俺は俺らしく!!?
公園からの帰り道──三体の人形の結界に閉じ込められた俺。
結界から脱出することも、反撃するどころか逃げることも出来ないまま、腕を負傷し命の危機にさらされている。
……というか、もう絶体絶命だ!
ただそこに立っていることで精一杯の俺。
残酷な笑みをうかべる人形たち──。
『何を弱気なことを言っている? その位の傷で……』
呆れたようにそう言う白叡に、俺はあえて叫びたい……!
“その位だろうが何だろうが、痛いもんは痛いんだよッ!!”
と。
……いや、心の中で叫んだだけでも十分白叡には聞こえているはずだが。
そんな俺らのやり取りなんて知る由もない人形たちは、俺の周りを旋回するのを止め、動きを止める。
そして、日本人形がクスクス笑いながら、俺を見下ろし……
「紅牙ァ~早く言っちゃいなヨ~? 今言えば、まだ楽に殺してあげんヨ??」
──結局、答えた…答えられたとしたって、俺には死が待っている!!?
それでも、知らないものは答えようがない。
そう言っても見逃してはくれないだろうけど。
……俺は、どうしたらいい?
このまま大人しく殺される?
いや、それは嫌だ!
絶対に嫌だ……!!
傷の痛みに耐えつつ……俺は黙ったまま、人形たちを(弱気ながらも)見上げるように睨みつけた……!
──しかし
俺が睨みつけたところで……怯むような人形たちではない。
むしろ、逆効果……か?
そんな考えがふとよぎった時、
「──……反抗的な目だな。……どうしても言わないつもりか? 貴様」
フランス人形が苛立ちと怒りを滲ませつつそう言うと、とうとう今まで無言だったうさぎが口を開いた……!
「──どうやら楽に死ぬ気はないようだね。まぁ、その方が丁度良い──じっくりと…いたぶって……殺してあげるよ」
低くて艶やかな声──そして、造りこそ可愛らしいが小汚いうさぎのぬいぐるみ……とは思えないS的セリフ!!
──やはり、逆効果だった。
どうやら俺は火に油を注いでしまったようだ。
しかも、何か別のスイッチまで入れてしまったかもしれない……!?
恐怖と悪寒を覚えた俺。
それを見て、このSうさぎは残酷な笑みをうかべている!
──……最悪だ。いろんな意味で。
「恐怖と絶望に染め上げてあげるよ……それが私の至高の悦び……ッ!!」
Sうさぎは高らかにそう言い放ったが……
お前のそれは“至高”というか……“嗜好”だろ?
だが、俺はそのツッコミをぐっと我慢するしかなかった。
そして、残酷な笑みをうかべたままのSうさぎの前には……まるでナイフのような光がいくつも出現した!!
もちろん、その鋭い切っ先は俺に向けられ、いつ飛んできてもおかしくはない。
そして、他二体も同様に光のナイフを出現させている……!?
このままでは、俺は切り刻まれて……!??
いやいやいや……ッ
Sうさぎはもちろん、他二体まで悦らせる気はないぞ!!
だけど……こいつは、避けられそうにない。
いつ、どこから飛んでくるかすらも分からない。
容易に出来た、俺の死亡予想図──!?
──ッ!
もう……
もうダメだよッ
……助けてくれ!!
白叡!!
──……ツナ缶あげるからッ!!!
『…………まぁ、これは今のお前じゃ……無理だな』
「!!」
ツナ缶が効いたのだろうか、ぼそりと聞こえた白叡の溜め息混じりな声……!
だが、同時に俺目掛け光のナイフが次々に飛んできた!!
俺には絶対に避けることなんて出来ないスピード。
しかもこの数は、たとえ俺が俊敏だとしても避けようがない!?
人形たちから放たれた光のナイフは、ものすごい勢いで俺に迫る……!!
俺まであとほんの数ミリ……!
もう刺さるッ!!?
命の危機に、まるでスローモーションのように見えた視界……──その時だった。
ポゥ……
「……え??」
俺の体から淡い光が──!?
次第に増す光に、迫る光のナイフ──!
だが……
パシィ…ッ!
「!?」
人形たちから放たれた光のナイフが、この光に触れ……次々に砕け散った!!
「何ッ!??」
人形たちも驚きを隠せずにいるが、俺も十分驚いている。
……どうやら、間一髪で間に合ったのか!?
まるで、バリアのように俺を守っている光──……もちろん、白叡のおかげ。
だが、人形たちがこれで諦めるわけがない!
さらに出現した光のナイフ……!
その数は先ほどよりはるかに多い!
そして、息も着かせぬ勢いで次々に飛んでくる!!
──だが、それでも。
人形たちの攻撃はバリアを破ることも出来ず、俺まで届くことなく……すべて砕け散っていく。
やがて──……人形たちの顔色が変わった。
「……やってくれるじゃない?」
「──流石は紅牙……人間の姿でもこの妖力……」
日本人形とフランス人形が、そう忌々しそうに言うが……
“いや、俺の力じゃないから”
とは、言えない雰囲気……?
「──これは……殺し甲斐がある!」
殺気のこもる声音に、妖しく光ったSうさぎの瞳……!
明らかにヤバそうな予感??
血の気が引くような思いでいた俺だが……白叡は黙ったまま。
そして予想どおり、さらに最悪な事態に──…!?
「──来い!」
Sうさぎの言葉と同時に、日本人形とフランス人形から、何か人魂(?)のような青い光の塊が出てきたかと思うと……そのままSうさぎに吸い込まれた!??
そして、光を失い抜け殻となった二体の人形は力なく地面に落ち、黒い霧になって散っていった……──!
「……最悪だ…」
見るからにヤバそうな雰囲気に思わず呟きがもれた俺。
目の前には、三体の妖怪が合体したS…いや、スーパーうさぎとなったソレ。
さらに燃え上がるような妖気(?)と殺気を放ちながら……
俺を射抜くように見据えていた──!
──これは……本気で俺を殺すモード?
『……まぁ、そうだろうな。だが……一体化してくれたほうが都合がいい』
いやいやいや……!
俺にとっては何一つ良くないよ!?
たとえ一体でも、パワーアップした一体ではバラの時よりはるかに厄介だぞ!??
焦る俺に、白叡は改めて……
『……宗一郎、お前は自分の身を守ることだけ考えてろ』
……ッ
その言葉は…声音こそいつもどおりだったが、どこか重いものがあった。
どう捉えていいか分からないほどに……。
“自分の身は自分で”
もちろん、それが基本的なことだと分かってるけど──
『──余計なことを考えなくていいと言っている。殺られたくはないだろ?』
そりゃあ、もちろん!
こんなところで死ぬ気はない……!
『……なら、とにかく避けろ』
そう念を押され、我に返った俺が改めて、Sうさぎに視線を戻せば……
妖気も殺気もMAX状態──?
もう確実に、一撃必殺の構えだ!!
──……こいつの攻撃を避けるのか?
避けきれるのか??
自分に問いかけてみても……
──やっぱり、無理??
いや! 避けろ!! 俺ッ!!
そう奮い立たせるように、俺は自分に言い聞かせた。
だが、それとほぼ同時に、Sうさぎ…いや、大きな光の玉となったそれが俺に向ってものすごいスピードで突進してきた──!!
迷いを捨てろ! 俺!!
避けろッ! 俺ッ!!
迫り来る光の玉に…避けることに全神経を集中させる──!
……今だッ!!
「──ッ!!!」
俺は間一髪……かなりギリギリで身をかわした!!
──その瞬間。
『よくやった、宗一郎』
白叡の声──!?
その言葉が聞こえたのと同時に
シュッ……
「え……?!」
俺の左手からようやく白叡が飛び出した……!
その間、Sうさぎは俺に攻撃を避けられ再度攻撃態勢に入ろうとしていた。
そこへ、白叡の鋭い攻撃が──!!
ガッ……!
それは、高エネルギー体同士のぶつかり合い──
「なっ……!??」
Sうさぎが吹っ飛んだ!!
だが、すぐさま体勢を立て直そうとするSうさぎ。
それより早く、白叡の次の一撃が……!
ザシュ……ッ
──一閃。
白叡の一撃はSうさぎの首を妖気ごと切り裂いた。
「……ま…さか……飯綱が…──??」
驚愕した表情で、呟くように最期の言葉を残し……Sうさぎは黒い霧となって消えていった──。