第六話 義兄と第1王子 【シリウス視点】
2024.03.25
早朝、窓の外が少し明るくなる位のまだ寮の生徒達が寝ているそんな時間だった。
ルーディアスと同室であるイシュガレリア王国第一王子シリウス・ル・ガレアも同様にベッドで眠っていたのだが、ルーディアスの机の上に置かれている魔水晶が突然キンッと音を鳴らすとそこからユフィーリアの叫び声に似た悲痛なルーディアスを呼ぶ声が室内に響くとルーディアスとシリウスは粗同時に飛び起きた。
とても寝起きとは思えない動きでルーディアスは机へと向かい、シリウスは何事だとそんなルーディアスを見た。
「ユフィッ、どうしたの!?何があった!?怖い夢でもみたいのかい!?」
「!?」
ルーディアスのその言葉にハッとしたようにシリウスもすぐに机の傍に行く。
余程慌てて操作したのか映像投影可能な魔水晶で普段は互いに映像を映して会話をしているが今はユフィーリアの姿は無く声だけだ。
フレイムグラス家の隠し姫。
公の場に一切姿を出さない為に社交界や貴族達の間ではそう呼ばれるルーディアスの妹ユフィーリアは吉兆を知らせる不思議な夢を見ることは国王や叔父である王弟からも話は聞いていた。ルーディアスからも聞いていて、事前にもしかしたら唐突に朝や夜にユフィーリアから魔通信が入るかもしれないと言う旨は聞いていたがそんな事はこれまで無かった為、油断していた。
面会もした事がない。
国王も会いたいと言ったが、下級貴族である1人の少女に国王自ら謁見を望むなんて事は隠すべき存在を露見させる事に繋がるとして面会は出来ていない。
ユフィーリアを道具にするつもりはないと国王に対してハッキリとそう言ったイーサンの顔は、忠臣でありながらもしっかりとした父親の顔だった。
協力は惜しまないが娘を道具には絶対にさせないと言う強い意志が感じられる瞳。
それはルーディアスも同様だった。
守るべき存在。
ユフィーリアがこれまで予知した三度のスタンピードの予知夢のお陰で多くの人間が巣くわれたのは事実だ。シリウス自身も大切な母親である王妃の命を救ってもらった。
会いたいと言う気持ちはあったがそれを望む事で逆に幼い少女を危険な目に遭わせる訳にはいかずこれまでは面会を希望していない。ルーディアスもシリウスとの関係をユフィーリアには伝えていないと聞いていたので普段魔通信の時は王子でありながらも部屋を出ていた。
本音を言えば会って直接お礼を言いたかった、それ程、シリウスはユフィーリアに感謝していた。
部屋から出ようかと思ったが今は姿を映し出さない通信、ならば問題なかいかとルーディアスの傍に行く。
「ユフィッ、どうしたの?落ち着いてッ」
『にいさまッ、あ、あの、にいさまはきょうおうまさんのおべんきょうをするですか!?』
「ッ!?」
ユフィーリアの切羽詰まったようなその言葉にシリウスは思わずギョッとして息を飲んだ。
本来は剣術の授業だったのが、担当教官の身内に不幸があったようで昨晩遅くに乗馬の授業に切り替わると就寝前の部屋に教員達が知らせに来た急な変更だった。
学園外の人間が知る筈のない情報。
「うん、そうだよ」
『白いお馬には乗らないでくださいッ!!えっとあのッ』
「落ち着いてユフィ、大丈夫、ちゃんと聞くからゆっくり話してごらん」
ルーディアスは慣れた様子で優しくユフィーリアに話しかける。
ユフィーリアが舌足らずになったり言葉を詰まらせたりと激しく混乱しているのが伝わってくる。
何かを必死に伝えようしていた。
「ユフィ、白いお馬さんはどうして駄目なんだい?」
『ハチさんがッ、おうまさんのおしりをさしちゃってそれでおうまさんがッ、あ、あばれてッおに、おにいさまがひどいけがをッ』
「大丈夫、ユフィ、大丈夫だよ。ちゃんとユフィの言う通りにするから、だからゆっくり息を吸って吐いてして気持ちを落ち着けて、ね?」
自分の不幸を予知されていると言うのにルーディアスの口調は変わらすその声はとても穏やかだ。
どちらかと言うと、過呼吸のように息遣いが荒いユフィーリアを心配している。
ゴホゴホッと小さな咳が聞こえてくるとルーディアスは拳を強く握りしめながらそれでも気持ちを落ち着けながら出来るだけ冷静に優しく何度もユフィーリアに声をかけ続けた。
暫くそれを繰り返すと漸く荒かった呼吸も落ち着き出ていた咳も止まったようでルーディアスもシリウスも安堵する。
気持ちが落ち着くとポツポツとユフィーリアは夢で見たと言う内容を詳しく語り始めた。
その余りに具体的な内容にシリウスは驚愕した。
確かに話には聞いていたが予知夢とはこれ程までに具体的なのかと畏怖する。
これまでシリウスも吉兆を占う者を何度か見た事がある。
本物も偽物も。
だがどれほど優れて有名な占い師であっても、ユフィーリア程正確に話す者はいなかった。
「わかったよ、白いお馬さんに僕は乗らないし他の人も乗らないようにするよ。ありがとうユフィ知らせてくれて」
『いいえ………あの……おにいさま』
「何だい?」
『おにいさまは………おうじさまとしんゆうなのですか?』
「ッ」
ユフィーリアの言葉に思わず声が出そうになってシリウスは慌てて自らの口を手で押さえた。
何もかも見通されているそんな気すらして怖くなった。
「うん、そうなんだ」
『しょうらい……お傍にいたいのですか?』
「………そうだね、そうなれたらと……思っているよ」
ルーディアスの言葉にバッと思わず視線を向けた。
普段そう言う話はルーディアスとはしない。
出会って少し経った頃に側近にと望みそれを口にした。
ルーディアスも了承してくれたがそれ以来改めてそれを確認した事はなかった。
何時も一緒だった為にそうなると思っていたが改めてそれを本人の口から聞けて嬉しくない筈が無く口元が緩むのを手で隠した。
『まだ寝ていたのでしょ?ごめんなさい』
「いいんだよユフィ!言ったでしょ?何時でもいいって、何かあったら何時でも声かけて?その方が僕は嬉しいから」
『けど』
「いいんだよ。傍にいてやれないんだ、せめて話くらい聞きたい。怖いことや辛いこと、悲しいことも話せば楽になるでしょ?あ、もちろんそれだけじゃなくて、楽しいことも嬉しいことも大歓迎だよ」
『うれしいお話……それなら』
「ん?」
『今日のゆうぐれときにね、うっかりさんな商人さんがおにいさまのがっこうのちかくのいちばにくるの』
「うっかりな商人さん?」
『です。まわりがおみせをしめてしまう時間にきてね、ちょっとだけでもってお店をあけるんだけどお客さんがこなくてそのまま帰っちゃうの』
「それはうっかりさんだね。だけど、それが嬉しい話なのかい?」
『はい!とってもすばらしいものがうってるの』
「すばらしいもの?」
『かみなりの石がついた指輪とこおりの石がはいった腕輪』
「!?」
雷の魔石も氷の魔石も両方ともこの世界では希少で数ある鉱山から極々稀に採れるものだ。
魔道具にして使えるようにするのもかなり難しいと言われている。
中々市場に出回らず出ても平民や普通の冒険者には手が出ない高額品だ。
製作されたものは少なく、基本的にダンジョンモンスタードロップ品が殆どだ。
ドロップする事もかなり稀でそれを落とすモンスターもかなり高レベルモンスターになることが市場に出回らない理由だ。
それが露天で売られると言う事実にルーディアスもシリウスも衝撃を受ける。
『とってもおやすの、かちを知らないんだって』
「そ、それは凄いねッ」
『けどね、もっとすごいの』
「これ以上にかい?」
『ですです、たべちゃう用にうってる玉子の中に赤い線が入った卵と水色の線が入った卵と黒い線が入った卵があるの』
「玉子?美味しいのかな?」
『その卵ね、せいじゅうさんの卵なんだって』
「は?」
『知らないで割ってたべちゃうらしいの』
流石にそれにはルーディアスもシリウスも絶句した。
聖獣の卵なんて最早御伽噺に出てくるような代物だ。
そんなモノを連れた人間は今の所ルブリア王国の王位だ。
その聖獣だって代々受け継がれているものだと言う。
二人が固まっていることも知らないユフィーリアはどうやら部屋から話し声が聞こえた為かメイドが様子を見に来たようで明るく挨拶している声が聞こえてきた。
ユフィーリアは再度白い馬のことを注意すると通信を終わらせた。
魔水晶の光が消えるとそこで漸くルーディアスはホッと安堵したようだった。
「王子」
「ああ、皆までいうな。白い馬どころか今日の馬術の授業自体を変更させる」
「お願いします」
「それにしても、ああも正確なのだな………驚いた……と言うか正直恐ろしくなった」
「恐ろしい?ユフィが?」
思わず口から出てしまった失言にシリウスはハッとルーディアスを見る。
ユフィーリアを今はまだ主として思うシリウスよりも大事にしていて命すら差し出せる程溺愛しているルーディアスの地雷を自分は思いっきり踏んでしまった発言をした自覚があったシリウスは慌てて謝罪する。
「悪かったルディ」
「………次は許さない」
「ああ」
「………僕達はそれを聞いて恐ろしいと思うだけ幸せなんです」
「それは、どう言う意味だ?」
「ユフィはそれを夢で見ているんです」
「?」
ルーディアスの言わんとする事が分からない。
怪訝そうな視線を向ければルーディアスは深刻な顔で未だ魔水晶を見ながらゆっくりと言葉を続けた。
「もしかしたらユフィは………その予知夢の中でユフィではない誰かになって体感しているのではないか?と最近思うのです」
「は?」
「ユフィは予知夢の話をする時、まるで人形のような感情の無い目をするんです。それはまるで一度死んでしまった経験があるような」
「!?」
「きっと、今回の予知夢で言うなら、馬に乗って落馬して大けがをした僕になっていたんだと思います」
「そんなッ」
そうだとしたらとシリウスは絶句する。
予知する悲劇を当事者となって体感ている?そんな事は耐えられるのかと筆舌に尽くし難い。
まだ六歳の少女が夢とは言え、何度も死を経験して正気でいられるのだろうか?と考えてシリウスは先程のルーディアスが言った『人形のような目をする』という言葉を思い出し、否もう正気でいられない時もあるのだと気が付く。
「ユフィが取り乱す時は決まって、誰かの【死】が関わっているんです」
「………」
「今回で言うなら恐らく、怪我が原因で私の身に何かが起きるのでしょう」
「やめろッ」
「王子?」
「そんな事は考えたくも無いッ、あと二人の時は『王子』と言うなと何時も言っているだろうッ」
「ふふ、そうでしたね」
「是が非でも授業を変えるように手を回す!」
「感謝します………所で、夕方の市場か…………」
「ん?ああ、さっきの商人の話か?」
「ええ、他の店が閉まる時間と言えば………門限ギリギリですね」
「………お前、行く気だろ」
「ええ、指輪と腕輪は本物なら絶対に手に入れたいですが、それよりも……」
「聖獣の卵、だったか?」
「ええ、それが気になります」
指輪て腕輪が本物ならば一財築ける価値があるものだ。
聖獣の卵に至っては本物なら下手をすれば国が動くレベルの案件だ。
上手く羽化させられて育ち主従契約出来れば確実に主である人間は強くなる。
どんな聖獣が生まれてくるかにもよるが絶対に損する事はないだろう。
「3つあるみたいで良かったです」
「ん?何でだ?」
「え?だって1つだけだとシスが気の毒ですから」
「はぁ!?おまっ!自分用かよッ!!」
「当たり前じゃないですか!!ユフィが私にくれた情報ですよ!?何でそれをシスに渡すんですか、あり得ない」
先程感動した自分をぶん殴りたいとシリウスは口元を引きつらせる。
それはとても主人であり親友である人間に対する態度ではない。
身分をどうの言いたくはないが自分は仮にも王子でありルーディアスは側近候補なのにと思うがそれを口にする事は出来ず歯痒くなる。
まあ3つあって1つはくれると言うのだから良しとしようと自分に言い聞かせた。




