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第三話 僕の大切な妹  【ルーディアス視点】

2024.03.24

 予定よりも早く寮に帰宅して着替えをしていると寮の管理人から呼び出されたルーディアスは何事だと急いで制服から室内着に着替えると自室を出てロビーへと向かった。

 ロビーに行けばそこには管理人と自分の家がよく取引している商会長がそこにいた。

 驚いてすぐに階段を下りた。


 「ケイムさん」

 「ルーディアス様お久しぶりです」

 「わざわざ学園の寮までどうしたんですか?」

 「旦那様と奥様からお届け物があり持ってまいりました」

 「父様と母様から?しかもケイムさん自らなんて、何だろう?」


 商会長のケイムは部屋まで運ぶと言いルーディアスと共にルーディアスの部屋まで行くと部屋の中に入り持っていたマジックバックから大きな箱をいくつも取り出した。

 ルーディアスがえ?え?と驚いている間に大きな木箱は7箱にもなった。大荷物である。


 「えっと、あのコレは一体?」

 「全部ルーディアス様の物ですよ。旦那様達に頼まれて現在使っている物を全て良いモノに変えて不要な荷物は引き取ります。ルーディアス様、確認宜しくお願いします」

 「あ、あの、すいません、いまいち状況が飲み込めてなくて」

 「天使様が奇跡を起こされたのですよ」

 「ユフィが?」


 天使と言われてすぐに妹の名前を口にする辺りがイーサン同様にユフィーリアラブなルーディアスだった。

 驚きながらもケイムから渡されたイーサンからの手紙を受け取り中身を確認して驚いてケイムを見る。


 「読んだらすぐに手紙は処分ですよルーディアス様」

 「こ、これ、本当なんですか!?」

 「本当です」

 「嘘みたいだ」

 「我々も最初はたまげましたよ!」


 山と森から出た宝は膨大な利益となった。

 簡単な説明だけでも優秀なルーディアスの頭ではいくらかの計算で色々金額がはじき出されていた。

 いずれは自分が後を継いで運営していくからこそ領地に関する勉強はしていた。

 かなり正確に領地と我が家の状況を把握しているからこそ、それがどれだけ凄い事か正確に理解出来た。

 父親同様に自分も将来頭を悩ませる事になる領地運営を少しでも改善する方法がないか密かに模索していた所にこの情報である。


 ルーデイアスは未だに夢でも見ているような気分のまま箱を開けた。

 そこには新品の服や教材が山程入っていた。

 両親のお古の物や父親のお古の剣をこれまで使っていたのだが、箱の中には最新の物がルーディアスに合わせてあり、中には当然、ルーディアスの専用の剣と練習用の剣と木剣が予備まできっちり揃えて入っていた。

 練習着に靴までも何着も入っている。


 「こんなに……すごい」


 驚いて上手く言葉にならなかった。

 欲しいと思っていたものが全てそこにあったのだ。

 これはやっぱり夢なのではと結構本気で思っていた。


 「ユフィーリアお嬢様のたってのお願いらしいです」

 「ユフィの?」

 「ええ、少しでもルーディアス様の手助けになりたいと自分のご褒美はいらないから全部、ルーディアス様が学校で困らないよう揃えてあげてほしいと頼んだそうです」

 「ユフィッ……」


 それを聞いて言葉にならない気持ちがこみ上げた。

 今は遠く離れている妹が学校での自分の身を案じてくれている事が嬉しくて涙が出た。

 他者と比べられる事には慣れていた。

 新しいものが欲しいとはとは別段思わなかった。

 何を言われても無視すればいいと思っていたし、実際にそうしてきた。

 

 それでも、正直なところ自分専用のものが欲しくない訳ではなかった。


 特に剣がそうだった。

 親友である第一王子のシリウスからは用意すると言われたがそれに甘えるのは何か違う気がして断っていた。

 いるかいらないかと問われれば素直に欲しいと思うがそれを友人に用意してもらうのは嫌だった。

 だから何度も断った。

 心の奥底では欲していたルーディアス専用の剣がそこにあった。

 しかも、高価な魔石まで装着された間違いなく高級な立派な剣だ。

 感動して固まっているルーディアスを見てフッと笑う商会長。


 「さ、ルーディアス様、取り換えた不要な物はこちらで持ち帰りますから出して下さい」

 「あ、うん」


 箱を空けて中身を見る度に泣きそうになりながらその日、ルーディアスの部屋の中の物は文字通り様変わりした。オマケとばかりに寝具まで新しくなったのには苦笑したけれど部屋中にあるものが全てルーディアス専用の物になった事は嬉しくて久しぶりに浮かれてしまった。

 通信用の魔水晶も盗聴等を防ぐ最高級品に変えられた。

 そして空箱で不用品を片付けて商会長はまたご贔屓にと言い帰って行った。

 それを見送ると急いで部屋に戻り、急いで魔水晶を起動させた。


 「ユフィ、ユフィいるかい?」


 時間を見れは外はすっかり暗くなっている、もしかしたら既にユフィーリアは寝ているかもしれないと心配しながら声をかけてみればピピッと音がして魔水晶にユフィーリアの姿が映った。

 流石は最新の高級品。声だけではなく姿まで見せてくれる事にルーディスはこれが貰った物で一番嬉しいかもしれないと思った。


 『おにいさま、もうねるじかんですか?』

 「ううん、そうじゃないけど、どうしてもユフィと話がしたくて」

 『?』

 「あのね、今日ケイムさんが来ていっぱい荷物を届けてくれんだ」

 『あ、きょうだったんですね』

 「ユフィ、本当にありがとう。とても嬉しい」

 『えへへ』


 子供らしく笑うユフィーリアを抱きしめたくなった。

 ぽやんとしたこの可愛い妹が愛おしくて仕方が無かった。

 こんな風に感情を表に出してくれるだけで未だに安堵する。

 ルーディアスは数ヵ月前のユフィーリアを思い出して胸を痛めた。


 ある日我が家にやってきた血の繋がらない妹。

 ルーディアスにとってユフィーリアはとても煩わしい存在だった。

 我儘ですぐに泣いて癇癪を起しては物を投げる。 

 そんな小さなモンスターのような妹がある日、酷い高熱を出した。


 「原因不明です。このまま熱が下がらなければユフィーリアお嬢様は……」


 主治医は最後までは言わなかった。

 だけどそれを理解するには十分だった。

 妹が死ぬかもしれない。そう言われた時、自分でも分からないけれど自然と涙がこぼれた。

 あれだけ疎ましく思い出来るだけ係り合いたくないと思っていた。血の繋がりのない義妹な事は何も変わらない筈なのに、いなくなると思うと何故か酷く胸が痛んだ。

 すぐに両親と共に妹の傍に行き小さな身体に触れれば驚く程熱かった。

 荒い呼吸を繰り返し、妹の命の炎は現在進行形で消えかけているのを目の当たりにして怖くなった。

 そっと小さな手に触れれば余計に涙が出た。

 それから時間がとても長く感じた。

 妹が居なくなると恐怖した、そんな三日間だった。


 鍛錬や勉強を中断してずっと傍で看病し続けた。

 名前を呼び少しでも命を繋ぎ止めて欲しいと強く願った。


 奇跡は起きた。


 後遺症で激しい運動は出来ない身体にはなってしまったが、それでも妹が生きていてくれるだけで十分だった。

 以前とは違い、寝たきりの生活をするようになった妹の異変に気が付いたのは容態がすっかり回復した一週間後の事だった。


 何時も静かに本を読んでいるから気が付かなかった。

 何気なくユフィーリアに何かして遊ぶかと聞いた。

 部屋で出来る事なら二人で遊ぼうと。

 だが、ユフィーリアの瞳は確かにルーディアスを見ている筈なのに何も映していないように真っ暗で傍にいるルーディアスすらも判別していないように何もしなくていいと言った。


 まるで人形のようだと思ったらゾッとした。

 すぐに両親にユフィーリアの異変を告げると慌てて医者を呼び見せたが答えはまたも原因不明。 

 どれだけ呼びかけてもユフィーリアは人形のように話さず、ただ静かに本を読んで寝るを繰り返した。

 身体は生きているのに心が死んでしまったのかもしれないと思うと怖くて仕方が無かった。


 何度も呼びかけた。 

 戻ってこいと。 

 何日も何ヵ月もそんな状況が続き精神的に限界だった。


 失いたくないと必死に泣きながら呼びかけた。

 怖い事があるなら自分が守るから、だからちゃんとココに戻ってこいと。


 「にいさま」

 「ユフィッ、ぼ、僕がわかるかい!?ちゃんと見えてる!?」

 「はい」

 「よかッ、よかったッ、ユフィっ」


 握り返された小さな手、光が戻った瞳を見てルーディアスは歓喜し涙を流す。

 神様に感謝をと何度も口にした。

 そうしてユフィーリアが人形のようになっていた原因が夢である事が判明した。

 恐ろしい夢を度々見るのだと言う。

 誰もが気が付かない間にその恐怖に幼いユフィーリアは飲み込まれてしまっていたのだろう。


 ユフィーリアの見た悪夢の内容を聞いてルーディアスは言葉を失った。

 知る筈のない第一王子の癖を言い当てたからだ。

 ただの外見的特徴ならば一般的に出回る絵姿等や視察等で実際に見た者も多い為に情報として見聞きした可能性があり信憑性にはかけるがユフィーリアの最後に言った『指を噛む』が夢の信憑性を上げた。

 第一王子自身が深く考え込んだり、感情セーブしようとする時にする癖。第一王子自身がその癖を治そうとしている為、人前でソレをする事はまずない。

 一目がある所ではより一層立居振舞には気を付けているからだ。

 その癖を知っている者も少なく、国王両夫妻に乳母や古くからの信頼がおける専属メイドなどそれ程多くはない。

 王宮に古くから関わり合う貴族ならばそれに気がついている者もいるかもだが、一般的に知る事の無い癖を貴族達が多く住む王都ならいざ知らず辺境のしかもまだ五歳の子供がそれを夢で見ることのほうが異常だ。

 直感が働いた。これは絶対にただの子供が見た悪夢だと笑って見過ごしてはいけないと。

 ルーディアスは慌てて父親の元へと向かいユフィーリアが悪夢を見ている事とその内容の異常を説明した。

 話を聞いた父親もルーディアス同様に思う所があったのだろうすぐにユフィーリアの元へと向かった。


 ユフィーリアに更に詳しく悪夢の内容を聞けば更に驚愕する事になる。

 王妃とスタンピードのことだけではなく、王妃の体調不良の原因についても話し出した。

 王妃は王宮にいながらもメイドに毒を盛られていると言うのだ。

 そんな話が出てくれば信憑性の確認だなんだと話している時間も余裕もない、ただの夢ならば良いがもしもそれが本当に今現在も起こっていると言うなら事は早急な判断が求められた。


 王妃の療養の話は公にはなっていない機密案件。

 ルーディアスも親友だからこそ信頼があり第一王子が話してくれただけで他で聞いた者はいない。王族と極僅かな関係者しか知らないそれを口にしたユフィーリア。

 ことの重要性に父親はすぐに王都へと向かった。


 結果、ユフィーリアの予知夢は見事に的中した。


 恐ろしい事に本当に毒を盛っていたメイドはユフィーリアが夢で見たと言うメイドの特徴そのままの人物だったそうだ。

 そんな事があった為、悪夢に出て来たスタンピードに対しても念の為にと国王が支援して発生場所とされていた地域に警備兵や冒険者ギルドに依頼して腕利きの冒険者を雇った。

 まさかの時の為の対応程度に考えていたのに、ユフィーリア言った日と時刻に本当にスタンピードが発生したのだ。

 事前に準備していた為に災害であるスタンピードは異例の負傷者は出たが死傷者0と言う脅威の結果で解決した。


 まだ五歳の鑑定式も受けていないと言うのに既にユフィーリアは凄い能力を持っていた。


 何度も人が死んでいくそんな酷い光景をまだ幼いユフィーリアが見て傷つかない訳がなかったのだ。

 その一件からより一層剣技と魔法の勉強に取り組むようになった。

 元々、王子から側近にしたいと言われ続けていた為に、いずれそうなれるように頑張ってはいたが、ユフィーリアを守りたいとそう考えるようになって余計に力が入った。


 ユフィーリアが見る予知夢は正確すぎる。

 少しの違いでもあればまだ良かったのだが、内容が正確すぎてとても無視できない。

 特にスタンピードに関しては多くの人とその他の被害が酷い為、その対策が取れるとなれば被害を最初の予知夢のスタンビード同様に最小限で止める事が出来る。

 その為、スンタピードの予知夢に関しては例え誤情報になったとしても一切の責任は問われないことを条件として必ず報告するようにと国王命令が内密に父親に出された。

 関係者にとって、情報としてその正確性から予知夢は有難い話だろうがユフィーリアの立場としては良くない。

 意図的に見ている訳ではない。ユフィーリア本人が自由にそうする事が出来ない事が唯一の救いだった。

 これまでに2度、ユフィーリアは予知夢によってスタンピードの報告をしているがどちらも今の所、誤情報はにはなっていない。


 国王も宰相も王弟もこの事は内密にしている為、今の所ユフィーリアの力のことは伏せられている。

 それでも噂は何処からともなく広まる。


 人々はそれを奇跡だと言う。

 だけど、不意にルーディアスは思う。


 淡々と夢の話をする時だけルーディアスが不安になる、あの人形のような虚無感を持つ瞳をユフィーリアがしていることに。


 ルーディアス達にとっては予知夢だが、ユフィーリアにとっては悪夢以外の何物でもない事に気が付いた。

 その悲惨さと絶望的な光景、多くの人々が死に嘆く姿をまだ幼いユフィーリアが見ていのだ。

 自分達はそれを聞いて、そうならないように回避する為に動く。当然そんな悲惨的な光景を見る事はない。

 時に見知った人間の死だったり、不幸だったするソレを見せられる事はきっとかなり辛い事に違いない。それに気が付いたルーディアスはその日から毎晩寝る前に神様に祈りを捧げる。


 叶う事ならば不幸な出来事なんて無くなり幸せな夢をユフィーリアが見続けられるように……。


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