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第九話 パンはやっぱりフワフワが良いでしょ?


 この身体にも慣れてきたし改めて出来る事をと考えた。

 新しい薬の製作とか便利な魔道具の製作とか【英知の結晶】と言う強い固有スキルさえあればやれる事は無限に広がる。

 これでまた一儲け出来るなんて色々と考えていたが、その日も当たり前のようのその時が来る。


 「…………」

 「どうかしたユフィ?」

 「もしかして、体調でも悪いのかしら?」


 心配そうにこちらを伺う両親。

 だかしかしである。

 そうではない。

 決して体調不良等ではない。


 問題は身体ではない、目の前にある物のせいだ。


 よくある無駄に横長のテーブルの上、並べられた料理。

 否、これを料理とだと言いたくない自分がいる。


 どうやったらこんな石みたいなパンが作れるんだと逆に関心してしまう強固なパン、出汁?なにそれ美味しいの?的な塩分のみの味のモロ(前世で言うところの芋)とニニ(前世で言う所のニンジン)が浮いたスープ、そして、何の肉かわからない分厚いステーキ、尚味はこちらも恐らく塩のみ。

 このメニューが粗定番と言える程毎日出てくる。高血圧ジェットコースターな料理である。

 ココが注目。【毎日】。まさに悪夢である。


 低レベルとは言え貴族の料理がこのレベル、平民となればあの石パンのみの生活になる場合があるそうだ。

 平民の歯は鋼鉄なのだろうか?酷い地獄である。

 そしてパンすら買えない貧民に至っては生のモロを齧るしかないと言う。

 更に酷い地獄だ。

 上級貴族や王族位になると多少品目が増えるのと果実が付くらしいけれど、この味の品目が増えたとてさらに爆速高血圧ジェットコースターなだけである。これは酷い。



 現在ケスニア領地は経済面は改善はした。

 とは言え、それでも貧民もいれば浮浪者もいる。

 それは何処の領地も同じだからだろうか、未だに対処されていない。

 そこまで手が回らないのかもしれないけど、早急に対処しなければならない案件である。


 大人だけではなく幼い子供までもがお腹が空いて道端で死ぬなんてそんな事、あってはならない。

 と言う事で、私はある事を提案する為に義父も元へと向かった。


 「おとうさまにおねがいがあるです」


 もうお決まりとなった訪問である。

 執務室の前にいた護衛達も慣れた様子で中に取り次ぎをしてくれた。

 すぐに執事が中へと迎え入れてくれた。


 「私にお願いがあるんだってね、なにかな?」

 「はいおとうさま、おりょうりがしたいのです」

 「え?………お料理?え?ユ、ユフィがかい?」

 「そうです」

 「ええ?一体どうしたんだい?」

 「あたらしいおりょうりをかんがえたのです」

 「新しいお料理?………ユフィがかい?」

 「はい」

 「……………ゼス、ケイムに知らせてくれ」

 「承知しました」


 へ?何故にケイムさん?突然の義父の行動に戸惑う。

 何か別に用事?

 困惑している私に義父は優しく微笑むとコック長監守の元危ない事や刃物を使用しない事を条件に何とか許可を出してくれた。自分で包丁等が使えない事は不便だがまあ子供に刃物は危険と判断されても仕方がないかと納得し、すぐに厨房へと急いだ。


 「それでお嬢様、何を作りたいのですか?」

 「えっと……あたらしいおりょうりなの」

 「はぁ……」


 子供の遊びに付き合うのが面倒と言うのを全面に出してきたコック長。

 まあ予知夢の一件で忘れがちだが散々我儘放題をやってきたリトルモンスターのイメージは未だ屋敷の使用人の間には残っていたりする。

 中には血の繋がらい養子の子がと露骨に陰口を言う仕様人もいる。

 子供の我儘と言えば聞こえはいいが何人かの使用人をクビにするように言った事もあるようだ。

 前世の記憶がない時の自分は本当に酷い子供だった。

 中途半端に悪い貴族意識があったせいであのまま成長していたら間違いなく悪役令嬢にでもなっていそうな程である。

 今更やってしまった事をなかった事には出来ないけれど、せめてもの償いにこれから善行をしていきたい。切実に。


 「それで?どんな料理ですか?」

 「おいしいの」

 「………それは、私の料理がおいしくないと?」


 口元を引くつかせながら凄まれる。

 盛大に頷きたい所であるがこれから手を借りようとする人に失礼な発言は良くないと思い言い方を考える。


 「えっと………りょうりちょうのせいちがう……もともとおいしくない」

 「!!」

 「ブッフーッ」

 「カイルッ」


 私の後ろにいたカイルが噴き出しナイシードがそれを咎める。

 上手くフォローしたつもりが駄目だったようで慌てて謝罪するがすっかりご機嫌をそこねてしまったようだ。

 コミュニケーション難しい。


 「これと、これつかう」

 「なんですかこれ?」

 「わたしがつくったひみちゅのおくすりです」

 「薬!?」

 「いいから、いうとうりにつくってください」

 「…………ハァーーー」


 無茶苦茶嫌そうである。

 態度も悪い。

 だけど、作って貰わらないと良さも分かって貰えない。

 私は我慢我慢と一生懸命笑顔を保った。

 何時ものようにパン作りをしてもらっているのを見てやっぱりと心の中で溜息をつく。

 酵母なんてないよね、そりゃあと改めて石パンのタネを見た。

 小麦粉と塩と水のみ。

 これだけで何故あの石パンになるのか理由は分からないけれど、恐らく小麦粉の種類?のせいなのだろう。

 とにかくコレではやっぱり駄目だと用意していた物をマジックボックスから取り出した。


 「は?お嬢様ッ!?」

 「い、今……」

 「え?」

 「今、何処から………ま、まさか………」


 厨房中が静かになった。

 え?え?と思っている間にナイシードが慌てた様子で出て行った。

 カイルも何やら厨房にいる全員にここから出ないようにと言いつけている。

 何事!?

 暫くすると慌てた様子で義父と執事がやってきた。


 「ユフィ!?ちょっといいかな!?ゼス、ココは頼んだよッ!」

 「はいッ!」

 「あ、あのおとうさま、わたしまだ」


 料理の途中なんだと言いかけたが有無を言わせない笑顔で近くの客室に連れていかれた。

 中に入るなり義父は盛大に溜息をつく。 


 「ユフィ………もしかしてアイテムBOXを持っていたりするのかな?」

 「へ?」


 それか!?

 まさかソレも珍しいのかと頭を抱えたくなった。

 この世界でどの固有スキルがどれだけ価値があるのいまいち把握できてないから気を付けてたのに目先の事に囚われてウッカリしてた。

 どうやら義父曰く、アイテムBOXもかなりレアなスキルらしい。

 商会でも持っている人が限られているようだ。

 この件についても内緒にするように言われた。


 再び厨房に戻ると全員がとても微妙そうな雰囲気を出していた。


 気を取り直して作業を再開する。

 心配だからと義父達も様子を見ている事にしたらしい。本当にすみません。

 主人の前と言う事もあり緊張した様子の使用人達。

 やり辛い事この上ないだろうが我慢してもらうしかない。


 先程アイテムBOXから取り出した物は事前に私が作った魔法の薬、すなわちそれはカカポ(前世で言うところのリンゴ)を使って作った酵母。

 出来るかどうか不安だったけれどちゃんと酵母が出来て本当に良かった。

 これを使ってあの石みたいなパンになってしまう小麦粉を少しでも柔らかくしたい。念の為に人体に悪影響の無い事は確認済である。

 それから、この世界では腹を壊すとか言う理由で飲まない牛乳だ。

 前世の牛なんて生き物はこの世界には存在せず、モーズと言う牛に類似したモンスターの乳だ。

 モンスターと言うだけでも人は敬遠するし、更には腹痛なんて体調不良を起こすとなれば尚の事である。

 これを作っている農家だって偶々農家の夫婦がたまたまモーズの子供を拾って育って人に危害を加えないモーズになり、空腹だった為に乳を搾って飲んだ所美味だった為に販売する事にしたと言う偶然が重なって誕生したモノだ。

 のちにモーズよりも大人しいヤギにモンスターのヤドの乳で回ったがこちらも同様に体調不良を起こす人間がいる為に敬遠されている現状だ。

 体調不良にならない者がいるのは単に免疫力が高いだけだろう。

 この世界でも菌やウイルスは存在する。

 当然、除菌は必須だ。

 私が用意したモーズ乳は除菌済である。

 

 みんなの視線が痛い。


 「本当にコレを使うの……ですか?」

 「はい、だいじょうぶちゃんとじょきんしてあるからへいきです」

 「じょきん?」

 「えっと、とにかくコレはだいじょうぶなのです」

 「…………」


 メチャクチャ疑われている。

 まあ、仕方ない。

 とにかくパンのタネを作って貰う。

 暫く醗酵させる為にパンの生地を寝かせる為に放置してもらい、数時間後に再集合する。

 醗酵して膨れ上がったパン生地を見て驚くコック長達。

 ちゃんと二次発酵までしたから本当に大きく膨らんだ。


 「これをいまからやいてください」

 「は、はい」


 窯の中に入れて焼き加減を見る。

 オーブンではないからこの火力でどれだけ焼き時間が必要かわからなかった為、困ったときの【英知の結晶】様に尋ねてみれば10分とのこと。


 薬を作る為に手製した砂時計を置けばそれを何時の間にか来ていたケイムさんが凝視する。


 どう言う用途のものかと尋ねられて説明すれば義父と何やら話始めた。

 そうこうしている間にさっそく焼きあがったパンはイメージ通りのパンだった。


 「とても良い匂だ」

 「ししょくしよです!」


 私がパンに手を伸ばすと危ないからとカイルに止められた。

 まずはと恐る恐るコック長がそれを食べた。

 無言。

 え?材料を見る限り失敗はないと思うけどと内心焦る。


 「……………うまい」

 「え?」

 「物凄くうめーーーなんだこりゃ!?」

 「コック長!わ、私達にもッ」


 他のコック達が試食を希望し出す。

 待って待って、そんなに取られたら私の分がなくなるッ。

 慌ててカイルに5つ持ってきてもらう。

 1つは自分用、2つは義父と執事さん、残りはケムイさんにと思ったがちゃっかり1つ確保しているようで余った2つはカイルとナイシードに渡した。


 「美味しいッ、こんなフワフワのパンは初めて食べたよッ!!」

 「うまっ!」

 「美味しい!」


 義父やカイルとナイシードの反応も良好だ。

 これまでの態度を謝罪したコック長がすぐにあの秘密の薬とレシピについて質問してきた。

 酵母について教える事は問題ないけれどレシピに関しては教える事に躊躇した。 

 出来ればまだ広めたくない。

 確かに以前のものよりも全然美味しいけど、やっぱり小麦粉が良くないようだ。

 味に納得がいかない。

 これはまだ未完成だからと言えばそれでもいいからと言われて困ってしまう。


 どうしようかと思っていれば義父に呼ばれて執務室へと移動する。


 「ユフィ、あの薬は簡単に作れるのかい?」

 「はい」

 「レシピが完璧じゃないっと言う理由は何かな?」

 「………もっとおいしくなるです」

 「あ、あれ以上に?」

 「はい」

 「そうか…………ユフィは納得してないから公表はしたくないんだね?」

 「です」


 職人魂なんてものは持ち合わせてないけど、できれば完璧なパンを作ってから教えたい。

 だけど、現状それをすぐに解決できないのは分かっているからあのパンを屋敷の中で作る分には良いからとコック長だけに製作方法は教えることにした。

 秘密の薬はあくまで門外不出、一生フレイムグラス家のコックをすると言うコック長だけに伝授する事にした。


 そこから砂時計の販売、時計と言うものの話になった辺りでまた黙られてやらかしたと気が付いた時には既に遅く、それから数日後には王弟が来て更にその数日後には試作中の懐中時計存在がバレてそれを作る羽目になり、更に数か月後には王都の中心部に大きな時計塔が建築された。

 それと同時に本格的に懐中時計や腕時計の販売がケイムさんの商会から始まる事になり瞬く間に国外からも取引希望が来始め大繁盛するの事になったかとかなんとか。

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