第七話 うっかりな商人 【シリウス視点】
「おい、あと1つはどうする気だ?」
「うーん……アルを巻き込みます」
「はぁ!?本気か!?」
「ええ、彼はユフィの護衛騎士になる人間ですからね」
「あの堅物無言男が言う事きくのか?」
「聞きますよ多分、ユフィのお願いと言えばね」
「本当かよ」
シリウスは疑わしいと視線をルーディアスに向ける。
数ヵ月前、フレイムグラス家当主と王弟となんと国王の推薦状まで持って王立ミレニアム学園に途中編入してきたのは銀髪で赤目の整った容姿をした無表情なアルフレッド・ミルグレア。
没落した貴族の生き乗り、父親の友人に面倒見てもらいこれまで何とか生きてきたと言う。
保護者となった父親の友人が病に侵されてから随分と貧しい生活をしていたようだが、何があってフレイムグラス家と関わり合いになったかは分からないがユフィーリアの護衛騎士になるべく色々と学ぶ為に編入してきた。
貧民になっていたとは言え、元貴族で優秀だったのだろう、入学して最初に受けた授業の合間の小テストの成績はそこそこの中間点位だったが、それ以降の本テストは全て三位を取る頭脳を持っていた。
1位がシリウス2位がルーディアス3位がアルフレッドと言うのが結果のテンプレで、もしかしたら王子であるシリウスをたてる為に調整しているのだとしたらルーディアスもアルフレッドもかなりの優秀者と言える。
シリウスをたたせる為に手加減していると言うのならそんな手加減はいらないと声を大にして言いたい所だが二人共問えば「そんなことは無い」と言うのは聞かずともわかるだけにシリウスは常に実力でそうあると胸を張る為に日々勉学に勤しみ手を抜いた事はない。
アルフレッドは護衛騎士を目指すと言うだけあって、剣術の授業に関しては確実に学園1だと言える程の逸材だった。
既に王宮騎士団の騎士達に引けを取らない強さを持っている。
そんなアルフレッドは入学してからずっと1人で勉強も鍛錬もしている。
誰かに話しかけられても無視する事はないが必要最低限の会話と返答しかしない。
一匹狼まさにソレだった。
そんな男が規則を破るかもしれない外出に付き合うとはシリウスには到底思えなかった。
シリウスの懸念も知らずにルーディスはすぐに部屋から出て行った。
まだ起きるには早い時間だしどうせ無駄足になるだろうと思っていたのに、ルーディアスはちゃんとアルフレッドを連れて部屋に戻ってきた。
本当に来たとこれにはシルウスも驚いた。
「アル、簡単に説明したけど大丈夫そう?」
「……ええ、行けます。誰にも見つからずに外に出るなら商人出入り口が良いかと」
「あれ?そっち?僕は使用人口かと思ったけど」
「あそこは稀にエヴァンス教員がサボリで使っているのでおすすめしません」
「そうなの?知らなかった」
「予定時刻に集合でよろしいですか?」
「そうだね」
「わかりました」
目の前で普通に会話を始めた二人を見てシリウスは唖然としていた。
おいおい誰だアレ?である。
入学してから一度も誰かと普通に会話をしている所を見せた事がないアルフレッドが普通に喋っていた。
お前会話できるじゃんと唯々唖然とした。
「一応お忍びだからさ、王子の護衛を頼みたいんだ。僕だけじゃ安心できないから」
「承知しました。練習がてらやってみます」
「うん、お願いね」
「ちょーーーーーーっと待て、何だ練習ってッ!」
「え?ユフィーリアお嬢様の護衛をする時の練習ですけど?」
「おまッ!?お、俺はまがりなりにも王子だぞッ」
「え?……ああ、すみません?」
「何で疑問系なんだコラッ」
「まあまあ落ち着いてシス」
「どうもすみませんでしたシリウス第一王子殿下」
「正式名称で言うなッ」
「はぁ……では何と呼べば?」
アルフレッドにコイツクソ面倒みたいな顔(シリウスの勝手な解釈)をされたシリウスは何なんだコイツと拳を強く握りしめた。
コレの何処が無口だ。人形みたいなヤツだと言った奴連れて来い!だった。
「シスでいい、俺もお前をアルと呼ぶッ」
「え?………はぁ、まあ」
「不満そうな顔するなッ」
不満を隠そうともせず、更にはまさかの溜息混じりの承諾。
王子であるシリウスが家族とルーディアス以外には出してない愛称呼びを許可してやっていると言うのにこの態度である。
アルフレッドはそんなシリウスを気にした様子も無く一礼すると朝の予習があるのでと早々に部屋から出て行った。
何なんだアイツはッとシリウスは思わず叫んだ。
それを見て楽しそうにルーディアスは笑う。
「基本的にユフィに関する事なら彼は結構表情豊かだから」
「詐欺だろアレは」
「ふふ、まあこれで後は夕方になるのを待つだけだね」
その日の馬術の授業は王子命令で急遽魔法学に変わったのだが、変わりに他のクラスが馬術の授業を行い事故は起きてしまったとシリウスの元に知らせが来たのは昼食の時だった。
突然馬が暴れ出して馬に乗っていたBクラスの男子生徒は落馬して馬に足を踏まれ酷いケガをしたそうだ。
駆け付けた治療師では完全に回復するには至らず、足には後遺症が残り不自由になってしまったそうだ。
「…………申し訳ないな」
「なんな顔をするな、俺は一応授業変更の理由として鉢が飛び回っている中で馬の授業は危険だと進言したんだ、それでも授業を決行した教師に問題があるだけで、あれ以上は俺達にはどうしようもない事だ」
「………そう、ですね」
午後の授業を終えて自室に戻ると目立たない服に着替えて窓から外に出て木を伝って下に降りると予定の場所へ向かう。
事故の話を聞いてから少し思い悩んだ様子だったルーディアスを心配していたがどうやら気持ちを切り替えられたようでシリウスは安心した。
人に見つからないように待ち合わせ場所に行けば既にアルフレッドが同じく目立たない恰好でそこにいた。
「首尾は?」
「今のところ問題ないです」
「そう。よし、行こうか」
大まかな時間しか聞いていない為に早くめに行動する方が良いだろうと態々、部屋にいるように細工して抜け出して来た。本当ならシリウスを護衛する者達を騙すことは許されないのだがこの度は仕方ない言い訳しながらユフィーリアから聞いた商人を探す。
出来るだけ目立たないように変装と魔法で髪色と瞳の色を変えている為に街で人とすれ違っても誰にも王子だと気づかれる事がないことに安堵しなら捜索を続ける。
該当する人物は見つからず予知夢も100発100中とまではいかないのだろう、今回はバスレだったのではとシリウスは思うがルーディアスとアルフレッドは確実にいると信じているようでジッと探していた。
日も暮れてきて周囲の露天商が徐々に店仕舞いを始めた。
流石に予知夢ではなくユフィーリアが見たただの夢だったのだろうとシリウスが二人にそろそろ戻ろうと声をかけようとした時だった。
「いた、多分アレですね」
「何処?………ああ、それっぽいね」
「マジかよ……」
アルフレッドが指さした方を見ればたった今慌てた様子で商人が走って来て周囲が店を片付けていると言うのに商品を並べ始めた。
本当に当たったと焦るシリウスをよそにルーディアスとアルフレッドは商人の元へと向かって歩き出したのでシリウスも慌ててその後を追う。
「すみません、見てもいいですか?」
「おお、是非是非、買っていただけるならお安くします!」
何気なさを装いながらルーディアスは声をかけて並べられている商品を見る。
色々とあるがコレと言って良いものはない。
だがとそこに置かれた装飾品の中に目を引く指輪と腕輪があった。
コレだとルーディアスはその二つを手に取った。
「これ、綺麗ですね………いくらですか?」
「買ってくれるんですか!?なら1つ銀貨1枚でいいよ!」
「うわぁ、なら二つとも下さい!」
ルーディアスは二つを買うと他を見ながら食用品が並べられた中にある籠の中に入った玉子を見た。
ユフィーリアから聞いていたような卵はないようだと思っていれば隣にいたアルフレッドが既に聞いていた特徴の色の線が入った卵3つを確保していたのを見て流石と苦笑する。
「小腹が空いたんでコレ下さい」
「その玉子は新鮮で美味いよ。1つ銅貨3枚だけど買ってくれるのが有難いから1つ銅貨2枚でいいよッ!」
「ありがとうございます」
お目当ての物を買って三人は早々にその場を離れ、出来るだけ不信に思われないように急いでこっそりと寮まで戻ると閉められた裏門の傍にある木に登ると身体強化をして敷地内へと塀を飛び越えて中に入る。
一度別れて自室に戻ると改めてアルフレッドがシリウス達の部屋へとやってきた。
部屋に入るとフカフカの絨毯の敷かれた床に買って来た物を並べてそれぞれ座る。
「ユフィが言ってたのはコレで全部だね」
「本当にあったな」
「言われていた線の入った卵は3つでしたよね?」
「うん」
アルフレッドが置いた卵を見れば確かにユフィの言っていた色の入った線がくっきりと入っていた。
ジッとそれをルーディアスが見るが、そもそも聖獣の卵なんて初めて見る為にどれが何の卵なのか判断がつかない。
「恨みっこ無し、直感で選ぼう。被ったら相談ってことで」
「………俺も選んでいいんですか?」
「当たり前でしょ?アルはユフィの護衛騎士になるんでしょ?だったら、これが本当に聖獣の卵なら持ってて損はしないよ」
「………わかりました」
「んじゃあ、決めるか」
シリウスの掛け声と共に一斉に三人は自分の目に留まった卵を指さした。
シリウスは赤色の線の入った卵、ルーディアスは青色の線の入った卵、アルフレッドは黒色の線の入った卵を選んだ。
見事に選んだ卵がそれぞれ別れた事に三人は思わず声を出して笑った。
「見事に別れたね」
「だなッ」
「ちょっと笑えた」
事前に準備良く書庫から聖獣に関する本を持ってきてくれていたアルフレッドの用意周到さに感謝しながら調べてみれば聖獣の卵は本来は親の魔力を分け与えられて生まれるようだ。そして過去に聖獣を人が育てた事例もある事が書かれていた。
毎日一定の魔力を与える事で聖獣は羽化するらしい。
羽化までにかかる期限は聖獣の種類によって異なる事ようだ。
そこまでの情報はあったが、どんな種類があるのかは情報が少なく未知数らしく。種類についての情報を得る事は出来なかった。
「とりあえず、バレないように気を付けないとだな」
「そうだね」
「アルは大丈夫か?誰と相部屋だ?」
「途中編入だからか、同室の人間いない。1人で使わせてもらってる」
「本当かよ、いいな」
「それならバレる心配は少ないね。とにかく注意して育てよう」
「「ああ」」
そう言ってアルフレッドは卵を抱えて部屋を後にした。
残された部屋の中でルーディアスは雷の指輪をシリウスへと差し出した。
「いいのか?」
「うん。はい」
「は?何だその手は?」
「え?何って銀貨3枚」
「おい、金取るのかよッ!ってか1枚だっただろうがッ!!」
「あれ?聞いてたか」
「当たり前だろうが!隣にいたんだから」
「ふふふ、まあ冗談はおいといて、本当にいいですよ。コレ、本物だよ」
「だろうな、見ただけで分かる。これを銀貨2枚で売る気だったとかあの商人才能なさすぎるだろ。ってかどうやって入手したんだか」
「確かに」
ユフィーリアは偉大だと良い買い物が出来た事に二人は笑いながらそれぞれ手に持つ卵にそっと最初の魔力を送るのだった。




