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プロローグ はじまりはきみだった (中編)

 ……これは罰だ。女性の裸をマジマジと見る罰を受けたんだ。やっぱり悪いことは良くない。


 でも悪いことなのかな。僕は湖に顔を洗いに行っただけで、覗こうとしたわけじゃない。不可抗力なのになぜ罰をうけなきゃいけないんだ。




 ………っていうか、


「何回気絶してんだあああああ!!」


 僕は叫びながら身体を起こした。


「…………」


 目を覚ますと、ここはさっきも目を覚ました森のキャンプ地だった。


「……あれ?」


 全く同じ光景に驚いてると、横から女性の声が聞こえた。


「ようやく起きたわね」


 声の方を向くと、さっき湖で見た桜色の髪の女性が切り株の上に座って焚き火をしながら本を読んでいた。


 今回は普通に服も着ていた。普通の、ファンタジー物でよく見る村娘のような恰好だった。


 今回ばかりはさっき湖で見た女性である事を覚えている。


「大丈夫? あなた森で倒れていたのよ」


心配そうに小首を傾げながら聞いてくる。


その問いに、

「……さっき湖で会いました?」

と僕が聞き返すと、

「夢よ」

と食い気味にニッコリと笑って彼女は言った。


「……いや、でも――」

それでも否定しようとすると、

「夢よ」

と、言葉を遮る様に全く同じトーンで2回言われた。


「……はい」


 僕は言葉を飲み込んだ。これ以上は触れない方がよさそうだ。


 さっさと忘れて僕はキョロキョロと辺りを見渡しながら問いかけた。


「……ここはどこですか?」

「フレイムヴェール近くの森の中よ。今はちょうど森の中央あたりかしら」


 彼女は本をしまうと、説明しながら手際よく焚き火で沸かしていたポットに入ったお湯を準備してあった木製のコップに注ぎ、木のスプーンで混ぜるとコップを僕に差し出してきた。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます。……フレイムヴェールってなんですか?」


 コップを受け取りながら僕は聞き返した。


「なにって、街よ。火の国で1番大きい王都」


 彼女は座り直すと、自分のコップを持ち、端的に説明し終えるとゆっくりと何かを飲んだ。


「……火の国ですか」


 そう言われ、僕は不意に初めて意識を取り戻した時のことを思い出した。

…燃える剣に胸刺されてなかったけ。


「……あれ?」


慌てて片手で胸の辺りを触ってみるが、怪我をしてる様子もなければ着ている制服も破れてない。


「どうしたの?」


 僕の行動を見て彼女が尋ねてきた。


「……僕怪我してませんでしたか?」

「してなかったわよ。林道に1人で倒れていたわ。あなた2日も起きなかったのよ」

「……そうですか」


 凄い痛い思いをした様な気がしたけど気のせいなのか?


「……って、2日も寝てたんですか!?」


 遅れてその事実に気が付く。


「そうよ。病気でもなさそうだし、どうしてあんなところで倒れていたの?」

「いやぁ、それがわっかんないんですよねぇ」


 澱みなく言う僕に彼女は少し呆れた様子を見せる。


「……起きてそれだけ元気なら問題なさそうね。あなた名前は?」


 少し呆れながらも安堵した感じだった。心配してくれてたのだろうか。


「え、名前ですか?」


 本名は覚えてるけど、ここってどう考えても異世界だよなぁ……異世界から来たことは隠した方がいいのかなぁ。


「ルドっていいます」


 僕はとりあえずそう答えた。異世界っぽい名前がいいかなっていう適当な理由だ。


「私はアラミよ。よろしくね、ルド」


「……よろしくです。あ、助けてもらったのにお礼も言ってなくてすいません。ありがとうございました」

「いいわよそんなの。旅をしてると困ってる人には出会うものだから」


アラミさんは本当に大した事をしていなさそうに答えた。


「旅してるんですか?」


僕は彼女の言葉に疑問を投げながら、ようやく貰った飲み物を口にした。ほんのり甘くて爽やかな紅茶みたいで美味しい。


 彼女は僕の質問に対して澱むことなく答える。


「旅と言っても商売旅だけどね。各地の珍しい物を売ってるの。始めたのは最近だけど、昔は師匠と一緒に世界を回ったわ」


 どこか遠くを見て彼女は言った。


「師匠って言うのは商売の師匠ですか?」

「そうよ。この旅を始めたのもそれがきっかけなの」

「……凄いですね。馬一つで旅なんて。僕には考えられないですよ」


 座って休む馬を見て僕はつぶやく様に言った。


「普通そうよ。でも、旅は色んなものをみたり、いろんな人に出会ったり出来るから、それも楽しさの醍醐味よ」


 アラミさんはそういうと、コップを置き、立ち上がって馬に近づいてく。


「その代わり大変な事も多いけど、小さな村にいたら得られない物も沢山あるのよ。この子みたいにね」

そう言いながらアラミさんは馬を撫でながら仲良さそうに馬も顔を摺り寄せる。


「当然かもしれませんけど、その馬と仲良いんですね」

「この子はラマっていうの。師匠と旅をしてる時に出会って助けたのをキッカケに一緒に旅をしているの」



「へぇ~……」


 いい出会いをしている様だったが、どうも名前が気になって話が入ってこなかった。

ラマって、あのラマ? しかし見た目はどうみてもがっしりとした屈強な馬だ。


「……え、ラマ?」

聞かずにはいられなかった。

「ラマよ」

「……え? 馬じゃないんですか?」

「馬よ、馬のラマ。私の旅のお供よ」

至って真面目にアラミさんはそう答える。

「……この世界にラマという生物はいないんですか?」

「私はしらないわ」

「……そうですか……ラマねぇ」


 そう言いながらラマの目をみるとラマは元気にヒヒィーンと鳴いて答えた。どうやら馬で間違いはないらしい。


 ラマのことはなんだか納得がいかなかったが、僕はその自由さに羨ましさを感じつつも、大変そうだなぁと勝手に思っていた。


「あなたは? どこから来たの?」


 関心していると再び座ってコップの紅茶を飲みながらアラミさんが聞いてくる。


 どうこたえるべきか悩む質問が来た。とりあえず、僕は今自分の中にある仮定を確かめるための質問を返した。


「えっと……この世界って魔法使えます?」

「もちろん」


 彼女は当たり前すぎる質問に不思議そうな顔をした。

 うん、その反応から異世界で確定でいいだろう。


 僕はどう答えるのか考えたが、誤魔化すのも面倒だし素直に全部を答えることにした。


「僕のいた世界では魔法は使えないです。だから……つまりなんて言うか、異世界からきました」

「異世界?」

「知ってます? 地球って星なんですけど」

「知らないわ。私はこの世界以外行ったことないもの」

「僕も地球以外行ったことないですけど。異世界なんて、漫画とかラノベの物だと思ってました」

「? なにそれ」

「何でもないので気にしないでください。なので、僕は異世界から迷い込んで来ました」

「……ホントかしら。信じがたいわね」

淡々と言う僕にアラミさんは少し目を細めてじとーっとこっちをみてきた。

「ですよね。僕も未だに信じられないです」

「……でも確かにそうね。あなたのその服、どこの国の人にも当てはまらないのは確かね」

「似たような服装もないですか?」

「ファッションは詳しくないけど、旅路の中では見なかったわね。……けど、そうなると、あなたはどこに帰るの? 帰れるの?」

「……どうしましょうねぇ。異世界に帰る方法なんて僕知らないですし、この世界には故郷も無いですし…」


 そう言いながらも、せっかく来た異世界から帰りたいなんて思わないけど。

しかしこのまま森にいても大変なだけで何も出来ない。せめて人のいる場所に行きたい。


「……どうせだったらあなた、アラミさんの旅に同行させてくれるとありがたいな〜……なんて……あはは」


 探る様に笑って誤魔化しながら思い付きでそんなことを言ってみる。

 こんなところに置いてかれても困るし、せめて街までは連れて行って欲しい。


「いいわよ」


 僕の心配とは裏腹に、アラミさんはあっさりとそう答えた。


「……え? マジですか?」


 僕はあまりにもあっさりと答えられて逆に疑った。


「ちょうど旅の道連れも欲しかったから。1人もいいけど、少し寂しいものね」


そう言いながら何でもなさそうに紅茶を飲みながらアラミさんは答える。


「……えっと……自分で言っといてなんなんですが……いいんですか? こんな得体も知れない男と一緒なんて……」

「得体が知れなくても、あなたが悪人かどうかは見ればわかるわ」

「ホントですか? めっちゃ壮大な嘘付いてるかも知れないですよ」

「大丈夫よ。もしなにかあってもそれなりに護身術は身に付けてるから」


 確かに、一人旅してたら危ない目に遭うこともあるだろう。運動すら並程度の僕がどうこう出来るわけもない。


 ……しないけどさ。


「……じゃあ、よろしくお願いします、アラミさん」

「よろしくね。ルド」


 彼女は微笑みながら僕の名前を呼んだ。

正確には本当の名前じゃないけど、なんだか美少女に名前を呼ばれるのはむず痒かった。


 こうして僕は、アラミさんの商人旅についていくことになった。





 僕が元気そうだと言うことで早速アラミさんの目的地であるフレイムヴェールへと向かうため、キャンプの拠点を片付け、ラマの背中に荷物を乗せるとアラミさんは颯爽と馬に跨った。


「さ、いくわよ」

 アラミさんは馬に跨った状態で、馬の隣に立ち尽くす僕に乗れと言わんばかりの感じで言ってくる。


「……どこに乗れば?」

「? 前でも後ろでも、どっちでもいいわよ」

「いや、わかんないです。馬乗ったことないんで」

「……乗ったことないの?」

「車しかないですよ。精々自転車ぐらいですかね」

「そう……しょうがないわね。ほら」


 そう言ってアラミさんは手を差し出してくる。


「……?」


 引っ張って乗せるつもり? 乗馬しながら片手で持ち上げるなんて無理でしょうよ。


 そう思いながらアラミさんの手を掴むと、身体全身がグイッと引っ張られる様に持ち上がり、空中で一回転すると、アラミさんの前にストンと座った。


 ……すんごい力だなぁ。


「これで落ちないでしょ?」


 アラミさんはそう言って、僕を挟むように手綱を持つ。


「……いやあのアラミさん……背中……」


 主張は激しくないが確かにあるその柔らかな胸の膨らみが僕の背中にとっても密着してるんですが? 柔らかいものが背中に当たってるんですが……?


「なに?」


 しかしアラミさんはまったく気にしていない様子だ。


「く、くっつきすぎじゃないですかね?」

「乗った事ないんでしょう? くっついてないと落ちるわよ」


 そう言ってアラミさんは馬をゆっくりと進めた。


 ……まぁアラミさんがいいならいいかと思いながら、色んな意味でドキドキしたまま僕たちは目的地へと向かった。

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