようこそおいでくださいました、リリアンさん」


 ワザとらしい妙な紳士ぶった口ぶりで40ぐらいの髭を生やしたダンディだが、いかにも悪党の様な面持ちの男が暗闇から現れた。


「ガレスさん……」


 なんとか身体を起こし、声のする方を見てリリアンは誰か気付いた。


「いやぁ、こまったものですね。私の家から窃盗を働くとは」


 ガレスはやれやれと言いたげな顔で言った。


「せ、窃盗なんてしていません! 何かの言い掛かりです!」


 リリアンは暴れながら自分の無実を主張する。


「窃盗犯はみんなそういうんです。せっかく私は皆さんの夢のために資金援助をしているというのに……どうしてそんな酷いことができるんでしょうか」


「決してそんなことしていません! 信じて下さい!」


「何を言っても無駄なんですよ。ほら、証拠がちゃんとあるんですから」


 そういって、ガレスは一枚の紙を宙を操る様にベッドに倒れるリリアンの前に置いた。


「…………そ、そんな」


 リリアンはその紙を見て驚愕の顔で青ざめた。

 それは、国の証明印が押された紙であり、内容はリリアンを窃盗の罪人であることを認めたものだった。


「国がきみの罪を認めた。だから君がどれだけ足掻こうと罪から逃れることは出来ないんですよ」


「そんな……私なにもしてないのに……」


 リリアンはショックで項垂れ、目には涙を貯めていた。


「仕方ないことですよ。皆お金は欲しい。あなただっていつまでも借金していたくないですから、つい盗みたくなるのもわかります。あなたの夢は本物でしょう。だから応援してあげたい気持ちは今も変わっていません……。反省さえしてくれれば、この話はなかったことにしてもいいんですよ」

「……え?」

「あなたはまだ若い。反省し、罪を悔い改めて頂ければ、何もなかったことになります

「でも…そんな……私は……なにも……」

「だから、あなたの言葉にもはや意味がありません。その証拠が全てなのです」


 ガレスはリリアンが何を言おうと聞く耳を持たない。

 リリアンは、その様子に折れたように尋ねる。


「……罪を悔い改めるって……何をすればいいんですか……?」

「私の望むことをすればよいのですよ」

「…………?」


 リリアンは心底わからないと言った顔をした。

 金を持ち、



 ガレスは深くため息をつくと、先ほどまでの紳士ぶった表情が無くなり、

「だ~か~ら~……黙って素直にヤラせればいいんだよぉ!!」


 突如として豹変したガレスはリリアンに襲い掛かった。


「きゃあ!」


 ベッドに倒れるリリアンに馬乗りに乗ると、頭を手でベッドに押し付ける。


「い、いたっ! や、やめて下さい!!」


「わかんねぇかなぁ! 男がこんな夜中に女を呼び出してんだ! 望んでることなんて一つしかねぇだろ!!」


 そういって、押さえつけている反対の手でリリアンの服をつかむと、強引に破り、リリアンの豊満な胸が露わになる。


「いやああああああ!!!」


 リリアンは抵抗して叫ぶが、手を縛られ押さえつけられたその力に逃げることも抗うことも出来ない。


「ん~……いい乳だぁ……長い間機会をうかがっていたが……ようやくお前を堪能できるぜ……」



「やめて! やめて下さい! お願いします!!」


 泣き叫びながら、リリアンは必死に言うが、当然ガレスは聞くはずもなく、


「どんだけ叫ぼうが誰も助けには来ねぇよ! 安心しな…そのうちお前も楽しくなれるからよぉ……」


 ガレスは鼻を鳴らし興奮しながらゆっくりとリリアンの胸に手を伸ばしていく。


 それは、リリアンにとっては絶望の状況だったに違いない。しかし……


 ガシャーン!!!


 突如としてガラスが大きな音を立てて割れたる音が聞こえた。


 ガレスは大きな音に窓の方を見ると、そこには風に髪を靡かせたアラミが割れた窓から部屋の中に入り、堂々と立っていた。


 アラミさんニヤリと笑いながら男に言い放つ。

「悪い子は……月の変わりにお仕置きよ〜」

「そのセリフはまずいですよアラミさん……」

 窓の外のベランダに立ちながら、僕は呟くように言った。

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