透けて見えるもの!!?
紅牙の隠れ家、宴終盤の報告会──俺の番。
「…………俺、夢でだけど」
視線が集まる中、一呼吸おき……意を決して切り出す。
「紅牙に会った」
「「「「はぁ!?」」」」
皆の声が見事にハモった。
そして一瞬の沈黙の後
「……ちょっと待って、どういうこと?」
「思い出したってこと……か!?」
前のめりに聞いてくる篝と天音に
「い……いや、そういう感じでは…ない、かな」
思わず曖昧に返事をした途端
「「「「そう/か……」」」」
この場に流れるあからさまにガッカリした雰囲気! 前にもあったぞ!?
だが、気を取り直し……改めて、俺はあの場で意識を失った後見た状況について話した。
全面鏡の空間で鏡越しの紅牙に会ったこと。
紅牙と話をしたこと。
記憶に関しても、覚醒に関しても言及が無かったこと。
そして、紅牙の妖刀・羅刹を手に入れることで何かが分かること。
ただ、紅牙の本心──仲間への想いに関しては言わなかった。いや、言えない。
これは紅牙の…俺たちの心にしまっておく。内緒、だ。
「…………」
俺の話を真剣な面持ちで黙って聞いていた彼方。そして、
「なるほどな……」
「相変わらず、という感じだし…… 紅牙で間違いなさそうだね」
納得したように頷く天音と幻夜。と、その横から篝が
「怖かった?」
「え?」
「大きくて、目付きとか…雰囲気怖かったでしょ」
どこか期待する茜色の瞳をまっすぐ向けられ、俺の脳裏に一瞬紅牙の全体像と怒鳴られた時の様子がよぎる。鏡越しとはいえ、あの威圧感と迫力は……
「……まぁ、うん」
「「だよねぇ」」
「「だろうね/な」」
俺の答えに全員頷いて納得した!?
…………だが、どこか釈然としない俺。
「第一印象良くないタイプなんだよね」
と笑う篝に、
「面白いのにね」
と彼方は小さく笑い、俺をちらっと見た。
あ……いや。
彼方が今見たのは──俺じゃない。
俺を通した“紅牙”だ。
「……っ」
なんだろう……この、ざわりとした感覚は。
「……宗一郎、大丈夫かい?」
「え!? あぁ……うん」
俺の様子に気づいた幻夜に小さく声をかけられ、慌てて答える。
そんな俺たちのやりとりに気づいたかは分からないが、天音が切り出した。
「じゃあ、まず紅牙の刀を取り戻さないとだな!」
「でもどこに……」
「知ってるよ」
聞き返そうとした俺の言葉に被せたのは彼方。そのまま俺をまっすぐ見て微笑んだ。
「は?」
「紅牙の妖刀を打ってくれた刀匠のとこにあるよ」
「じゃあ、そこへ行けば……?」
驚く俺に彼方はもちろん、他全員が頷く。
……ということは、刀の現在の在処をこいつらは知っていたのか。
「オレ、案内するよ。明日の朝出発でいい?」
「はぁ!? おまっ…また……」
彼方の言葉に天音が慌てるが、彼方はどこ吹く風。
「行くしかないじゃない。てか、オレが一番適任でしょ?」
「……それはそうかもだけど」
有無を言わさぬ眼差しに天音は黙るしかない。それを見て満足そうに
「はい、決まり♡」
にっこりな彼方。篝と幻夜も苦笑しつつ頷いた。
どう適任なのか聞きそびれたが、刀匠を訪ねに明日の朝出発は決定事項。
「その刀匠の所って遠いのか?」
「んー、そんなに遠くはないよ」
彼方はそう言うが、こいつらの感覚が俺の常識と同じとは限らないことはもう経験済みだ。
また険しい道を歩かされる覚悟を決めつつある俺。その横から
「僕は一旦用事を済ませてくるよ」
幻夜が離脱宣言をし、篝も複雑そうな表情で
「あー……ボクもパス」
「あぁ、だよね」
彼方が意味深に苦笑しつつ、頷く。
「?」
そして当然のように
「天音は行くでしょ?」
これには天音も渋々頷きつつ
「今のお前らだけじゃ心配だし、通り道だからとりあえず近くまで一緒に行くけど……早く戻らないとヤバいぞ?」
「こっちの方が大事でしょ」
「それはそうなんだろうが…もうフォローしきれねぇよ……」
「じゃあ……妖刀の件が片付いたら戻るよ。それまで天音がなんとかしておいて」
「…………ほんと、無茶言うなぁ」
ガンとして折れない彼方、肩を落とす天音。その様子に憐れみを込めた苦笑を向ける篝と幻夜。
流石にもうかわいそうになってきたぞ……?
「ていうか、彼方も紅牙も妖刀持ちって……この世界にはそんなに妖刀ってあるのか?」
居た堪れなくなって話題を変えようとした俺の質問に、皆が顔を見合わせてから
「数は少ないな」
天音の言葉に幻夜が頷くと
「妖の中でも妖刀みたいな特殊武器を所持してるのは、極限られた実力者のみだよ」
「ちなみに、大体はオーダーメイド。あと、基本的に刀が多いけど、刀以外にも存在よ」
その彼方の言葉に、天音が篝をチラッと見て
「篝の妖金剛もその類いだな」
「ボクのは……まあ、うん…そうだね。だいぶ特殊だけど」
ちょっと複雑そうな苦笑をうかべた篝。
まぁ、確かに形状が多種変化する武器はかなり特殊だろう。
そもそも、妖刀じゃないにしても武器を所持してることが人間としての俺からしたら非日常なんだよな。
大体、刀って……他人が使ってる分には実感がイマイチだが、自分が手にした時どう思うか。
刃物だぞ?
人を斬れる……殺せる道具。むしろそのための物だ。
殺らなければ自分が殺られるような場面でそんなことは言っていられないのだが、改めて考えるとちょっと覚悟がいる。
それに、今まで目の前で見てきたこいつらの戦い方って……
「なあ……首を斬らないとダメなのか?」
「え? あぁ…基本的に首を斬らなくても死ぬよ。ただ、確実に殺すためには首だね」
彼方が明るく答える。この感じはまだちょっと慣れない……。
「てことは首じゃなくてもいいのか」
「んー…少なくとも“鬼”は首を刎ねた方がいいね。変に復活されても困るじゃない⭐︎」
当の鬼がそう言うなら、そうなのかもしれないけど。
「……変に復活することもあるのかよ」
「“ない”とは言えねぇから、タチが悪いんだよなぁ」
天音が迷惑そうに付け加えたが、確かに昔話とかアニメや漫画とかでも妖怪…鬼の首を斬って退治する的なのがあった気がする。
「まぁ、僕ら…特に彼方クンたちは首を狙う方が効率が良いからそうしているだけで、じっくり戦闘ったり嬲り殺したかったら最後に残しておけばいいんだよ」
「怖ッ」
そんな、“嬲り殺す”を当然のように言われても……!
……なのに
「んー……紅牙が一番そうしてたんだけどねぇ」
彼方の苦笑混じりの言葉に他全員が力強く頷いた。
「…………」
──俺は聞いたことを後悔した。
・
・
・
その後。まだ仲間たちが談笑している中、俺は外の空気を吸いに一人縁側へ。
小さな灯りをそばに置き、腰を下ろす。
辺りは月明かりで思ったより明るかった。
ただ目の前に広がる森の方は暗闇。鬱蒼とする木々の奥から、たまに聞こえる謎の鳴き声は野鳥…だと信じておこう。
見上げれば、澄んだ夜空にたくさんの星と、もうすぐ満ちる月。
なんだか、色々起こり過ぎて空を見上げる余裕もなかったけど、流石に幻妖界の星空は俺の知ってる空ではない……おそらく、人間が手放した本来の夜空。
背中の障子越しには微かにあいつらの話し声が聞こえる。
俺は視線を落とし、風に揺れる木々を見つめていた──。
ふと、紅牙と話した時のことが脳裏をよぎる。
本当に俺にできるのか?
本当に俺は真実を受け入れられるのか?
それでも前に進むって決めたのは、俺だ。
羅刹を手にして何が分かるのか、何が変わるのか……今考えても仕方がない。
まずは彼方たちの言う刀匠のところへ行かなければ。話はそれからだ。
改めてそう心に決め、再び月を見上げる。
まだ満月ではなくとも十分に明るく、輝いていた。
青白く冷えた月から降り注ぐ月光──
「……!」
…………あれ?
一瞬、脳裏をよぎった断片的な映像。
キラキラと月光を纏って揺れた…………髪?
「宗一郎」
「!?」
庭側から声をかけられ、思わずビクッとしてしまったが、
「幻夜……か」
物陰から縁側に向かって歩いてくる幻夜。
月明かりにその金色の髪と美形が映える……が
「宗一郎、ちょっといいかい?」
その表情はいつもより固い。
「? 改まってどうした?」
「僕はこのまま先に、隠れ家を立つことにしたよ」
そうか、さっき“用事を済ませてくる“って言っていたな。
もしかしたら、星酔の件の後始末的なものかもしれないけど。
「それで、その前に一応言っておこうと思って」
「?」
俺の目の前に立つと、
「宗一郎が実際どんな話をしたかは分からないが、僕にも紅牙には直接言いたいことがたくさんある。でも……まずは君に言うことにした」
「え!?」
思わず身構える俺。
幻夜は静かに眼鏡を外し、その紫瞳で真っ直ぐに俺の目を…俺の中の紅牙をも見つめると
「確かに僕らは、紅牙を中心に集まっていた。だが、仲間を繋いでいたのは彼方クンだよ。彼方クンがいたから僕らはバラバラにならなかった……分かっているだろう? これ以上僕らを…彼方クンを待たせるな──」
声音こそ静かだが……重く、響く。
「君…お前は忘れているふりをしているのかもしれないけど、なかったことにはならない」
……!
「僕たちは大切な仲間…大事な居場所を必ず守ると誓ったはずだ」
眼鏡越しではないその眼差しが、あまりにも真摯で──そこに在るのは、偽りのない想い。
「僕は……僕らは変わらないよ」
変わったのはお前だろ、そう言われた気がした。
「幻…夜……」
言葉を探している俺に、幻夜は小さく溜め息をつくと
「まぁ……とりあえずは、羅刹を取り戻しておいで」
そう言って眼鏡を掛け直し、口元には嘘くさい笑み。
「それじゃ」
と、重い言葉を言うだけ言って、幻夜はそのまま森の闇に消えて行った。




