第二話 まず必要なのはやっぱり先立つものでしょ
2024.03.24
自分の身も家族もなんだったら領地も領民も守るとなると力はもちろんだけれど、まずは資金が必要だ。ココは国の中でも辺境でしかも貧しい領地だ。広大な土地はあるけれど殆どが作物が育たない不毛の地だ。今ココで作物を育てられているのは高い肥料と高額な魔石のお陰である。その肥料と魔石だってかなり無理をして捻出していて、貧しいから広大な土地全部には行き渡らないのが現状だ。
だがしかしである。
記憶が戻った私がいればその問題も簡単に何とかなりそうだ。
この貧しい辺境の領地が戦場になったのには隣国と近接しているだけではなく、ちゃんとした理由がある。それは、この領地、と言うか我が家の裏手にある山と森が原因だ。
山には魔術を使う時や魔道具を製作する為に必要不可欠な魔石が大量に眠っているのだ。
それはこの世界で一番と言われる鉱脈で膨大な量になる。
森には精霊を癒す事の出来る希少な薬草とポーションに使う綺麗な湧き水があるのだ。
我が家には当たり前に見る森の木ですら重要な薬の元となる樹液が取れる。
まさに宝の山とはこの事だ。
隣国カサブレア王国の人間がその事に気が付くのは早くても二年後。
故にこの事を知っているのは現時点では私だけと言う事だ。
活用しない手はない。
私は早速執務室へと向かった。
「あの、おとうさまにおはなしがあるです」
「ユフィーリアお嬢様、少々お後下さい」
近くにいたメイドさんに声をかければ執務室に行き中にいる義父専属の執事が出てきてドアを開けて招き入れてくれた。
義父が仕事をしている時に私が訪ねて行く時は予知夢を見た時だと言うのが暗黙の了解になっているせいか執事はどんなに多忙だろうが邪険にする事はなくしっかりと対応してくれる。
執務室に入れば義父は優しく笑い仕事していた手を止めて席から立つとこちらに来てくれた。
私はすぐに義父の元に向かえば軽々と抱え上げられソファに座った義父の膝の上に乗せられた。
成人女性としての記憶があるからコレにはちょっと気恥ずかしい気持ちになったけれど考えないようにしている。
「おはようユフィ、よく眠れたかい?」
「はい、おとうさま」
「それは良かった………それで、お話とは何だい?また怖い夢でもみたのかな?」
心配そうに尋ねられると少しだけ罪悪感を感じて申し訳ない気持ちになった。
王妃様の一件から私は二度予知夢を見た事にしてスタンピードの発生を知らせた。
どちらも言った日にスタンピードが発生した為に、今では預言者に次のスタンピードの日を教えて欲しいと言う人間まで現れて城ではひと悶着があったようだ。あくまで夢。念のために対策するくらいの気持ちでと王弟と国王がしっかりと働きかけてくれたお陰で変な所に監禁されて予知夢を強要されるなんて事態は防げた。
そんな可能性があったのだと聞いた時は怖くなってガチ泣きして今後はもっと慎重に行動せねばと言う教訓となった。
まあ予知夢をした人間がフレイムグラス家の幼い子供だと言う事実は伏せられている為、心配する程まだそれほど危険ではないと思うけど。
私の事を知っているのは家族以外では王弟と国王と第一王子だけらしい。
「ううん、こわいゆめじゃないの。あのねおとうさま、うらやまにとってもこうかないしがうまってるんだって」
「え?裏山?……それは、屋敷の裏にあるあの山のことかい?」
「はい、まほうをつかうときにつかうとってもおたかいいしだって」
「そ、それは誠てございますかユフィーリアお嬢様!?」
「ひっ……う、うん」
デスクで書類の処理をしていた執事さんが私の話を聞くなるデスクを飛び越えてこちらに駆け寄ってきた勢いと様子に思わず悲鳴を上げそうになったが何とか返事を返す。
「あの山に魔石が?そんな話は聞いた事がないが」
「本当なら凄い事ですよ旦那様」
「そうだな……ユフィ、どのあたりか分かるかな?」
「えっと……」
「ゼス、地図を」
「はいッ」
義父の指示で執事がはすぐに屋敷の周辺地図を持って来た。
テーブルの上に広げられた地図、義父は私が見やすように抱え直してくれた。
「あのね……ここからずーーーーーーーと下までいーーーーーーーぱいませきなんだって」
「なッ!?」
「ほ、本当ですか!?」
「うん、あとね、ココにせいれいさんのおくすりをつくるはっぱがあってね、ここかな?ここにおとうさまたちがもんすたーとたたかうときにつかうたいせつなおくすりのおみずがでてるって」
「も、森にも!?」
「だ、旦那様、それが本当なら大変な事になりますよッ」
「こ、困ったな……とりあえず、オルトスに手助けを頼んで山の調査をするかな」
「では、森の方は私が今から調査に行ってきます!」
「私も行こうッ」
膨大な資金源になる話である、常に赤字のギリギリ領地運営をしている義父達にとっては棚から牡丹餅的な話だろうから慌てても仕方がないか。
自室に戻り待つこと数時間後、部屋で本を読んでいるとバタバタと慌ただしい足音がすると思うと普段なら絶対にしないようなノックも忘れて部屋の中に飛び込んできた義父はベッドの上の私を傍にくるなり抱きかかえてクルクル回りだしたから本当に驚いた。
「ユフィ、君は本当に我が家の天使だッ」
「お、おとうさま」
「ああ、なんと感謝したらいいか、本当にありがとうユフィ!これで領民にもっとましな生活をさせてやる事が出来るよッ」
「じゃあ、みつかったの?」
「ああ、あったよ。いっぱいあったんだッ」
「よかったです」
設定通りにソレはちゃんとあったようで安堵した。
ぬか喜びにならないで本当に良かった。
義父達は早速親しい商人を呼び寄せて色々と遅くまで交渉していたようだ。
こっそりと聞いた話では年間予想利益はここの領地の赤字年収15倍相当分らしい。
それは小躍りもするってものだ。
数日後には王弟と信頼出来る調査員が来て裏山を調べた。
本命は山だから物語通りになって欲しいと私はハラハラしながら義父達が戻ってくるのを待った。
私が眠っている間に調査しに向かって日暮れ時に大騒ぎをしながら戻ってきた。
願いが通じたのか、こちらも設定通りの結果だったようだ。
あれだけの魔石、下手をしたら戦争にもなりえると言う話になり全ての報告はやめて見つけた三分の1程度の規模で世間に報告する事で話は纏まった。もちろん国王には事実を王弟自ら内密に報告するそうだ。
3分の1程度、それでも今この国で魔石を捻出している鉱山の何倍もの量らしいけど。
貧乏貴族と王都では言われていた義父もこれで晴れて大富豪の仲間入りだろう。
領地と領民の生活改善だけではなく防衛にもお金を避ける余裕が出来た筈だ。
どれ程のことが出来るか分からないが、今の何もない無防備な状況よりは断然良い。
この事をルーディアスにすぐにでも報告したかったけれど一応、命を狙われる危険も起きる可能性がある案件な為に極秘情報扱いで盗聴等の可能性も考慮して私から知らせる事はやめておいた。
数日前からルーディアスは王立ミレニアム学園を優秀な成績で合格して入学した為に今は家を出て王都にいる。
王立ミレニアム学園は全寮制な為にこれから数年は寮生活を送る事になる。
私の事があって心配だからとせっかく合格した名門校なのに入学をやめて領地に新しく出来た学園と比べれば全然レベルの低い平民が多く通う学校に進学すると言い出した時は家族全員でそれを止めた。
何より高位貴族の親友がいるようでその人から絶対に入学させるようにと義父に何度も頼んできたらしく誰よりも義父が必死に説得していた。
最終的に何時でも前世で言うところの電話のような魔道具である魔水晶を高位貴族の人が用意して持って行く事と私の必死の説得で毎日魔水晶での会話をする約束で渋々納得してくれた。
「何時でもコールしてきていいからね!僕もユフィに毎日連絡するから!」
「は、はい。き、きをつけておにいさま」
「ユフィッ!!」
出発当日、馬車に乗るまで渋っていたルーディアスは必死な様子で強く私を抱きしめた。
あの日からすっかり人が変わったように超が付くシスコンになってしまったルーディアスは若干ドン引きする位に私ラブだ。
美少年で優しいルーディアスに中身は良い中年のオバサンが年甲斐もなく浮かれてしまうのは仕方がない話だ。
だってこんなに異性に義理の兄妹とは言え、愛されたことが初めてのことだから余計である。
家族愛であっても、美少年に言われれば嬉しいに決まっている。
宣言通り本当に学園に入学した日から毎日連絡が欠かさずにくる。
電話のようなものだろうけど如何せん物自体が携帯とは違うから最初は使い勝手になかなか慣れず困ったけれど、ルーデイアスの毎日コールのおかげで毎日操作しているから今ではすっかり使い方を覚えてしまった。
金銭に余裕が出来て色々と落ち着いた頃、義父達がこれまで色々と我慢させていたから私が欲しいものをいっぱい買ってくれると言ってくれた、だがしかし、子供が喜ぶものを前世の記憶が戻った今とても欲しいとは思えなかった。それはドレスとか宝石等の装飾品もそうだ。
記憶が戻る前は最新のドレスを強請ったり玩具を欲しがったりとかなり我儘をしていた記憶がある為に、義父達が言うような我慢を強いていたと言うには当てはまらないと思う。
むしろ我慢していたのはルーディアスだ。
だから悩んだ結果、今まさに必要な物が多くあるだろうルーディアスの物を強請る事にした。
ルーディアスは固有スキル2つ持ちで成績も優秀な美少年。
当然妬み嫉妬は常だろう。
嫌がらせだって受けているかもしれない。
子供は時に大人よりも残酷だから。
「おにいさまのがっこうにひつようものがいいです」
「ユフィ、君は本当にッ」
「ああ、なんて優しい子なのかしら」
以前からそうだったけどこちらも前よりもっと親馬鹿になってしまっている。
ルーディアスの物も当然買うつもりだったから気にせずに自分のモノをと言われたが、やっぱり今の自分に必要なものが思い浮かばなかった。強いて言うなら本くらいだがそれも書庫にある本をまだ読み切れていないから今の所は必要ない。
だからもっと沢山ルーディアスの物をとお願いした。
両親は更に感動して泣いていて少し心が痛んだのであった。




