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プロローグ

2024.3.23


 朝、目が覚めるとベッドから飛び降りて窓を開けてテラスへと出る。

 何度見ても数ヵ月前から変わらない緑豊かな領地が広がっていた。

 ココは以前自分が住んでいた場所でも国でもなく、何だったら世界までも違うのだと言う事を理解はしたが未だにコレが現実なのだと慣れない自分がいる。

 以前、否、前世で自分が住んでいたのは築70年と言うかなり年季の入ったアパートの四畳半の部屋でギリギリの生活をしながら日々仕事に追われ心身共にボロボロな30代後半の独身喪女。それが前世の自分だった。


 覚えているのは連日続く夜勤に身体も心も限界でフラフラしながら帰宅している途中、近所の公園でたまにコッソリ餌をあげていた猫が道路の真ん中で蹲っていて動かなかった。そんな猫に向かって恐らく速度違反しているだろう車が迫ってきているのを見た瞬間、無意識に身体が動いた。

 ドンッという強い衝撃を受けたのを最期にそこから記憶がない。


 あり得ない事が我が身に起こった。

 私はどうやら転生したらしい。


 五歳の誕生日を家族に祝って貰った翌日、目が覚めると前世の記憶を唐突に思い出したのだ。


 子供の小さな脳の中に一気に前世の記憶と言うなの大量の情報が入ったせいでキャパオーバーして原因不明の高熱を出し三日三晩寝込む事になった。

 眠ってい間に思い出したのは、今いるこの世界が恐らく前世で愛読していた小説の世界だと言う事だ。

 それと同時にとんでもない事にまで気が付いて絶望した。

 私が今住んでいる領地が数年後には戦場となるのだ。


 私の今世の名前はユフィーリア・フレイムグラス。小説の序盤に地の文で説明される『全ての始まり』とされる隣国カサブレア王国が最初に攻め入ったイシュガレリア王国北西部にある辺境地ケスニア領地の領主、イーサン・フレイムグラス男爵の義理の娘である。

 記憶が戻るまでは恥ずかしい事にかなり我儘で癇癪持ちな子供だったから知らなかったけれど、記憶が戻れば知らない情報を思い出した。

 確か、イーサンの親友夫妻が事故で他界した為に2歳の幼い娘を引き取り養女にしたと設定資料に添え書きされていた。恐らくそれがユフィーリアである今の私の事である。


 ケスニア領地をカサブレア軍に攻め落とされた際、処刑される領主一家の子供に転生したのだ。


 小説の中で特に詳しく語られる事もなく、ただの地の文で不幸な男爵一家がいた程度に紹介された存在。当然、イーサン以外には名前も無ければキャラクターとして登場すらしないモブ中のモブキャラクターだ。


 自分の名前だけでは特定は出来なかったが領地の名前でピンときた。


 情報を漸く理解した時、どんなに薬を飲んでも一向に下がらなかった熱が引いた。

 目が覚めると傍らにいた両親は涙を流し喜び、普段は私を嫌って距離を取っていた義兄までも両親同様に涙を流しながら安堵した様子でそこにいた。そんな家族の姿を見たら余計に泣きたくなった。

 まだ五歳だ、なのに三年経って八歳になったら死ぬ事になる。


 せっかく転生したのに流石に早すぎる余命宣告だった。

 前世が三十代後半なんてまだ一般的には若くして死んだんだから奇跡的に二度目の人生やり直しのチャンスを得たと言うのな今度はもう少し長生きしたかった。

 前世のように無理しないで、もっと色々な事をしたいと思ったのに流石にコレはない。


 記憶が戻る前はお転婆な子供でよく外に出て走り回っていたけれど、体調が良くなっても私は外に出る気力もなくなりずっとベッドの上で過ごすようになった。

 無気力まさにソレだった。

 高熱のせいで心臓に負担がかかったとかで激しい運動が出来なくなったと言うのも1つの理由だが、一番の理由は迫る無残な死を迎える自分の未来。


 ずっとこのまま普通に過ごして三年が経過すれば処刑される。

 そんな事を知らされて以前のように過ごせる訳がなかった。


 無気力にただご飯を食べて生きているだけの人形のようになった私を救ってくれたのが7つ年上の義兄だった。


 「ユフィが元気じゃないと僕も元気が出ないだ」


 ある日部屋を訪ねてきた義兄ルーディアスは私の手を握って辛そうに言った。

 何かあるなら話して欲しいと。

 言ってもどうせ信じてくれないだろうし意味がないと私はそう思った。

 ジッとルーディアスを見れは更に辛そうに顔を歪めて涙を流す。


 「ユフィ、僕を見て。お願いだからッ」


 ちゃんと見ているのに何を言ってるんだろうと思った。

 だけどルーディアスは何度も繰り返し自分を見て欲しいと言う。

 痛い程強く握られたルーディアスの手と辛そうな顔と涙を見ていたら子供を泣かしている最悪な気分になった。

 そしてある事を思い出した。

 前世では両親を早くに亡くして施設で生活していた。

 物心付く頃からずっと1人だった。

 家族がいる友人達を羨ましく思い、家族を大切にしない奴にはよく腹も立てていた。

 あるのが当然なんて思っている奴等が私が酷く許せなかった。

 私が欲しくて欲しくて堪らないソレを持ってる癖に大切にしない人間が嫌いだった。


 そんな嫌いな人間に自分がなっているとその時気が付いた。


 「………にい……さま」

 「ユフィッ!?ぼ、僕が分かるかい!?ちゃんと見えてる!?」

 「……はい」

 「よかッ、良かったッ!!ユフィッ!!!」


 ルーディアスはベッドの傍にあった椅子から勢いよく立ち上がると傍に来て強く私を抱きしめた。

 その温もりを感じて漸く私はこの世界を見た気がした。

 ココは確かに小説の世界と同じなのかもしれないが、私がココにいる時点でもうそんなのは違う世界だと勝手に思う事にした。

 これから起こる事を知っているけれど、それを変えたら駄目なんて誰にも言われていない。

 だって仕方ないじゃない、こっちは命がかかっているのだ。

 全力で回避して何が悪い。

 それに、まだ本当に起こると決まった訳じゃない。

 類似しているだけで物語通りに進まないかもしれない。

 何もしていないで諦めには勿体なさすぎる。


 私は数多にある小説の中でも一番愛読していた小説【悠久の彼方へ】略して【悠彼】のファン達の間では神とまで言われた愛読者である。

 小説の中で起こる事案等の年号や詳細は設定資料やら作者や出版社のHPに上がる細かな情報まで全て把握している。何だったら季節に時刻、天気までも網羅している猛者であると自負している。

 やってやれない事はない筈だ。


 何かが私の身に起きているのだとまだ12歳なのに敏いルーディアスは気が付いて、どんな事でもいいから話して欲しいと何度も言われので、私はこの世界で起きる事の確認をする為にも予知夢を見たと言う体で設定資料にあった情報からこれから起こるだろう事件の1つを話す事にした。


 「ハルオンってところでね………すたんぴーどがおこるの」

 「えッ!?」

 「そこでね……おうじさまのたいせつなひとがしんじゃうの」

 「!!!」

 「まっくろなきのはこのまえで……おうじさま……ないてたの」


 それは小説のメインキャラクターの一人であるこの国イシュガレリア王国の第二王子の回想で語られる第一王子の悲しい過去の話。

 ハルオンと言う領地で彼の母親である現王妃が療養の為にそこにいた時に起きた悲劇。

 今が春、恐らくソレが起こるのはもうすぐである。


 「ユ、ユフィ……その、王子様はどんな感じの人だった?」

 「………きんいろのかみであおいおめめで………ゆびをかんでた」

 「ユフィッ、ちょっと待っててッ!!」


 私の言葉を聞くなりルーディアスは顔色を悪くしながら部屋を飛び出していた。

 気味悪がられたかもしれないとすぐさま後悔した。

 流石に無理があるかと今後どうフォローしたらいいかと必死で考えているとルーディアスはまさかの義父を連れて部屋に戻ってきた。

 そんな大事にしちゃう!?と私は更に焦る。

 ルーディアスから話を聞いたらしい義父の顔色も無茶苦茶悪い。

 どうしようどうしよう、嫌われたくないと何かを口にしようとした時だった。


 「ユフィ、体調はどうだい?」

 「え?……だいじょうぶ」

 「良かった、それで……ルディから聞いたが……とても怖い夢を見たんだって?」

 「………あ、そ、その」

 「お父さんにもう一度話してくれないかい?」


 優しく促される。

 どうやら私が心配していたような事態ではないようだ。

 内心安堵しながらルーディアスに話した内容をもう一度口にした。


 「父様、とても夢として無視するには聞き流せない話です」

 「確かにそうだね………ユフィ、夢に出て来た、えっと……その王子様の大切な人はどうしてそこに居たか分かるかい?」

 「ごびょうきだっていってた」

 「ふむ」

 「け、けど」

 「ん?」

 「そのごびょうきも……そばにいるめいどさんがないしょでわるいおくすりをおしょくじにいれてるからなおらないの」

 「なッ!?それは本当かい!?」

 「う、うん……あかいかみのけでくびに……くろいまる?……のあるめいどさんがずっとわるいことしてるっていってた」

 「これは……確かに無視するには………ルディ、あの方から何か話は聞いてるかい?」 

 「はい、ユフィの言った通り何処に療養に行くようで暫く会えなくて寂しいと」

 「何時からかは聞いたかい?」

 「詳しくは何も」

 「そうか………私はちょっと王都に行ってくるよ」


 いざ口にしてしまったが今更後悔してきた。

 思っていた以上に大変な事をしてしまった気がした。

 もっと他に方法があったのではと考えてしまう。


 だが、この事がこの世界が小説の世界と同じなのだと判明する切っ掛けとなった。

 私の話を聞いてすぐに動いた義父は王都へと急いだ。後から知った事だけれど、どうやら義父は何と王弟と学生時代からの友人関係だったらしく、私から聞いた話をすればすぐに城に一緒に行って国王に話をして確認をしたらしい。

 小説の設定通り王妃付き赤毛のメイドが王妃の食事やお茶などに微量の毒を入れていた事が判明した。そのメイドの首には確かにホクロがあったそうだ。


 こうしてあの日から私の第二の人生が本当の意味でスタートした。

 折角得た第二の人生、前世よりも更に若い子供のまま、しかも斬首刑なんかで死にたくない。

 これは私が異世界で第二の人生を幸せに長生きする為の物語である。

良かったらお暇潰しに読んでやってください。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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