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第十一話 お薬の粗悪品なんて飲めませんよ!?


 それはルーディアスが学園へと旅立って少し経過した頃、私専用の薬調合小屋が誕生した切っ掛けのお話。


 裏山から大量の魔石が発見され義父達が驚く程の収入がフレイムグラス家に入り始め、身の回りの壊れていた物や古い物等を色々と新調する為に連日ケイムさん達が慌ただしく出入りしていた。


 それに気が付いたのはたまたまだった。

 次は何をしようか?と考えていた時、普段は執務室でケイムさん達とやり取りしている義父達がこの日は応接室を使用している事を聞いて気になった為にこっそり覗きに行った。

 義父達が応接で仕事をする時は大抵、王弟や他の身分の高い貴族が来ている時だけど、そんな高貴な来客が来るなんて話は聞いていない。


 一体誰だ?と興味があった。


 少しだけドアを開けて中を覗けばそこには義父とケイムさんそしてその隣には何時も商談している時によく一緒にいるケイムさんの商会の鑑定スキルを持った商会員がいて、対面するように座っていたのは思わず視界に入れただけで不快になる真っ白なローブに金色の刺繍の入ったローブを身に着けた男がいた。


 神殿の神官が着るローブ。

 何でココに神殿の人間がいるんだとギョッとした。


 もしかして自分の存在が神殿にバレてしまったのかと一気に血の気が引いたけれど、私はまだ神殿が私を連れていくようなスキルを披露していない為その可能性は低いかと冷静になり気持ちを落ち着けて神官を観察すれば男は隣に置いていた鞄の中から数本の小瓶を取り出してテーブルの上に並べ始めた。


 「ご希望は回復薬(小)と魔力回復薬(小)と解毒薬(小)で宜しかったですか?」

 「ええ」

 「魔力回復薬と解毒薬は希少な薬草を使用して作っている為、多少値が張りますが大丈夫ですか?」


 思わずカチンと来る言い回しと明らかに馬鹿にしたような態度だった。

 これまでのフレイムグラス家の財政を考えれば回復薬を必要数買うのもやっとだったのは事実だけれど、だからと言って貴族相手にいち神官がとって良い態度ではない。

 格下だと見下す態度、これだから神殿関係者は嫌いなんだ。

 回復治療と回復薬と言う人々にとって必要不可欠なモノを独占し、それを逆手にとって横柄な態度を取る。神殿の上位神官に至っては王族にすら分相応な態度を取る輩もいる。

 その態度を窘めれば、回復薬の生産が落ちているとか、人手が足りないとか適当な理由を付けて必要な回復薬等の量を減らしたり単価を吊り上げたりなんて事を平気でするのだ。

 

 モンスター被害に日々晒されている状況で生命線とも言える回復薬のストックとヒーラー要員の確保は必須、そんな生命線を死守する守る為に貴族や国王ですら我慢を余儀なくされ、神殿の態度はどんどん増長しているのが現状だ。

 

 自分達を神とでも思っているのか、実に不快な輩の巣窟である。


 小説で読んだ時も不快だったけど、実際にそれを直接目の当たりにすれば不快感も倍増、酷い態度を取られているのが大切な家族なら余計である。

 ニセモノでも持ってきているんじゃないかとイライラしながらテーブルの上の物を鑑定する。


 回復水〘粗悪品〙 (小)

 魔力水〘粗悪品〙 (小)

 解毒薬〘粗悪品〙 (小)


 って、なんてモノ売りつけようとしてんのッ!?

 思わず声に出して突っ込みそうになって慌てて口を押さえた。

 いくらなんでも元貧乏貴族だったとは言え貴族相手に売るようなモノではない。

 ポーションにすらなっていない失敗作なんて堂々と持ってくるなんて馬鹿にし過ぎである。

 商会の鑑定士がいると言うのに随分と嘗めた真似をするものだ。

 流石にこれ以上黙って見ていられない為に早々にそこから立ち去ろうとしたその時、応接室の中から聞こえてきた言葉に私はバッ振り返り足を止めた。


 「大丈夫です、問題ありません」

 「そうか、それでは100本ずつ注文します」

 「ひゃっ100本!?しょ、正気ですか!?かなりの額になりますよ?」

 「問題無いです、それで頼みます」

 

 いやいやいやいや、何!?嘘でしょ!?

 余りの事に唖然とした。

 高額の薬を大量に購入する事に驚いたのではない。

 アレを是とする事に理解が出来なかった。

 もしかして商会の鑑定師の人も神殿のヤツ等とグルの悪い人間だったの!?

 これは駄目だ、何とかしないとと慌てる。


 私は思い切って部屋ドアをノックした。

 すぐに中にいた執事が出てくる。


 「お嬢様?」

 「お、おとうさまにおはなしあるです!」

 「少々お待ちをッ」


 私の焦った様子に只事ではないとすぐに執事が中に入っていった、義父はすぐに来てくれた。

 どう説明したらと考える。

 勢いで声をかけたけど対応策を考えて無かった。

 藁にも縋る思いで英知の結晶を発動する。


 【回復水〘粗悪品〙はレシピの材料が間違っている為、正規品とは異なるアイテムである】


 は?正規?


 【この世界の回復薬のレシピが不完全な物の為、どれだけ優秀な調合師でも完璧な回復ポーション等を作る事は不可能。使用する素材が全て高品質だった場合のみ【初級回復ポーション】と同等程度の回復水が作れる可能性がある】


 回復水〘粗悪品〙について詳細確認すればまさかの説明文に絶句する。

 ゲームで熟練度が足りずにミス調合した場合に出来る回復水、所謂失敗作。説明には僅かに回復効果のある水となっていた筈のもの。

 まさかのそれがこの世界で回復ポーションとして出回っているなんて思いもしなかった。

 レシピ自体に問題があるなんてまさかの展開だ。

 鑑定スキルじゃレシピが正しくないとか分からないのかな?


 【アイテム名や簡単な詳細が分かる程度が一般的な鑑定スキル。更に詳しい詳細や特性を確認できるのが上位スキルである完全鑑定。鑑定EXはこの世界には存在しないスキルであり、本来は鑑定スキル・完全鑑定スキルで鑑定が出来ないモノを含めた全ての鑑定が可能〙

 

 鑑定スキルの詳細確認を改めてみると自分の持つ鑑定EXがチートな事が分かった。

 つまり、商会の鑑定士ではあくまでそのアイテムの詳細しか分からないようだ。

 であれば商会の鑑定士がミスした訳ではない。

 回復水が一般的な回復薬になっているのなら仕方がない。っとは言え《粗悪品》なのは事実だし、それで良いとはならない。

 神殿には完全鑑定持ちがいた筈である。

 初級ポーションに近い回復が見込める回復水を絶対に高額で販売しているだろうから、いくらレシピが違ってこの世界では今のところ正規レシピが不明とはいえやっぱり人を見て販売しているのは間違いない為、神殿に対する認識は変わらない。


 「随分慌ててたみたいだねユフィ、怖い夢をみたのかい?」

 「あ、あのね、おとうさま」


 心配そうな様子で応接室から出て来た義父は当たり前のように私を抱えると優しく訪ねてきた。

 どう説明したらいいか悩む。


 「あ、あの」

 「大丈夫だよユフィ、落ち着いて。ゆっくり話してごらん」

 「えっと………お、おくすり……かっちゃだめなの」

 「え?おくすり?………回復薬の事かな?」

 「ですです」

 「どうして買っては駄目なのかな?」

 「アレよりよいおくすりがあるです」

 「え?」

 「つくれるです」

 「なっ!?」


 私の言葉に義父も執事も絶句したように私を凝視した。

 それも仕方がない。

 調合師の殆どは子供の頃の成人の儀によって加護とスキルが判明した時に、大抵が神殿に入る事になっているからだ。

 今でこそソレを問題視する声も上がっているようだけど、大昔から回復師と調合師は神殿で大切に育てていくと暗黙の了解で決められていた為に今更それを覆すのは難しいのが現状だ。

 故に、神殿に属さない回復師と調合師は高額なダンジョン産習得スクロールを使った者か、極稀にある成人の儀より後発に目覚めた者だけだ。


 回復薬等の偽者も多く出回っている為に、神殿に属さない者が作った薬を買う者は少なく、下手をしたら偽者を販売したと言われ投獄されるなんて事もあるご時世だから、後発組のスキル持ちは最終的に神殿に行くしかなくなる。

 小説等では神殿の人間が拒否した者を密かに処分しているとも記されていた。


 「ユフィ……誰が作れるのかな?」

 「わたしです」

 「ユフィ作れるの!?」

 「です」

 「………ハァーーーーーーー、ゼス、ユフィを執務室に。ユフィ、私のお仕事部屋で少し待っててくれるかな?」

 「はいです」


 なんか酷く疲れた様子で義父は客室に入っていた。

 私は執事と共に執務室でソワソワしながら待った。

 暫くして義父とケイムさんがやってきた。


 「さて、ユフィさっきのお話を詳しく聞かせてくれるかな?」


 私は先程得た情報を不思議な夢の中で薬を作っている夢を見たと義父達に話した。

 夢と言う単語が出た瞬間に義父もケイムさんもより深刻な表情へと変わる。

 ただの子供の夢だと思わず真剣に考えてくれる。


 「ユフィーリアお嬢様、夢の中で作っていた薬はコレとは違ったと言うのは本当ですか?」


 ケイムさん持っていた回復水・魔力回復水・解毒薬を並べて置いた。

 再度鑑定すれば全部先程の物と同じで【粗悪品】と記されている。


 「ちがうです」

 「何が違うのかな?」

 「おくすりのつくりかたがちがうそうです」

 「な、なんと!?」

 「レシピが違う?」

 「いろもこうか?も、ちがうです」

 「だ、旦那様、これが本当なら“またまた“大変な事になりますよッ!?」

 「ああ………ユフィ、取り合えず、そのお薬を作ってもらっていいかな?」

 「はいです!」


 何輩また義父には面倒をかけてしまうようだけど我慢してもらうしかない。

 私は必要な素材をケイムさんに伝えた。

 

 後日、義父は王弟に相談し、王弟は国王に相談し、一ヵ月後には屋敷の裏手に私専用の小さくとも立派な調合小屋が出来上がった。

 まさかの小屋建築に絶句したのは言うまでもない。

 まだ成功してもいないと言うのに気軽にやりなさいと義父は当たり前のように色んな道具を用意してくれた。中には高価な道具も多々ありそれらは国王からの品だと聞き物凄いプレッシャーになったのは言うまでもない。


【英知の結晶】の言う通りに、目の前に現れた見本を専用の羊皮紙と魔法インクを使い書き写していく。

 魔力が減っていくのが分かる。

 不思議とまだこの世界の文字を書き慣れていないと言うのにガタガタで汚い文字にはならず綺麗に書き写せた。



 【スクロール製作】を習得しました。



 急に目前に現れたウィンドに驚いた。

 新しいスキルを習得した!?

 驚いてソレが何か鑑定する。


 【技能性能理解したスキルを使用者が習得可能になるスクロール製作。※戦闘系・攻撃魔法系スキル不可】


 あれ?レシピ製作だけじゃなくて生産系のスキルのスクロール作れるの!?

 それって誰でもスキルを得られるって事なんじゃ・・・・。

 自分の持っているスキルがいよいよ本当に拉致監禁対象確定のような気がして怖くなる。

 スキル習得スクロールに関してはもっと慎重に考えないと危険だ。

 MPを見ればかなり制作するのに消費しているから大量にポンポン作れない事も分かった。


 けど色々と考えれば考えるだけ怖くなるため、そっちについては今は置いておく事にした。


 私は完成したレシピスクロールを早速使用した。

 無事に回復ポーションレシピを習得して私は目の前に用意されていた道具と素材を使って早速ポーションを製作した。


 不思議と身体が自然と動いた。

 初めて製作したと言うのに慣れた手つきで作業は続き、ものの数分で回復ポーションは完成した。


 【初級回復ポーション(小)《高品質》】


 素材が全て品質が良かったから当然かと出来た回復ポーションを見ながら思う。

 綺麗な澄んだ青色で高品質の為なのかキラキラとエフェクトが掛かった回復ポーション。

 うん、どうせ飲むならコレじゃなきゃ。


 私は続けて初級魔力回復ポーションと解毒薬のレシピ習得スクロールを製作した。

 回復ポーションと同様に二つとも【高品質】が付いていた。

 私は完成したポーションを持って義父の元へと向かった。

 


 義父から話を聞いた王弟も確認の為に来ていたので、私は義父と王弟とケイムさんの前に作った回復薬を並べた。

 三人共目の前にある回復薬を確認すると盛大に溜息をついた。


 「コレはヤバイね」

 「ああ、間違いなく」

 「こんな綺麗な回復薬は見た事が無い。効果も恐らくユフィーリアお嬢様の作ったもの方が高いでしょう」

 「これまでは神殿が独占していた回復薬なだけに、これは揉めるな」

 「そうですね………」

 「間違いないね」


 深刻な顔の三人。

 まあ確かに大問題なのかもしれないけれど、それでも命にかかわるアイテムである。

 神殿と揉めるから秘匿にしようで駄目だ。


 「レシピしゅうとくクロール、わたしつくれる。いっぱいはむりだけど」

 「ユフィ以外でも作れるようになれるのかい!?と言うか、習得スクロールを作れるのかい!?」

 「はい」

 「ああああああ、もぉ。君って子はッ!」

 「お、おとうさま!?」


 義父は盛大にため息をつくと私の身体をギュッと抱きしめた。


 「ユフィに護衛が必要だな」

 「ええ、間違いなく必要だと私も思います」

 「ほぇ!?」


 まさかの話の展開に驚いた。

 止めようと思ったけど真剣な顔で納得した様子の義父達を見れば止められる筈も無かった。


 「神殿はレシピを公開はせず秘匿している為、こちらの開示要請を再三無視してきた。ならば今回ユフィが見つけた回復薬は性能がまったく違うのだから別物としてレシピを申請すれば神殿も文句は言えないだろう」

 「そうですね。これまで神殿が販売してきた回復薬とは回復力が違い過ぎるし色も異なる為、それは問題ないでしょう」

 「ユフィ、その習得スクロールは幾つ用意できそうかな?」

 「………いまは8個くらい?」

 「そんなに!?それを幾つか私達に譲ってくれないかい?」


 王弟のこう言う所が好きなのだ。

 王族と言う絶対的権力を持ちながらまだ幼い子供相手にそれを行使して奪い取るのではなくお願いしてくる。

 本当にこの国の王族は素晴らしい。


 「どうじょです。おとうさまにぜんぶおまかしゃするです」

 「ユフィ!ああ、君は本当になんて良い子なんだ!」


 どんより濁った緑色の粗悪品なんて絶対に飲みたくない。

 それが無くなるならどうぞどうぞである。


 こうして私の専用の薬調合小屋が完成したのだった。

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